鮮血の魔女が回帰したら戦乱にフェニックスを呼ぶ黒髪の聖女に!? ―覇王に捧げられた天下はお断りです―
@manulineko
第1話愛の終着点
ポツ、ポツ
「はあ……はあ…」
俄に降り始めた雨の山中を疾走する。
二晩の籠城、そして一晩の逃走劇で艶やかな黒髪と、その華奢な肢体に似つかわしくない甲冑は泥と返り血に汚れ、煤けていた。
「姫様!こちらです!」
「ギルス。今の私はただの裏切り者の魔女だ」
私は歩を緩めると茂みの先から聞こえる声に応える。
「状況は?」
茂みに入ると私と同じく甲冑を纏った男が7人。
「私共も落ち延びる途中で散り散りになってしまい…申し訳ありません」
「姫様は主君を手にかけてなどいません!」
私は天下平定に最も近い覇王の側近であり妻だった。
夫であるディスラプター・ノブスの暴虐に耐えかね彼の御所へ向けて挙兵したのが3日前。
御所は私の軍が到達する前に赤く燃えたさかった。
戦況の読めなさを嫌った私は撤退を選んでしまった。
この判断が最大のミスだった。
私は謀反者に。
混乱の中では戦線を維持するのが精一杯で追討軍の勢いを前に敗戦を重ね今に至る。
「しかし、世間は私の事を主君であり夫を誅殺し天下を揺るがした魔女だと思っている。臣民にはそれが全てだ。」
血気盛んな若者を諌めると私はギルスに相対する。
「皆、魔力の残量は?」
「属性魔法は3.4回分、基礎魔法ならそれなりにと言ったところでしょうか」
「それだけあれば十分だな。この辺は騎士狩りの農民が多い。くれぐれも殺しは最小限にしてくれ」
「あの…それはどういう意味で」
悲壮感を湛えた面持ちで皆が私を見る。
「私の黒髪は呪いの象徴ともいわれ、どこに行っても目立つ。だからここからは別行動だ。こんな結末で申し訳ない。必ず生きてくれ」
その瞬間、3日間張り詰めた何かが彼らの中で切れそうになる。
不味い。
私は咄嗟に持てる魔力全てを身に纏う。戦場で鮮血の魔女と呼ばれた私にしては弱々しい魔力量だが虚勢には足りる。
「わたしを誰だと思っている」
あえて突き放すように冷徹に。
強まった雨足も味方して何度か気温が下がる。
アステールどこだ!
こっちか!?
こっちの茂みが動いたぞ!!
訓練されてない歩調と共に複数の声が近付く。
「論じる暇はない……案ずるな私も必ず落ち延びる」
一瞬の静寂の後に7つの影が駆ける。
本当に良い家臣を持った。
彼らが去った静寂を噛み締める。
一息つく。
農民の前に姿を現す。
「私の事をお呼びかな?」
まだ崩れる訳にはいかない。
アステールを見た農民達はその美しさにハッと声をあげ一様に呆けている。
「…お、お前が魔女アステール?」
農民達の中でも幼い少年が尋ねる。
「黒髪の女なんて私くらいでしょ?」
私は甲冑を脱ぐと少年の構える槍へと近づく。
「なかなか良い物を持ってるね。その槍で私を貫く覚悟はある?」
少年の震える両手ごと刃こぼれの酷い槍を己の胸に突きつける。
「ば……馬鹿にするな!!僕にだってできる!」
「…そう私を突けば、あなたとあなたの村の扱いは大きく変わる。こんなチャンス2度と無いんだから急ぐ事ね」
パカッパカラッパカラ
よく調教された蹄の音が。
来たのね私を追い詰めた男が。
男と目が合う
「アステール様!!ーーー」
私は残る魔力を少年の槍に込める
視界が赤く染まる
そして………寒い
やっと終われる
私は泥濘に倒れる直前で逞しい腕に抱かれる。
「なんで…!どうしてこんなことに!?何であなた様がこんな…こんな!!」
「おかしいじゃない…あなたはわたしをうつためにここまできたんでしょ?ノブスはあなたをえらんだのね…わたしもあなたにならまかせられる」
わたしをおってころしたおとこがなぜかないている…おかしなさいごね
「うそだうそだうそだ!!!ノブス!あんな男の口車に乗せられてあなたを失うなんて!アステール!!私の!私だけのアステーーール!!!!」
雨は男の絶叫を掻き消すまで強くなっていた。
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