第4話 大変です

夜も更け、街の賑やかな声も剣と剣がぶつかり合う音もなく静寂に包まれた頃。

オレはベッドの上でバルトから借りた本を読んでいた。

魔法陣はやはり、タチの悪いものだった。

相手が愛していないのに何度も体を触ると呪いの一部が発動すること。

呪いの一部が発動するとかかっている者はその間の記憶はない。

呪いの解除は術者が死んでも解呪はされない。解呪するには相手を殺すか愛されるか。


『……最悪な呪いだな」


結局、呪いの一部が発動してしまえばユーリのようにただ求めるだけの獣のようになってしまう。自分の知らないところで相手は思いを強要されてしまう。

それで嫌われてしまえば、もう終わりだ。


「まぁ、痛くなかったからオレは許すけど」


首はとても痛かったが。


ガタッ、と窓ガラスが揺れた気がした。

また魔物が出現し、夜間見回り団員が魔法でも打ったのだろうか。

外を見ると大量の何かがこちら向かっているのが見えた。

警報も遠くから聞こえてきた。門の近くまで魔物が来てしまっていることを知らせていた。

いくら領土を囲むように高い塀が囲っていても門を破られてしまえばたまったもんじゃない。

剣を持ち、部屋を急いで出た。

前世のこの時期はゴブリンの巣ができ、散々な目にあったのを思い出した。

あの時は三日三晩やって来て、怪我人はいなかったものの体力的に大変だった。


「アルト団長、ゴブリンが大量に」


団員の1人が報告をしに来てくれる。ユーリが来ないということは、もう戦いに出ているのだろう。


「次から次へと……ふざけやがって!」


オレは2階の渡り廊下から飛び降り、ゴブリンが来ているであろう門の方まで走った。




門の前に行くと大量のゴブリンが団員達と戦っていた。

そしてその中にもユーリの姿もあった。


「悪い、遅くなった!」


オレは魔法や剣を使いながらゴブリンを次々と薙ぎ倒していく。


「あぎゃぎゃぎゃ!」


襲ってくるゴブリンの首を3体同時に刎ねた。


「団長!」


口々に喜びの声が上がった。オレが来たことで士気が上がった隊はあっという間に倒して行った。

朝日が昇る前に終わった。

前の時より早い。前はもっと時間がかかっていた気がする。それもこれもユーリが早く門の前に着いていたからだろう。


「アルト様、巣があるかもしれません」


「……確かに。まずは他の者達を休ませよう。ユーリは少し付き合ってくれるか?」


「はい」


オレはユーリを連れて高台に移動する。

森の中を確認するためだ。


「きっと、そうですね、あそこであってますね」


「今日、逃がすことなくだいぶ消せた気がするんだよなぁ。巣を潰して置かないとまた来るかもな」


「しかし、もう少し炙り出さないと大変かもしれませんね。明日も夜襲をかけて来るでしょう。出てきたところで別の部隊が洞窟行くのはどうでしょう」


「いい考えだな」


ゴブリンは、前の記憶だと3日目は大した数ではなかった。ユーリの案で行けば明日には終わるだろう。


「よし、じゃあ休むか。ユーリも休めよ」


ぽん、と肩に触れる。


ーーしまった。


接触していけないはずなのに触れてしまいユーリの顔を確認する。


「はい、アルト様もどうぞゆっくりお休み下さい」


ユーリは高台から去っていった。


「……服越しだったら平気なのか?」


手を見つめながらオレはそう呟いた。



次の日の夜、やはりゴブリン達がやって来た。オレは門の前で剣を抜き、群れの中に走っていく。

棍棒など振り回す奴の腕を切り落とし、そのまま首を刎ねる。


「あぎゃぎゃっ!!」


横で剣が振り下ろされる音とゴブリンが倒れる音が聞こえる。ユーリだった。

奥の方は遠距離魔法隊と弓部隊が、凄まじい音を立てながらゴブリン達を倒していた。オレは誇らしかった。

もちろんけが人はでるがオレが団長になった頃からは死人が出ていない。連携のうまさとユーリの戦略的知識もあるかもしれない。

オレは団長としてただ最終決定と前に立つことしかできない。

みんなにそれでもいい、と言って貰えているようだった。


「だいぶ減ってきたな」


ユーリと背中合わせになる。


「そうですね。もうこちらは終わりそうですね。あとは別動部隊が上手くやっていればいいのですが」


「ここ、お前に任せていいか!?」


今向かっているであろう別動部隊が気になった。

ここはユーリ達と後ろの魔法隊だけで十分な量になっていた。


「さすがに1人では危ないですよ」


「なんか気になるんだよ。ここ頼んだ」


オレは道すがらゴブリンを倒しながら別働隊の元へ急いだ。

なぜだかすごく胸騒ぎがした。



森の近くに来ると別動部隊が通ったと思われる足跡があった。

洞窟に続いていた。オレはそっと入っていく。

やけに静かだ。心臓の音が洞窟に響いてしまうくらいど、ど、ど、と脈打つ。

遠くから微かに叫び声が聞こえた。

急いで走り、奥まで行くとそこには倒れている別動部隊がいた。


「おい、生きてるか!」


問いかけは無言の返しだったが、微かに息はあった。

ほっと、安心はするもののこのままでは死んでしまう。


「くそっ」


奥に向かって走る。

そこには門の方に来たゴブリン達とは違い一際大きなゴブリンがいた。

ホブゴブリンだ。

1人、戦っている者がいた。この別動部隊の隊長に任命したアレン・ロックハートだった。揺れる赤い髪はまさに今、熱く戦っている男にぴったりな色をしていた。

剣さばきはユーリと引けを取らないくらい素晴らしかった。

埋もれた才能を見つけたオレは、団長として歓喜した。


「ぐわっ!!」


ホブゴブリンの攻撃でアレンが飛んでくる。それをオレは受け止めた。

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