ダンジョン出現で学歴社会が崩壊。スキル無しで底辺扱いされても僕の探求心は止まらない〜毎日届く未知の参考書を解いてたら世界最強で美少女達からも先生と慕われる〜
他力本願寺
第1話「学歴が死んだ日」
# 第1話「学歴が死んだ日」
「いいか、よく聞け。分かっていると思うが――偏差値なんか、もう意味ないからな」
担任の声は淡々としていた。
だから余計に、教室の空気が一瞬で凍る。
窓の外。
校舎の向こうに、空を裂くような巨大構造物が影を落としている。ダンジョン。
数か月前、突然現れた“穴”だ。
人の生活も、制度も、価値基準も。まだ整理が追いついていない。
「これからの進路は『スキル等級』で決まる。偏差値じゃない。資格でもない。戦力だ」
「東大に行くより、Eランク以上のスキルを持て。……それが現実だ」
ざわめきが波になって広がった。
前の方の席ほど、顔色が悪い。いわゆる秀才。
積み上げてきた努力が無意味になった、と感じたのだろう。
逆に、後ろの席は妙に明るい。
「マジかよ、じゃあ勉強しなくていいじゃん!」
「俺、身体強化Dランクだぜ。勝ち確じゃん」
声の中心にいるのは、神宮寺レンと取り巻きだ。
レンは椅子に深くもたれ、机に足まで投げ出している。
そのまま前の席の眼鏡の生徒――偏差値の学年トップを見下ろして、わざとらしく笑った。
「なあガリ勉くん。お前のその分厚いノート、これからどうすんの?」
「……燃えるゴミ?」
どっと笑いが起きる。
けれど、僕の耳には遠かった。
僕――一ノ瀬学(いちのせ・まなぶ)は、手元のノートに視線を落とす。
そこに書いてあるのは授業内容じゃない。
ダンジョン出現と同時に観測された「物理法則のゆらぎ」についての仮説。
それと、検証手順。
(偏差値が意味ない、か)
違う。
意味がなくなったのは、偏差値そのものじゃない。
これまでの“教科書が通用する前提”だ。
未知のダンジョン。未知のスキル。未知のエネルギー。
世界は、未定義のカリキュラムに書き換わった。
だから――胸の奥が、少しだけ熱くなる。
誰も正解を知らない。
白紙の問題集が、目の前に置かれた。
担任が咳払いをして、黒板を指で叩いた。
「明日から順番に適性の再測定をする。全員だ。学校としてもデータが要る」
「今日は予備測定だけやる。端末を回すから、触れ」
係が小さな測定端末を机の列に沿って回していく。
一人ずつ指先を置く。
画面にランクが表示されるたび、歓声か、うめき声が上がった。
「D! やった!」
「……Eかよ。終わった」
「え、C? 私、勝ち組?」
レンが僕の方を見て、わざとらしく笑う。
「ほら一ノ瀬。ガリ勉の指、見せてみろよ。判定、楽しみだなぁ?」
僕は端末に指を置いた。
――一秒。
――二秒。
画面が、ちらついた。
《測定エラー》
《判定不能》
《再測定を推奨》
教室の空気が、ほんの少しだけ変わった。
「……は?」
誰かが小さく声を漏らす。
担任が端末を覗き込み、眉をひそめた。
「故障か。……一ノ瀬、明日以降に回せ。今日はいい」
レンは笑いかけたまま、口の端だけ引きつらせる。
僕は端末から指を離して、ただ思った。
(測れない、というデータが出た)
(面白い)
レンが、今度は少し苛立った声で言う。
「おい一ノ瀬。お前もなんか言えよ。もしかして、スキル無しかもな!」
「……うん。それはそれで貴重なデータだね」
短く答えると、レンは「強がりかよ」と吐き捨てて顔を背けた。
強がりじゃない。
僕が気になるのは順位でも価値でもない。
この世界が、どういう条件で、どういう手順で動くようになったのか。
それだけだ。
◇
放課後の通学路は、どこもかしこもスキルの話題だった。
僕は喧騒を避けるように、一本裏の道を歩く。
「あーもう、ふざけんな!」
角を曲がりかけたところで、苛立った声が刺さった。
スマホに向かって怒鳴っている、派手な髪色の少女がいる。
星奈ユア。
同学年で、配信者としてそこそこ知られている。
「なんであたしがEランク判定なのよ! “配信映えするスキル期待してます”とか言われても知らないし!」
「炎上すんのはこっちなんだけど!」
彼女は画面を睨みつけたまま、僕の横をすれ違っていく。
僕の存在には気づいていない。
(人気があっても、数値の前では同じ――か)
ランク。等級。格付け。
人は分かりやすい答えに飛びついて、一喜一憂する。
でも、僕は別のことを考える。
スキルは、どういう原理で発動している?
なぜ人によって等級が違う?
誰も“中身”を説明できないのは、なぜだ?
「……データが足りない」
夕焼けに沈むダンジョンを見上げて、僕は小さく呟いた。
教科書がないなら。
自分で書けばいい。
◇
家に帰り、夕食を済ませて自室へ戻る。
机の上には、これまで使っていた参考書が積み上げられている。
物理、数学、化学。
ダンジョンの中では、それらは“近似”でしかない。
使えないわけじゃない。けれど、誤差が大きすぎる。
「新しい法則……新しい定数……」
僕は椅子に座り、天井を仰いだ。
強くなりたいわけじゃない。
誰かに勝ちたいわけでもない。
ただ、解けない問題が目の前にあるのが気持ち悪い。
理解したい。分解したい。再現したい。
「知りたい。この世界の、新しいルールを」
そう思った瞬間だった。
――ブン。
部屋の空気が、不自然に震えた。
音というより、情報の重みが空間に沈んだみたいな圧力。
目の前の空間に、光の粒が集まっていく。
集束し、輪郭を作り、質量を持つ。
現れたのは、古めかしい木製の本棚だった。
僕の狭い部屋には不釣り合いな、重厚な本棚が、何もない場所に鎮座している。
言葉が出ない。
ただ――一段目に、一冊の本が「追加」されたのが分かった。
背表紙の金文字が、やけに静かに光っている。
まるで、今日の僕の疑問に答えるためだけに用意されたみたいに。
僕はその本に手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、胸の奥の熱が、はっきりと形になる。
『魔力回路の基礎I:電流に似たもの』
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