ノンデリの神
銀
暴れん坊、現る。
弟が嫌いだった。
ケンカなんてしょっちゅうだった。
大人になって兄弟と同じ家に住むのはやめておいた方が良いと思う。
私の経験上、ロクな目に遭わないから。
アイツはノンデリの化身だった。
全く気を遣わない、ノンデリの神だった。
コツコツ勉強してお金を貯めて、やっと自分で興せたファッションブランドが軌道に乗った頃、アイツはうちに転がり込んで来た。
オフィス兼自宅だった私の家は、たった数日で汚く、酒臭くなった。
私の家へ出勤して来る部下達も、散乱したゴミと異臭に眉を顰めていた。
末っ子のアイツはワガママ放題だった。
私が疲れていてもお構いなし。
大声は出すわ、酒を飲んで暴れるは、酔って失禁はするわ。
最悪だった。
「介護疲れ」の気分が分かった。
仕事が捗らなくなった。
部下達も露骨に機嫌が悪くなった。
それでも私はアイツを庇った。
あんなヤツでも私の弟だ。
あの日アイツはまた昼間から酔っ払っていた。
仕事中は部屋から出るなと言っておいたのに、アイツはフラフラと仕事中のリビングに入って来て、何が気に食わなかったのか、そこら中にゴミを投げつけた。
部下の一人の頭に当たり、彼女はパタリと倒れてしまった。
限界だった。
頭が回らなかった。
私は弟にゴミを投げ返し、家から追い出した。
彼女は動かない。
怪我をしてしまったようだ。
私の頭は真っ白になった。
彼女を病院に連れて行き、しばらく会社は休むからと伝えた。
もう何もする気が起きなかった。
家から出たくなかった。
部下からの連絡も全て無視していた。
心配させているのは分かっていた。
そんな日が数日続いた。
そろそろ仕事を再開しなければ、部下達が路頭に迷ってしまう。
化粧をするのも億劫だった。
ソファから動けなかった。
インターホンが鳴る。
誰が来ても、出たくなかった。
ドアカメラをそっと覗くと、部下達がみんなドアの前で笑っていた。
一人が一枚の写真を、ドアカメラに向けて見せた。
そこには、ここで皆んなと撮った、満面の笑顔を浮かべた私が写っていた。
自分が情けなくなった。
すっぴんのまま玄関に駆け出した。
ドアを開けた目の前には、優しく笑う彼らが立っていた。
「ゴメン」と私が言うよりも早く、部下達は微笑みながら「おかえりなさい」と言ってくれた。
あれからは、相変わらず忙しいながらも充実している。
もう酒の匂いも異臭もしない。
アイツは元気にしてるのかな?
「俺もビッグになってやる!」
アイツの捨て台詞はそれだった。
今頃どこかで暴れているのかな?
もしかして、結婚してたりして。
あの傍若無人の「ノンデリの神」は。
リビングのTVを見て驚く部下達。
慌てて駆け寄る私の目の前に、アイツが笑いながら映っていた。
「スサノオ氏、八岐大蛇退治に成功!」
「元気そうですね」と笑いながら言う部下に、私は「そうね」と笑いながら答えた。
ノンデリの神 銀 @gin5656
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