第27話 鋼鉄の共鳴
――キンッ!
熱を帯びた空の薬莢が床に転がり、戦闘室に虚しい金属音が響いた。
俺が暗い予備弾薬ラックに手を伸ばすと、指先に触れたのは冷たい鉄の底板だけだった。
「……曹長、徹甲弾が底を突きました! 残りは榴弾が五発……それだけです!」
俺の悲鳴に近い報告に、車内の空気が一瞬で凍り付いた。
戦車にとって弾薬切れは、牙を抜かれた野獣になることを意味する。
外では、ソ連軍のT-34が、獲物を追い詰める狼のように、じりじりと距離を詰めてきていた。
その時だった。
ノイズまみれの無線機から、鼓膜を震わせる野太い声が飛び込んできた。
『――こちら三一二号車! 聞こえるか、九〇一号車! 俺たちは現在、村の北側で立ち往生している!』
キルヒャーだ。あの自信に満ちた男の声が、今は焦燥に揺れている。
『……燃料系をやられた! 弾ももうねぇ! このままじゃ、この自慢のティーガーを赤軍に献上することになっちまう!』
あの無敵を誇ったティーガーですら、物量の波に呑み込まれようとしていた。
ベルント曹長が、悔しそうに拳で内壁の装甲を叩いた。
「……クソッ、助けに行きたいのは山々だが、こっちもこのザマだ。弾がなきゃ、どうにもならん!」
絶望が車内を支配し、ハンスの荒い呼吸音だけが響く。
だが、俺の脳裏には、ある「戦術」の断片が鮮明に浮かび上がっていた。
「……曹長! 一つだけ、ティーガーを救い、俺たちもここを脱出できる方法があります!」
俺の言葉に、ルディとベルント曹長の視線が、鋭く集中した。
「なんだステファン、言ってみろ!」
「残った榴弾五発を、敵に当てるのではなく、ティーガーの周囲の『地面』に叩き込むんです」
「地面だと……? 外してどうする、この素人が!」
ルディが怒鳴るように問い返す。
「今のロシアの土は、数日の日照りで乾燥しきっています。榴弾の爆発で猛烈な砂煙を巻き上げ、一時的な『人工の煙幕』を作るんです!」
俺は一気に捲(まく)し立てた。
「その隙に、俺たちがティーガーの前に割り込み、敵の射線を遮る死角を作ります。キルヒャーさんたちには、その間に外へ出てもらい、ワイヤーを繋ぐんです!」
正気の沙汰ではない。弾がないからこそ、自分たちの薄い装甲を盾にするという自殺行為だ。
だが、ベルント曹長は、俺の瞳の奥に宿る「確信」を読み取った。
「……面白い。ただ座して死ぬよりは、よっぽどマシだ。……ルディ、ステファンの勘に全弾賭けろ!」
「了解(ヤーヴォール)!! ステファン、次を急げよッ!」
俺は、最後から五番目の榴弾を、熱を帯びた閉鎖機へと力任せに叩き込んだ。
歴史の教科書には決して記されることのない、名もなき戦車兵たちの、命を懸けた反撃が始まった。
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