法学、法律初心者用 条文・判例解説小説
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第1話 尊属殺重罰規定は、なぜ違憲とされたのか
――「親殺し」をどう裁くかではなく、「刑罰の線」をどう引くか
## 1 事件の経緯(何が問題になったのか)
日本の旧刑法には、次のような規定が存在していた。
* 尊属(父母・祖父母など)を殺した場合
* 通常の殺人よりも、はるかに重く処罰する
この規定は、長年にわたって維持されていた。
しかし、昭和40年代、
**父親から長年にわたり暴力・虐待を受けていた被告人が、父親を殺害した事件**が起きる。
被告人は、次のように主張した。
* 長年、逃げ場のない暴力を受けていた
* 生活も人格も破壊されていた
* それでも一律に「親殺し」として極刑を科すのは不合理ではないか
ところが、
**条文を形式的に適用すれば、この行為は「尊属殺」**に該当する。
ここで問題になったのは、次の点だった。
> 「尊属を殺した」という一点だけで、
> 動機や経緯を一切考慮せず、
> 極端に重い刑を科すことが許されるのか。
## 2 問題となった条文(当時)
当時の刑法には、次の規定があった。
### 刑法200条(当時・現在は削除)
> 尊属を殺した者は、死刑又は無期懲役に処する。
これに対して、通常の殺人罪(刑法199条)は、次の内容だった。
> 死刑、無期懲役、または5年以上の有期懲役。
整理すると、こうなる。
* 尊属殺:**必ず「死刑または無期懲役」**
* 通常の殺人:**事情によっては有期懲役もあり得る**
つまり、
**被害者が「尊属かどうか」だけで、刑の選択肢が極端に制限されていた**。
## 3 最高裁の判例(結論)
この事件は最終的に、
**最大判昭和48年4月4日(いわゆる「尊属殺重罰規定違憲判決」)**に至る。
最高裁の結論は、明確だった。
* 刑法200条は、憲法14条(法の下の平等)に反し、**違憲**
* よって、この規定は適用できない
## 4 最高裁は「何を問題にしたのか」
ここが、この判例の核心である。
最高裁は、
「親を殺すのは道徳的に許されない」とは**一切述べていない**。
問題にしたのは、次の点だった。
### (1)刑罰の重さと行為の悪質性が結びついていない
* 尊属であるかどうかという「身分」だけで
* 動機・経緯・状況を一切考慮せず
* 必ず極刑に近い処罰を科す
これは、**刑罰の合理性を欠く**。
### (2)憲法14条(平等原則)との関係
* 憲法14条は、合理的理由のない差別を禁じている
* 尊属かどうかは、行為の悪質性そのものを必ずしも示さない
したがって、
**一律に重く処罰する合理的理由はない**。
### (3)家族制度の価値観を刑罰に直結させている
* 尊属殺重罰規定は、家父長制的な家族観を前提としていた
* しかし、その価値観を刑法によって強制することは許されない
## 5 この判例によって何が変わったか
### (1)実務上の変化
* 尊属を殺害した場合でも、**通常の殺人罪(刑法199条)で処理**
* 動機・経緯・虐待の有無などを、個別に評価するようになった
### (2)立法上の変化
* 刑法200条は、その後**削除**
* 現在、「尊属殺」という犯罪類型は存在しない
### (3)思想的に重要な点
この判例は、
* 「家族だから重く処罰する」
* 「道徳的に許せないから重くする」
という発想を、
**刑罰の世界から切り離した**。
## 6 この判例の本当の意味
この判例は、
* 親殺しを正当化した判例ではない
* 親を殺しても軽くなるとした判例でもない
正確には、こういう判断である。
> 刑罰は、
> 行為の内容と責任に比例しなければならない。
> その原則は、家族関係よりも上位に置かれる。
## まとめ(試験・理解用)
* 尊属殺重罰規定は、「身分」だけで極刑を科す点が問題だった
* 最高裁は、憲法14条(法の下の平等)違反と判断
* 現在、尊属殺という犯罪類型は存在しない
* 刑罰は、道徳や家族観ではなく、行為と責任で決まる
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