青春失恋計画の会議は放課後のカフェで(前半)


 放課後の帰り道、カフェの一席に男女が二人座っている。

 傍目から見れば、青春の1ページに見えるだろう。


「私が君を好きになるために必要な具体的な案と、君に恋人を用意するための案を出す会議を、始めましょう。まずはさっきの詩にゃんさんを恋人にするための協力なんてどうかしら? とっても仲がよろしそうだったわよ」


 声のトーンが爽やかで前向きな響きに聞こえる。


「君を好きになる努力をするから、君は他の人を好きになる努力をしてね、って言う人初めてみたわー」

「ここにいるじゃない!  本気よ?  奏に私以外の恋人にしたい人を作って、私が君を引き留めようとするの。でも、あなたは新しい恋人を選んで、私は無様に振られる……。完璧! 想像しただけで、もうご飯三杯はいけるわ!」


 椿は「えっへん」と胸を張る。揺れる二つの山と、眩しすぎる笑顔。

 誰かがかの光景を目にしても、この美少女が今、「自分の彼氏(仮)を寝取らせるための戦略」を熱っぽく語っているなんて。


「奏、協力は惜しまないわ。まずはあの子の連絡先をゲットしましょう。ラブレターの代筆だってお手の物よ? 私、美少女だから『女心』には詳しいもの!」

「お前みたいな『女心』を持ってる奴は、世界に二人といないから参考にならない。……だいたい、俺にその気がなきゃ意味ないだろ」

「あら、そうなの?  詩にゃんさんって愛称をつけるほどの相手なら、奏の『ひとりぼっち症候群』も治るかもしれないのに。……ふふ、でもいいわ」


 真鈴は身を乗り出し、俺の鼻先に自分の鼻が触れそうな距離まで顔を近づけた。

 甘い、バニラの香りが鼻腔をくすぐる。


「私、頑張ってあなたを好きになるから。奏も頑張って、私に失恋を教えてね」


 ウィンク。そして、屈託のない満面の笑み。

 周囲からは、幸せの絶頂にいる恋人たちに見えることだろう。


「じゃあ、ターゲットは詩にゃんさんね。奏は詩にゃんさんのことを、どこまで知ってるのかしら?」

「クラスの飼育……学級委員長をしてる。ポニーテールと愛くるしい雰囲気がチャームポイントの女の子」

 

 いつの間にか用意していたノートに、何やらメモを取っていた。


「他には?」

「他? えーと、『ひとりぼっち撲滅運動』をしているお節介さん、あと猫のヘヤピンをいつも頭につけてるな」

「猫のヘアピン、ね。……ふふ、奏ってば、意外と女の子の細かいところまで見てるのね。合格だわ」


 椿はさらさらとノートにペンを走らせる。そのページには『詩にゃん攻略&私の失恋計画書』とでも書かれているのだろうか。


「合格って、これくらい誰でも判断できるだろ?」

「いいえ、それは『関心』という名の恋の種よ」

「……その種、芽が出る前に枯れるぞ。彼の関心が種なら、土は詩にゃん、それだけじゃ何も育たない」


 そう育ちはしない。栄養を生成するための光や水がないのだからな。


「土が足りない?  水がない?  なら、私が全部用意してあげる。肥料も、太陽の光も、必要なら温室だって建ててあげるわ。……あ、でもそうね」


 椿はペンを止め、不敵な笑みを浮かべて奏を見つめる。


「光がないなら、私が君を焼き焦がすほどの熱になる。水がないなら、私が君を潤すだけの栄養になる……奏、勘違いしないで」


 彼女は身を乗り出し、机を指先でトントンと叩く。


「君が詩にゃんさんに惚れるために必要なものは、すべて私がお膳立てしてあげる。君はただ、その温室の中で、私のためにスクスクと育って……そして最後は、私に失恋という花火を見せてくれればいいわ」


 彼女にとって、俺の悩みさえも、失恋を盛り上げるための最高のスパイスみたいだ。


「いいのか。花火だと一瞬で終わるよ?」


 失恋も一瞬物だろうけど。


「人はなぜ、一瞬で終わるものに情熱を注げると思う。それはね。そこに愛があるからだよ」


「ねぇ、今までのセリフ全部ボイスレコーダーで記録したいからワンモア、それからクラスのみんなに聞かせていい?」


 椿は一瞬フリーズすると、乗り出した身を戻し席を正す。


「ゴホン、では話がちょっとズレ始めたと思うので、閑話休題としまして、詩にゃんとフレンドリーになる作戦を、詰めていこうと思います」


 あのキザなセリフを大衆の前で晒せば、流石の美少女様でも恥ずかしいらしい。

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