冷めたらまずいボクサー
ハクション中西
第1話
むかしむかし、あまりにも強いボクサーがおりました。
そのボクサーはあまりにも強く、今までの全ての試合に毎回1ラウンドでKOをしていました。
そして、無敗のまま世界チャンピオンになったのです。
そして、自分の試合が毎回1ラウンドで終わってしまうということを強さの象徴としてアピールするため、パフォーマンスを考えました。
試合がはじまるリングの上で、ギョウザを焼くのです。
そして、焼き終わると試合が始まり、試合が終わったらギョウザを食べるというパフォーマンスです。
観客たちはこう思うのでした。
「ギョウザなんて、さめたら美味しくないのに、よっぽど早く倒す自信があるんだ!」
そして、毎回きちんと1ラウンドでKOをして、リングの上でギョウザを食べるのでした。
「熱くて美味しい。口の中も切ってないから、ラー油をたくさん入れて食べても美味しい」
そう言って、KOした対戦相手にギョウザを持っていこうとしてから、わざとらしく「あっ!口の中、切ってるからギョウザは今は沁みるから無理かあ〜」と言うのでした。
対戦相手は、それを聞いて悔し涙を流しながら、タンカで運ばれていくのでした。
パフォーマンスは毎回成功し、1ラウンドでKOしてから、「まだギョウザ、全然熱い。ふぅふぅーせなあかんぐらいや」と言いながらギョウザを食べました。
パフォーマンスはエスカレートしていきました。
最初はギョウザを焼いてから試合を始めるだけでしたが、さめたら美味しくない他のいろんな料理も準備するようになりました。
ギョウザ、ピザ、激辛麻婆豆腐を熱々の状態にして、試合を始めました。
麻婆豆腐は激辛にして、「俺はパンチを一発ももらわないから、口の中を切らないし、熱々で美味しい」ということをアピールするのにピッタリの料理でした。
むしろ、1ラウンド前半で簡単に倒した時は、「辛くて熱くて美味しいけど、もうちょっと粘ってくれないとちょっと熱すぎるわあ〜」と言いながら、わざとらしく異常に、ふぅーふぅーしながら食べました。
普通、激しい運動をしたあとに熱いものなんて、食べたくないのですから、観客たちは、その強さとパフォーマンスに熱狂をしました。
「これは試合の汗じゃなくて、辛いもん食べた時の汗」というセリフはその年の流行語大賞に輝きました。
食べ物だけではなく、30戦全勝を記録したあたりから、曲のパフォーマンスもはじまりました。
1ラウンドの開始のゴングが鳴ってから、クリスタルキングのヒット曲【大都会】が流れるのです。
テトテトテトテト…♫
1ラウンド、15秒で見事にKOをし、チャンピオンはイントロに間に合いました。
「あーあー、果てしない〜♫夢を追い続け〜♫」
観客は熱狂しました。
いくらこの曲のイントロが少し長いとはいえ、歌い出しに間に合うとは!!!
