第10章 影の迷宮と漆黒の精霊
塩塚 和人
第1話 影が先に歩く
影は、
足元に
あるはず
だった。
だが、
一歩
踏み出した
瞬間、
それは
遅れた。
ほんの
わずか、
心拍
一つ分。
リアンは、
足を
止める。
自分の
影が、
遅れて
止まった。
「……気の
せいか」
そう
呟き、
再び
歩く。
影は、
また
遅れた。
しかも、
今度は
距離が
広がった。
足元から、
半歩分。
迷宮の
入口は、
既に
見えない。
振り返っても、
闇が
あるだけだ。
光源は、
腰の
魔導灯。
淡い
白光が、
石壁を
照らす。
だが、
影は
正確に
壁へ
映らない。
輪郭が
揺れ、
薄れ、
また
濃くなる。
生き物
のように。
「……影の
迷宮」
噂には
聞いて
いた。
光を
拒む
迷宮。
否定を
喰らう
場所。
だが、
ここまで
露骨とは
思わなかった。
一歩、
進む。
影が、
先に
進んだ。
リアンの
足が
床を
踏む前に、
影が
伸びる。
まるで、
道を
示す
ように。
「……先導
する
つもりか」
冗談めかして
言った
声は、
闇に
吸われた。
返事は
ない。
影だけが、
前へ
伸びる。
迷宮の
通路は、
異様に
静かだ。
風も
音も
ない。
自分の
呼吸だけが、
耳に
響く。
歩く
たび、
影が
半拍
早く
動く。
その
違和感が、
じわじわと
胸を
締めつける。
影とは、
自分の
一部だ。
それが、
先に
行く
という
ことは。
「……俺が
遅れて
いるのか」
それとも、
影が
独立して
いるのか。
考えた
瞬間、
影が
止まった。
リアンは、
まだ
歩いて
いない。
影だけが、
通路の
中央で
立ち
尽くしている。
「……おい」
呼びかけても、
影は
振り向かない。
影に
顔は
ない。
だが、
確かに
向こうを
見ている
気配が
あった。
胸の
奥が
冷える。
剣の
柄に
指を
かける。
抜かない。
影を
斬れば、
何が
起こるか
分からない。
一歩、
近づく。
影も、
一歩
動く。
また
先へ。
距離は、
縮まらない。
まるで、
誘って
いる。
「……行けと
言う
のか」
返答は
ない。
だが、
迷宮の
壁が、
微かに
脈打った。
拒絶。
立ち
止まる
ことを
拒む
反応。
影の
迷宮は、
進まぬ
者を
嫌う。
リアンは、
覚悟を
決めた。
考える
より
先に、
足を
運ぶ。
影に
追いつく
ためでは
ない。
影と、
並ぶ
ために。
一歩。
影と
同時に
踏み出す。
二歩。
今度は、
遅れない。
三歩。
影が、
足元へ
戻る。
完全では
ない。
だが、
距離は
縮んだ。
「……なるほど」
この
迷宮は、
影を
追う
場所では
ない。
影と
歩く
場所だ。
リアンは、
魔導灯を
僅かに
下げた。
光を
弱める。
影は、
濃く
なった。
だが、
不安は
増えない。
むしろ、
足取りが
安定する。
迷宮が、
静かに
応えた。
最初の
試練は、
始まった
ばかりだ。
影は、
敵では
ない。
だが、
味方とも
限らない。
リアンは、
自分の
影を
踏み
しめながら、
奥へ
進んだ。
漆黒の
精霊は、
まだ
姿を
見せない。
だが、
確実に
見ている。
影越しに。
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