2分で読める! クィア作品の感想日記

織部七本

小説『缶詰サーディンの謎』感想

 ポーランドの作家、ステファン・テメルソンによる小説です。


「物語は一人の文豪が列車の中で頓死するところから始まる。遺された妻と愛人は恋人同士になりスペインのマヨルカ島に移住、そこに女占い師と息子の天才少年、下半身不随の哲学教師とその妻子が現れ、さらにポーランドの将軍の老いた娘やカサノヴァ大尉、気ちがい帽子屋など多彩すぎる人物が入り乱れ、誰も予想できないラストへ向かう------」

というのがカバーに書かれているあらすじですが、これを呼んでもどんなストーリーかピンとは来ないのではないかと思います。

 それもそのはずで、この小説に冒頭から結末まで一貫したストーリーと呼べるものはなく、章ごとに主題も登場人物も移り変わっていくのです。前の章で重要そうに出てきた話題が次の章ではすっかり放置され、今の章でちょっと名前が出ただけの登場人物が後の章では主役になっていたりします。

 サスペンスでもあり、SFでもあり、幻想小説でもあり、ひとつのジャンルに特定できない作品です。逸脱を繰り返しながら無秩序に連なっていく情景の断片を追うようなナンセンス文学……とでも表現するしかないかもしれません。物語の主軸は次々に移り変わりますが、それらをつなぎ合わせるように哲学が作品を貫き、一本の小説としてまとめ上げています。


 というわけでこの小説、クィアな展開が物語を通しての主題というわけではありません。ですが冒頭、死んだ作家の妻アンと作家の愛人だった女性マージョリーが惹かれ合う描写が美しかったため、今回クィア小説として紹介しました。

 文脈が立てられては放棄されていく物語の中で、互いに愛し合う女ふたりが島のはずれに小さな邸宅を買い、物語の混乱など素知らぬ顔で粛々と生活している姿が好きでした。女と女が恋に落ち結婚し共に暮らす選択が、他の出来事と何ら変わらない重みで流れていく手触りは心地良かったです。

 ただし、80年代の作品なので描写がやや古めといいますか、クィアを性的捕食者として描くような場面もあり、現代の読者としてウッとなってしまったところもありました(女友達に対して〝私たちふたりであなたの夫を相手してあげてもいいわよ〟的な冗談を言う場面など)。

 あと犬が可哀想な目に遭うのでその点も注意です。


 以上の点を踏まえ、けっして「良質な百合だよ! 読んで!」と万人におすすめできる作品ではないのですが、奇想小説として私の好みに刺さり、しかもさらっと女女カップルが出てくる! やったー! ということで今回ご紹介させていただきました。

 私は恋愛がメインテーマではない物語に出てくるクィアが大好きです。寝て起きてごはんを食べて、仕事したりしなかったり、パートナーがいたりいなかったり、当たり前の生活を送っているクィアが当たり前に存在している平凡な光景が好きです。

 もちろん恋愛がメインテーマの物語に出てくるクィアも大好きです。この世にもっともっとクィアの物語が溢れかえりますように。

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