リサイクルオリンピック!

御戸代天真

リサイクルオリンピック!

リサイクルオリンピック!

 20○○年。世界中の人々がルールを守らずに多くのゴミを捨てていた。

 海や山には不法投棄が相次いで行われ、珊瑚礁は絶滅し、野生動物達の棲家もなくなっていった。酷いところでは、国土の5分の1がゴミで埋まってしまう国もあった。

 とある専門家の話では、かつて青い星と呼ばれた地球が灰色の惑星と呼ばれるのも時間の問題であろうと語られていた。

 緊急で行われた世界会合では、この問題をどうすればいいものかと、国連の幹部達が頭を抱えていた。そんな中、こんなものはどうだろうかと、一人の大臣がアイデアを出した。

「例えば廃棄予定、もしくは捨てきれず困っているゴミを使って、スポーツ大会をするというのはいかがだろうか?」

 あいつは何を言っているんだ? という周りの顔を見ながら、大臣は話を続けた。

「そもそもなぜ、このような現象が起きているのか。皆様は理解されておりますかな?

 ゴミ処理とは、大抵誰もがしたくないものだ。悪臭の中に入り込んだり、重いものを持ったり、高くない給料で過密な労働を強いられるのだからと言われております。だからと言って、今更給料を高くするからと言っても、反感を買いかねない。そこで、その処理を一種のスポーツとして大会にしてみるのです。そうすれば人々の捉え方や考え方が変わると私は思うのですが、皆様はどう思われますかな?」

 初めは怪訝そうにしていた各国のお偉いさんも、話を聞くうちになかなか面白い案だなと、深く腰掛けていた姿勢を変え始めた。

 そんな中、一人のとある国の大臣が発言した。

「なかなか面白そうじゃないか。スポーツの大会にするなら、IOCを呼びましょうよ。権利やらなんやらがあるのは向こうだからね。

 だが仮にするとして、どのような大会にするのかね? 費用や種目はどうするのか考えているのですかな?」

 発案者の大臣が答えた。

「そうですね、例えばこのような種目はいかがでしょうか?――」

 

 それからというもの、招集されたIOCの代表を含めて、まるで子供の文化祭の出し物を決めるかの如く大賑わいで、夜通し会議が進められた。

 

 ――数年後――

 

「さあ、リサイクルオリンピック。ペットボトルキャップベースボール。ここ東京ドームで日本対アメリカの真剣勝負が行われています」

 実況席でアナウンサーが手に汗握る解説で、テレビを見ている視聴者の心を揺さぶっていた。

「さあ! 3対2。5回裏2アウト満塁。日本代表4番の大原。逆転のチャンスです。

 対するはここまで対戦国を圧倒してきたアメリカ代表、先発のジョナサン。この決勝では、唯一得点を許しています。

 そのジョナサンが振りかぶって、投げた!」

 放られたペットボトルのキャップは、まるで新幹線のように一直線に進んだ。

「日本の大原がボトルをフルスイング、が、おーっとキャップが急降下。大原のボトルは惜しくも空を切ります」

 キャップはまるで見えない糸に引っ張られたかのようにホームベースの真上で急降下して、キャッチャーのミットに収まった。

 大盛り上がりをしているこのスポーツは、ペットボトルキャップベースボール。

 通常の野球ボールではなく、捨てられたペットボトルのキャップを利用し野球をする。ピッチャーが放るキャップは、野球のボールと比べて小さく体感速度も非常に速い。そして指の掛け方一つで、ありえない角度で曲がったり落ちたりするため非常に打ちずらい。

 バットの代わりに使われるのが、こちらも捨てられた空の2リットルのペットボトルだ。これといって特徴はないが、透明なままだと面白みがないからと各国が国旗の色やマークを入れて使っている。

 選手が使用するグローブは捨てられたカバンや革靴を再利用したもので、各ベースは捨てられたソファーに色を塗って仕上げて、動かないように廃材の金具と一緒に埋め込んでいる。

 

 会場は変わり、ここはニュージーランドのとあるラグビー場。

 黒色の歪な形をしているラグビーボールをめぐり、屈強な男達が体をぶつけ合っていた。

 これはスクラップラグビーと呼ばれていて、通常のラグビーとルールはほぼ同じだが、ボールに秘密があった。廃タイヤや捨てきれずに残ったゴムの廃材を固めて作ったものであるため、ボールによっては硬かったり柔らかかったり、そして形もでこぼこしているため、蹴るのも投げるのも非常に扱いが難しいものだった。

 このようなリサイクルを通じての国の代表選手の競い合いが、今世界中で行われていた。

 通常のオリンピックならば、4年に一回一つの国で行われるが、各国のゴミ処理を行うのが一番の目的のため、スポーツごとによってそれぞれの国で行われているのだ。

 南米では、制限時間3時間で、廃棄されたゴミをどれだけ決められた場所に集められるかを競う、キャリーマラソンが行われていた。制限時間以内ならどこへいっても問題なく、各選手の靴に内蔵された計測器で走った距離を測り、集めたゴミの量と合算させて、総合的な順位を決める。

 選手の中には、捨てられた衣類を何枚も重ね着して走って持ってくる選手もいれば、両手と頭に大きなプラスチックゴミをくくりつけて持ってくる選手もいた。


 このリサイクルオリンピックは大盛り上がりで、一ヶ月かけて行われた。その最中、テレビカメラは各国の風景をそれぞれ写した。そこにはかつての景色と今の景色を比べたものもあった。中には見る影も無くなってしまったものもあったが、スポーツを通じて綺麗になっていく様子を見て心が動いた人達は、ビニール袋と軍手を持ってゴミ拾いに向かった。その様子をニュースで知った人達もまた、近所のゴミを拾いに向かった。

 

 この時の記事を載せた新聞のコラムには、こう書かれていた。

『灰色の惑星になりかけた世界が澄んだ美しい青色に戻る日も、そう遠くはないだろう。過ちから学んだことが、未来を形作る。筆者はさほど得意ではなかったが、義務教育の一つである社会、歴史から学ぶというのがいかに大切かを痛感した。だが、そこに一抹の不安がある。不法投棄などは言語道断ではあるが、〈突き詰めすぎた正義が、正気の沙汰ではなくなってしまうのではないか〉ということだ……。筆者の杞憂であればよいが、分別もほどほどに』

  

 今大会でも、各種の競技で素晴らしい成績を納めた選手達へオリンピックメダルが授与されることになっている。

 授与するのは、今大会の委員の代表だ。選ばれた彼は日頃からサスティナブルに関心があり、より良い社会への発信をしていたのだ。

 代表は壇上に上がり、金色に輝くメダルを優越感と爽快感に満たされている選手の首にかけた。受け取った選手は目を輝かせ、満面の笑みに涙を浮かばせた。

 記者の前に立つとお決まりのメダル噛みをして、その姿をカメラに納められた。

 授与式が終わり、その場から去ろうとした選手を代表が呼び止めた。

 代表は駆け寄ると、授与した選手の首から躊躇なく金メダルを取り上げた。

 とっさのことに驚いた選手が、代表を咎めた。

「何するんですか! 私のメダルですよ」

 すると代表は、ポカンとした表情で答えた。

「何でって、このメダルは次の受賞者に渡すから」

 そう言われてメダルをよく見たら、歯型がいくつも付いていた。

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