手がかりは見つからなかったが、幸福にはなれたのだ。

エリー.ファー

手がかりは見つからなかったが、幸福にはなれたのだ。

 手を失った。

 鯨に奪われたのだ。

 私に残ったのはの呪いだけだ。

 結果として、自らに呪いをかけることで腕は生えた。

 しかし、それは本物の腕ではない。

 偽物の腕だ。

 呪いによって創り出された腕でしかない。

 何かを掴んでも、そこに愛はない。

 自傷の繰り返しでしか、未来を見抜けないまま呪いに縋る生き方を選んだ。

 それしかなかった。

 この手を失くしても。

 呪いにその身を預けても。

 私は、手を少しだけ黒く塗りつぶすことしかできない。

 もしかしたら、私には戦場が似合っているのかもしれない。

 ミサイルが飛び交い、死体が積み重なる場所でしか生きていくことはできないのかもしれない。

 決まり切ったルールの中で、上や下を見せつけ合う勝負を面白い、とは思えなくなってしまったのかもしれない。

 私には、私の中にある手がかりを見つけるための手がない。

 言葉と思考と思想と哲学が少しずつ染み出して、鯨を見つけに行くためのベクトルに成り代わるだけである。

 鯨がいた。

 私は戦うために、武器を持つ。

 呪いではない。

 つまり。

 手を失くした。

 もう、呪いは必要ではない。

 鯨を殺すために必要なのは、私自身である。

 そして。

 私は、またも鯨に負けた。

 手だけではなく。

 言葉を失った。

 音を失った。

 過去ではなく、由来を失った。

 もしかしたら、私は私ではないのかもしれない。

 鯨は笑っていた。

 いい気味だと笑っていた。

 人間が嫌いなのではなく、お前のことが嫌いなのだと笑っていた。

 私は、鯨を食べる手段を調べた。

 見つからなかった。

 誰一人として、知らなかった。

 いや。

 鯨を食べるなどと思っている人間がいない、ということなのだろう。

 私は戦いたい。

 鯨に勝利したいのだ。

 あと四回は戦うチャンスがあるだろう。

 ただし、四回負ければ。

 私には何も残らない。

 私の肉体がそこにあったとしても、名乗ることはできないだろう。

 私はチョコレートを買った。

 人間に憎しみを持った鯨を食すためには必要なお菓子だと思った。

 癖の強い鯨の肉には、チョコレートがよく合う。

 私は、その常識を創り出そうとしていた。

 そう。

 手でも、呪いでも、言葉でも、音でも、由来でもない。

 新しい常識を持ち込もうと考えた。

 この勝負に明日はない。

 実証されなければ、私の姿は久しく見ていない夕焼けのように、ラピスラズリに変わってしまうだろう。

 夜明け前の私は、いつだって、完全からほど遠いところで鯨を眺めることに始終していた。

 そして。

 その次の日の、その次の日の、その次の日の昼間。

 全てが手に入った。

 鯨が、全てを返してくれたのだ。

 私の戦いは、旅は、終わった。

 けれど、戻ってきた手は白かった。

 鯨は、白鯨になりたかったからその想いが手を染めてしまったのだと教えてくれた。

 私は、悪くない、と思った。

 そういう手が、欲しかったからである。

 町に帰ると、皆が私の手を欲しがった。

 もちろん、あげない。

 これは私だけの手だ。

 誰よりも美しくて、誰よりも光り輝く、白い手だ。

 いずれ、この手を誰かに受け継がなければならない。

 その時には、きっと、鯨に相談をするだろう。

 そして、鯨は空腹の余り、私を飲み込んでしまうに違いない。

 それがまた幸福の形なのだ。

 それだけが、私が鯨を支配する手段なのだ。

 


 私は、本当は鯨を支配する宝石で作られた髑髏だったのだ。

 もはや、鯨が恋しい。

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