第1話 草刈りのシキ
「メリッサさん行ってきます!」
「あいよ! 今日も精一杯働くんだよ」
「はい! 頑張ります!」
恰幅の良い女性──メリッサさんに元気良く挨拶を返した後、僕は宿屋『モックル』を勢いよく飛び出す。
──僕がこの世界に転生してから、およそ2ヶ月が経った。
転生初日、メリッサさんの優しさで宿に泊まらせてもらった後、彼女の言葉通り翌日すぐに知り合いを紹介してもらえた。
そこでも丁寧に草刈りを行い、対価として宿泊費数日分に当たるお金をいただき、結果として『モックル』という安住の地を手に入れることができた。
その後、メリッサさんのアドバイスにより冒険者ギルドに登録。そこに依頼されている数々の雑用──主に草刈りだが──を受けることで、こうして今日まで元気に生きながらえることができている。
それもこれも、あの日満身創痍であった僕を門前払いせず、話を聞いてくれたメリッサさんのおかげだ。
「本当、感謝してもしきれないな」
僕はそう呟きながら大通りを走り、目的地を目指す。
「お、シキじゃねぇか! 今日も草刈りか?」
道中顔馴染みのおじちゃんが気さくに声を掛けてくれる。僕は笑顔で「はい!」と返す。
「そうか。頑張れよ」
「ありがとうございます。頑張ります!」
普段町の草刈りばかりをこなしているため、気がつけばかなり知り合いが増えた。
おかげで町を移動するだけでこうして優しく声を掛けてもらえる。本当、ありがたいかぎりだ。
と、そんなこんなで町の人々に挨拶をしながらしばらく走ると、目的地である冒険者ギルドへと到着した。
「よし。今日も頑張るぞ」
ふんすと気合いを入れて扉を開け、ギルドへと入る。すると室内にいた複数の冒険者の視線がこちらへと向き──
「おうおう! 『草刈りのシキ』のお出ましだぜ!」
「ようシキ!」
「今日も草刈り頑張れよ!」
荒くれ者のおっちゃん達が、気さくに声を掛けてくれる。それはとても嬉しいのだが……。
『草刈りのシキ』って……うぅ、まぁ事実なんだけどちょっとカッコ悪いんだよな。
そう。いつからか、皆が僕のことを『草刈りのシキ』という二つ名で呼ぶようになった。
基本的に二つ名がついている冒険者はそう多くはない。だからこそ、どんな名前であれ二つ名があるというのはたいへん名誉なことではあるのだが……いかんせんカッコよくないのだ。ほんと、もうちょっと良い名前は無かったのだろうか。
まぁ何にせよ、僕はあの日から様々な人に可愛がってもらいながら、慎ましくも幸せに暮らすことができている。
『草刈りのシキ』という二つ名に多少の不満はあるが、草刈り自体は楽しいし、依頼主の喜ぶ顔が見られるのでやりがいもある。
だからこそ総じて充実した異世界生活を送れていると言える。
あ、ちなみにシキというのはこの世界での僕の名前だ。
自分で決めておいてなんだが、最初はシキと呼ばれてもしっくりとこなかった。ただ2ヶ月も経てばすっかりとこの名が身体に馴染んでいた。
さて、そんな僕──シキが冒険者ギルドに来た理由は、当然今日の依頼をこなすためである。ただ、この日に限っては実は普通の依頼ではない。
「シキく〜ん」
ここで1人の受付嬢さんが僕の名前を呼びながら、こっちこっちと手招きをしてくる。僕はそれに従う様に彼女の元へと向かう。
「メロさんおはようございます!」
「おはよう、シキくん。ふふっ、今日も元気いっぱいね」
そう言って柔らかく微笑む彼女は受付嬢のメロさん。桃色のミディアムヘアとほんわかとした雰囲気を有する16歳の優しいお姉さんだ。そして実は僕がこの冒険者ギルドに初めて来た時に対応してくれた女性でもある。
「元気だけが取り柄ですから!」
「そんなことないわよ。シキくんにはいい所たくさんあるわよ?」
「たくさんですか?」
首を傾げながら考えるも、自分では何も思い浮かばない。そんな僕に優しくもどこか艶やかな笑顔を向けながら、メロさんは言葉を続ける。
「そうよ。まず何よりもビジュがいい!」
「初手顔ですか!?」
「大事なことよ? あとはね、ちっちゃいのに一生懸命なところと、ちっちゃくて優しいところと、ちっちゃくてかわいいところかな?」
「…………」
僕はジトッとした目を向ける。
「……お、怒らせちゃったかな?」
「いえ。怒ってませんよ。ただ早く大きくなりたいなとそう思いました」
「えっ……!?」
「えっ……?」
「シ、シキくんって大きくなるの?」
「そ、それはもちろん。まだ10歳ですし、成長期もまだですから。きっとこれからすくすく成長しますよ」
「そんなぁ……」
メロさんが絶望した表情を浮かべる。
──そう。最近冒険者のおっちゃんから聞いて知ったことなのだが、どうやらメロさんは小さな男の子が好きらしい。前世の知識で言うのであれば、いわゆるショタコンというやつである。
……黙っていれば美人なのに。これが残念美人ってやつなのかな。
なんて少し失礼なことを考えながらフーッと小さく息を吐くと、僕は一歩近づきメロさんの滑らかな白魚のように真白い手を取る。
「シキくん?」
「一般的な成長期を考えれば、そんなすぐには大きくなりませんよ。だから元気出してください」
そう言って僕はメロさんに微笑みかける。
……自分でも何を言っているのかさっぱりだが、果たして効果のほどはいかに。
僕の言葉を受け、メロさんはゆっくりとその表情に光を取り戻す。
そして呟くように「そうだよね。まだ時間はあるよね」と言うと、彼女は僕の手をギュッと握り返してくれた。
その瞬間、周囲から「おいおい、シキのやろうも隅におけねぇな!」「ヒューヒュー!」とこちらを揶揄うような声が聞こえてくる。
そんなおっちゃんたちの反応を受け、メロさんは照れた様に微笑み、僕は内心苦笑を浮かべるのであった。
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