あと、原曲キーの高音がちゃんと出る、といういらん才能も持ってることにもみんな驚きました。
ボクサーの名前は、田中よしお、という名前でしたが、名前が平凡だと考え、リングネームとしてレジェンド・ザ・ピッツァと名乗りました。
もちろん、試合後にピザを食うからです。
さて、そんな強すぎるボクサーの記念すべき50戦目です。
49試合連続で1ラウンドKOを繰り返し、50戦目のこの試合で引退すると表明していたビッグイベントは、日本中、いや世界中が注目する試合でした。
熱々だと美味しいけど、冷めたら美味しくない料理が大量に用意されました。
対戦相手はメキシコの選手でひとつ下の階級から上げてきた選手ホセ・マラドーナ です。
もちろん強い選手ではありますが、下馬評ではやはり圧倒的にチャンピオン有利でした。
リング上では、ギョウザが焼かれ、激辛麻婆豆腐が作られ、さらにピザの配達のお兄さんもリングに上がってきました。
いよいよ、試合が始まります。
会場全体に緊張感が充満してきました。
カーン!テトテトテトテト…♫
試合は激しいダウンの応酬で、11ラウンドが終わりました。
チャンピオンの顔は珍しく腫れ上がり、やや挑戦者が押している展開です。
いよいよ落日の日が来たのか。みんなそう思いました。
運命の12ラウンドです。チャンピオンも挑戦者も死力を尽くして戦いました。
最後の12ラウンド、終了間際、挑戦者のホセの右ストレートがレジェンド・ザ・ピッツァのアゴをとらえ、腰がくだけ、倒れそうになりました。
猛然とラッシュをしようとしたところ、レフェリーが割って入りました。
KO負けかと思われましたが、試合終了のゴングが鳴ったのでした。
判定結果が出ます。
のちに疑惑の判定として、WBAが再戦を命じることとなるのですが、2-1のスプリットデシジョンで、チャンピオンの判定勝ちになりました。
ギリギリのところで、勝利をおさめたのです。
リングアナがリングにのぼります。
「放送席!放送席!いま、死闘を繰り広げた、チャンピオンにインタビューしたいと思います」
チャンピオンは、マイクに向かって口を近づけました。
「あーあー、はってっしーない〜♫」
もちろん曲はとっくに終わっています。
アナウンサーは、どうつっこんでいいか分からずにとりあえず「いや、本当に果てしない激闘でした」とだけ言いました。
いつのまにかリング上には、料理の数々が載ったテーブルが再び持ち込まれていました。
チャンピオンは、ギョウザをつまみあげ、ふぅーふぅーしはじめました。
アナウンサーは「こいつ、マジか」と思いました。
チャンピオンはギョウザを食べて「はふはふ、ほいひー」と言いました。
リングアナは、当然、もうそのパフォーマンスはやらないと思っていたので、肩透かしをくらい、とりあえず見つめていました。
ギョウザをハフハフ言いながら食べてるその様子に、世界中がむかつきました。
嘘つけ、と思いました。
リングアナは、近寄っていき、チャンピオンにこう言いました。
「ギョウザ、チンしますか?」
チャンピオンは両目から涙を流しだしました。そして「なんで?」と言いました。
リングアナは腹がたちました。
何が、なんで?やねん。
冷めてるのにふぅ〜ふぅ〜するな!!
リングアナは「激辛カレーもありますよ。激しい運動のあととかはきついかもしれませんし、口に沁みるかもしれませんし、冷たいカレーはさすがにきついっすかね」と言いました。
チャンピオンは涙目で睨みながら、カレーライスをふぅーふぅーしながら食べ始めました。
「流行語大賞のやつ、言わないんですか?」とリングアナが追い詰めます。
マイクを向けられたのでチャンピオンは仕方なく、「これは試合の汗じゃなくて、辛いもん食べた時の汗」と言いました。
リングアナは「嘘つけ!試合の汗や!」ととうとうツッコミました。
チャンピオンは「なにが?」と言いながら、カレーを食べ終わりました。
リングアナは「もうすっかり麺が伸びてる激辛担々麺もありますよ」と言いました。
チャンピオンは、かたまりました。
どこを見てるのか、焦点が定まっていません。
しかし、チャンピオンには意地があります。激辛担々麺の鉢の横に置いてあるお箸に手を伸ばそうとした瞬間、その箸を先に手に取る者がいます。
対戦相手のホセです。
「僕もてつだいまーす」
そう言ってホセが伸びてる担々麺をすすりはじめた瞬間にチャンピオンはこう叫びました。
「負けたーっ!口が痛いーっ!!さめてる!まずいーっ!!!でも、ボクシングよ!今までありがとうーっ!!!!!」
こうして、世紀の一戦は幕を閉じたのでした。
おしまい。
冷めたらまずいボクサー ハクション中西 @hakushon_nakanishi
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