前世で過労死した、元No.1婚活アドバイザー。異世界でも女剣聖や魔王を一刀両断する。~「自分より強い相手がいい」なんて抜かす厄介客を論破していたら、怪物級の女たちに囲まれて私の独身貴族生活が崩壊した~

駄駄駄

第1話:成婚率100%『婚活アドバイザー』異世界に転生。

正直に言おう。結婚なんてものは、正気の沙汰じゃない。


前世での私は、新宿の雑居ビルに構えた結婚相談所で「成婚の女神」なんて呼ばれていた。


32歳、独身。


顧客には「愛こそすべて」と説きながら、心の中では「悪いことは言わない、その予算を iDeCo と NISA に回せ」と毒を吐く。それが私の日常だった。


結局、32年の人生で一度も「誰かのもの」になることなく、私は過労で死んだ。


そして気づけば、剣と魔法と、ついでに戦後の倦怠感が漂う異世界のモブ女子、ユキ(32)として転生していたわけだ。


「ユキさん、また今日も『お断り』の山ですよ。どうするんですか、これ」


溜息混じりに書類を叩きつけたのは、私の助手……ではなく、このギルド運営の結婚相談所の受付嬢だ。


平和になったのはいい。


人間と魔族が手を取り合い、魔王軍の幹部が市場で大根の値段を交渉するような、生ぬるい平和がこの世界には満ちている。


そして、平和になれば次に人々が求めるのは「家族」だ。


私は今、この異世界の片隅で、前世と同じく婚活アドバイザーを職業に選んだ。


理由は単純。これしかスキルがないからだ。だが、私のモットーは変わらない。


「いい、リサ。結婚はゴールじゃない、墓場への特急券なの。それを承知で乗りたいっていう変人にだけ、最高の切符を切ってあげるのが私の仕事」


「……そのセリフ、相談者の前では絶対に言わないでくださいね?」


私は優雅にハーブティーを啜る。前世のような「年収1000万以上のイケメンで、次男で、家事も育児も完璧にこなす人希望(※ただし私は家事ができません)」なんていう地獄のような相談者に比べれば、異世界の連中なんて可愛いものだ……と思っていた時期が、私にもありました。


本日の一人目の相談者。


入ってきたのは、腰に伝説級の刀をぶら下げた、凛々しすぎる美貌の持ち主。


人類最強の守護者、女剣聖フタバ(28)。


「ユキ殿。私は、私より強い男としか結婚せぬと決めている」


「……フタバ様。あなた、先日の御前試合で現国王を3秒でノックアウトしましたよね?」


「手加減はした。だが、私を組み伏せ、力でねじ伏せるような雄々しさがなければ、私の身体は反応しないのだ」


はい、出た。


典型的な「自分基準が高すぎて、地上にターゲットが存在しない」パターンね。


私は内心で舌打ちしながら、営業用の「女神の微笑み」を貼り付けた。


「フタバ様。あなたの求める『強さ』とは何ですか? 腕力? 魔力? それとも、あなたのその歪んだ選民思想を真っ向から否定し、包み込んでくれる精神の強さですか?」


「なっ……!?」


「いいですか。あなたを倒せる男なんて、この世界にはもういません。あなたが探すべきなのは、あなたの刀を手入れする間、黙って美味しいスープを作って待っていてくれる『忍耐強さ』を持った男性です。戦うのは仕事だけで十分でしょう?」


論破、というよりは現実の叩きつけだ。フタバは顔を赤くして黙り込む。


だが、これくらいは序の口。


次に来たのは、王国の近衛騎士団長、リズ(35)。


「私は、姫様と結婚したいのです。男性など、私の視界には入りません」


「……リズ様。この国に同性婚の制度はありませんし、何より姫様は来月、他国の王子と政略結婚が決まっています」


「ならば奪い去るのみ! 私は姫様の盾となり、剣となり、夜の褥でもお仕えしたい!」


……重い。愛が圧倒的に重い。私は彼女の書類をシュレッダーにかけたい衝動を抑え、冷徹に告げた。


「あなたは姫様を幸せにしたいのではなく、姫様に依存したいだけです。それは愛ではなく、ただの職権乱用です。まずは姫様以外の女性とランチに行き、自分以外の誰かに興味を持つ訓練から始めてください」


そして極めつけは、夕方にアポなしで現れた、禍々しいオーラを放つ絶世の美少女。


この世界の頂点、魔王軍の総帥……もとい、魔王ミア(年齢不明)。


「ユキ。余は、運命の恋がしたい。少女漫画のような、こう、壁ドンされて『お前は俺のものだ☆フッ』と言われるような、純粋で甘い関係だ!」


そんなやつ現実リアルにいねーよ。


「魔王様、あなた、昨日まで人間を滅ぼそうとしてましたよね? どの口が純粋なんて言葉を……」


「うるさい! 平和になったのだから、余だって子孫を残さねばならん。だが、打算で寄ってくる男は全員灰にした。余という『個』を愛してくれる、そんな尊い存在はどこにいるのだ!」


「……鏡を見てから出直してください。あなたの威圧感で、普通の男は心臓が止まります」


どいつもこいつも、理想ばかりが高くて現実が見えていない。


前世でもそうだった。条件、理想、性欲、社会の目。


そんな不純なものに振り回されて、自分の「本当の幸せ」を見失っている連中ばかり。


私? 私は最高に幸せだ。


仕事でストレスを貯めるだけ貯め、厄介な相談者を気持ちよく論破してスッキリし、定時になったら速攻で帰宅する。


誰にも邪魔されない、自分だけの城へ。


結婚なんて、この自由を売り払うほどの価値はない。


私は私を愛しているし、私の機嫌は私がとる。


それが32年かけて辿り着いた、唯一の正解なのだ。



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