ドロップアウト―追放された雑用係が裏社会で無双。裏社会に拾われた俺は、影から表舞台を翻弄する

flanked1911

第1話

「アロン、ゴブリンの相手くらい一人でできるだろ?」


  ゴブリンの群れに取り残されている俺を置いて、パーティの仲間たちは消えた。

 気づけば、右目が潰れていた。

 血で視界が染まった夜、俺は“鷹の爪”に見捨てられ、表の世界からも見放された。


 ◇


「頼む……! この通りだから……!」


 多くの冒険者が集う、活気のある冒険者ギルドの一角の飲食ができる丸テーブルが置かれたスペースで一人の少年が床に頭を付けていた。

 この活気のある国はクロムウェル王国、城壁に囲まれた大都市国家だ。


「また頭下げてるよ」

「ああはなりたくないね」


 行きかう冒険者たちが青年を好奇の目で見る中、少年は頭を下げ続けた。

 ようやく、顔を上げた彼の素顔は、栗色の短髪でどこにでもいる普通の少年だった。

 顔の右目にかけて、大きな傷跡があるところ以外は。


 だが、その彼の必死の懇願にも関わらず、彼の仲間たちの反応は冷たかった。


「駄目だ、アロン」

「そうだ、さんざん人様に迷惑をかけやがって!」

「身の程を知れって話よね」

「頼む、一度だけでいいから……!」


 こんな押し問答が、毎日続いていた。

 この少年アロンは田舎から、王都に出て来たばかりの剣士だった。

 王都の冒険者の伝説的な逸話などに憧れ、田舎を飛び出してきたよくいる少年の一人だ。

 一人で田舎から出てきたアロンは既存冒険者パーティへの就職に苦戦するも、なんとかこの『鷹の爪』というB級パーティの入団テストを受けることができた。

 入団テストでは、下級のはぐれゴブリン相手に実戦などを行った。

 アロンはパーティの皆に認めてもらおうと、必死に剣を振るった。

 その結果は悪くなかった。

 全く実戦経験がないとは思えない鋭い剣裁きは、これからの才能を期待させた。

 しかし、それが鷹の爪のメンバーの嫉妬心を刺激した。


「お前、調子に乗った自分が何をやったかわかってんのか、つーの!」


 大声で威嚇するように怒鳴りつける大柄の男は、大斧使いのゲイブ。

 彼はより実践的なテストをするといい、アロンをゴブリンの巣穴まで連れていき、そこに彼を置き去りにした。

 ゴブリンの大軍に襲われたアロンは必死で応戦し、辛くも逃走に成功したが、目に大きな傷をもらってしまった。


「引き際のわからない奴のせいで、パーティが全滅するっていうの、よくある話なんだよねぇ」


 パーマをかけた女、バーバラが見下したような声を出す。

 彼女は魔法使い兼治癒師、だが、アロンの負傷時には彼女は応急処置を拒否した。

 理由は簡単、彼女は田舎者が嫌いだった。


「何故、そう不真面目なんだ君は?」


 最後に苛立ったように告げるのは、リーダーのジェフだ。

 彼は目を負傷したアロンを追放することはしなかった。

 代わりに弓矢を持たせて、後衛に回した。

 チャンスを与えたと言えば聞こえは良いが、片目が見えなくなった者に弓矢を渡したところで、距離感がつかめずまるで当たらない。


 少し考えればわかるようなこともわからず、努力不足、不真面目と一蹴する。

 腕はともかく、ジェフにはリーダーとしての才覚がなかった。

 アロンは精神的に未熟だと決めつけられ、罰としてパーティメンバーの武器の手入れやキャンプ時の設営など全ての雑用を押し付けられた。

 分け前もダントツで少なかった、雀の涙だ。

 彼は毎日それをこなした。

 そして、今日もまた、一度でいいから自分を前衛に出して、チャンスをくれと懇願したのだが、今日も駄目だった。


「もちろん、前衛に戻れたからと言って、雑用も怠らない。

 今まで通りにしっかりとやるから……」


「言うことが聞けないなら、他のパーティに行けばいい。

 誰も君なんか、止めないぞ」


「そ、それは……」


 ジェフは冷たく言うが、それはアロンにとって不可能だった。

 アロンの目の怪我の件は伝聞の中で、『周りが止めたのに、手柄を欲しがったアロンが巣穴に手を出した結果』ということになり、ギルド内で身の程知らずと嘲笑されるようになった。

 特に目に負った傷は笑いものだった。一見すると、強者なのに、本当はゴブリンに負けた男。

 そんな彼を取ってくれるところなんてなかった。

 鷹の爪のメンバーはそれを知っているから、アロンを使い勝手の良い雑用係として飼い殺しにしているのだ。

 アロンは何かを言い返そうと、口を開くが、そのまま、口を閉じた。


「わかったら、俺の荷物をホテルに預けてこい。バーカ!」


「ちょっと、私の荷物には触んないでよ、気持ち悪い」


 結局、アロンは今日も何も出来ずに項垂れた。

 何か大きな事件でも起きて、チャンスが来ないか、アロンはそんなことを考えるしかなかった。

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