明日の朝、教室で会うまでの秘密。

佐々木ぽんず@初投稿

秘密の時間

塾の帰り道。街灯に照らされた公園の入り口で、見慣れたシルエットを見つけた。

「栞?」

「あ、湊。お疲れさま。こんな時間まで勉強?」

 ベンチに座っている栞。

 昼間の教室で見る凛とした彼女とは違う、少しだけ力の抜けた、柔らかい顔をしていた。

「まあね。栞こそ、どうしたんだよ。こんな夜中に一人で」

「ちょっとだけ、家を抜け出してきたの。夜の空気って、なんか落ち着くでしょ?」

 僕は隣のベンチに座り、自動販売機で買ったばかりの缶コーヒーを二つ、彼女の前に差し出した。

「はい、差し入れ。微糖が売り切れてたから、これしかないけど」

「ありがとう! ちょうど温かいのが欲しかったんだ」

 プシュッ、と小気味よい音が夜の公園に響く。

 栞は缶を両手で包み込むようにして、一口飲んで「あまーい!」と笑った。


​ 栞が、僕の方をじっと見つめる。

 街灯のオレンジ色が、彼女の瞳の中で揺れていた。

「明日、学校で会ったら、またいつもの私になっちゃうけど。今は、ただの私でいたいから」

 そう言って、彼女は僕の肩に、ほんの少しだけ頭を預けてきた。

 缶コーヒーから立ち上る湯気と、隣から伝わってくる彼女の体温。

 夜の公園は、世界に僕ら二人しかいないような、不思議な静けさに包まれていた。

「これ、飲み終わるまでだから」

「うん。ありがとう、湊」

 甘すぎる缶コーヒーが冷めていくのと入れ替わりに、僕の胸の中はどんどん熱くなっていく。


 明日の朝、教室で「おはよう」と言うとき。

 きっと僕は、昨日までとは違う気持ちで、彼女を見つめてしまうだろう。

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