赤月詩子は友達が欲しい1
昨日の放課後、あのカフェで過ごした風景を、埃っぽい教室と騒がしいクラスメイトたちが日常の風景へと上書きしていく。
危うくトキメキを感じたようなあの感覚はたぶん錯覚だ。
そう、自分に言い聞かせながら、昨日練った計画を実行する。
俺と椿は、詩にゃんの観察と接触を試みることにした。そして、金曜日の放課後に最終プランを練り上げる算段だ。
詩にゃんは『ひとりぼっち』を許さない。
俺が椿が一緒にいる間は、近づいてくることがない。
他クラスの椿は此処にはいない。
『私も一緒がいい』と駄々っ子アピールがウザかくて、無駄に説得力が働いたけど。
昼休みを告げるチャイムと共に、俺以外のクラスメイトたちは各々友達と一緒になり始めていた。
不思議なくらいに孤独を感じさせないこの空間には、いつも、詩にゃんがいる。
彼らは詩ニャンを中心に繋がった輪の群衆だ。
一人一人が全ての人と仲が良くなくても、詩にゃんに繋いでもらったその手を、宝物のように大事にしているのかもしれない。
詩にゃんがいなくなったとしても、孤独になる人は一人もいない。俺という例外を除けば。
「八木君、今日は一人なんだね。仲良しの椿さんはどうしたの?」
当然のように声をかけてくる『ひとりぼっち撲滅運動』の聖女様。この教室のジャンヌ・ダルクといったところか。
「まぁ、椿にだって一人を楽しみたいときがあるからね」
「一人を楽しみたいって、八木君みたいだね」
そりゃ、俺が考えた嘘だから、俺みたいになるわな。
「そうだね、俺みたいだね」
まるで友達同士かのように会話をする、俺と詩にゃん。
でも不思議なことに俺と詩にゃんは友達ではない。
「ふふ、そうだね。それなら、お昼は一人なのかな? 今日は珍しく教室で一人だから声かけちゃった」
基本的にフリータイムはこの娘から逃げるように、捕まる前に離脱していたからね。皮肉に聞こえるのは俺の性格のせい?
「そうなんだね。それで用事って何?」
当然、お昼を誘ってくるんだろうけど、ここは俺から誘うべきではない。
「よかったら私たちとお昼を一緒にしない?」
…………私、たち?
想定していたなかった一言に動揺する俺。
お昼を想誘うのは想定内だ。だが、『ぼっち撲滅運動』に勧誘されることを軽視していた。
そう彼女の目的は『ひとりぼっち』を作らないこと、例え、彼女がいなくても孤独にさせないためのアフターケアまでしてくれる聖女様なのだ。
どうする、俺たちの目的はこの娘と友達になること。この誘いを受ければ、それなりに仲のいい関係になれるかもしれない。
だが、彼女の依存する相手は『ひとりぼっち』だ。
特定の誰かと積極的に仲良くしようとはしない。仲良くなった相手を別の誰かへ紹介する。
仲介人のごとく、誰にも優しい聖女様で、誰にも汚せない聖女様。
思ったより、強敵だぞ、この娘。
昨日の会議で話した、今までの詩にゃんに対する認識は、ひとりぼっちが気になるただの優しい女の子で止まっていた。
しかし、深く観察したことで、その真意に気づいてしまった。
深く関わらないから分析する必要なかったもんな。
「いや、かな?」
ポニーテールを揺らし、首を傾げる。
いつも愛らしく太陽のような笑みを撒き散らす女の子の表情に曇りが差す。
未だかつて、彼女にそんな表情をさせたクラスメイトが俺以外にいただろうか。
罪悪感とこの状況を打破する手段を思いつかない焦りが、俺の思考を渋らせる。
「えーと、その……」
「あはは、ごめんね。無理強いは良くないよね。一人になりたいときもあるもんね」
俺が答えを言い渋っていると、はい、このお話はなしね、と言わんばかりに謝ってきた。
「また声かけるから、気が向いたら一緒に食べようね!」
こちらに手を振りながら、好意は未だあるよとアピールせんばかりの笑顔で、昼食を約束していたであろう信者たちのもとへと戻っていた。
無意識に手を伸ばしていたことに気づき、すぐさま手を引いた。
俺が他者に依存した?
いや、これはあれだ、目的を完遂するために、詩にゃんと友達になる必要がある。それが遠ざかったから手を伸ばしたにすぎない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます