ステータス・ロンダリング 〜レベル1の【削除済】料理人がゴミ素材で世界のバグを喰らい、最強の執行騎士をオーバーキルするまで〜
ソコニ
第1話 システムハック・クッキング
[SYSTEM ALERT]
残存時間: 00:02:47
敵性個体検出: Lv.99【執行騎士・ヴァルザード】
脅威度判定: FATAL
生存確率: 0.003%
推奨行動: 即時逃走
クソが。
俺――エイト・ノーラン、レベル1、職業【削除済料理人】――は、崩れかけた路地の奥で、拾い集めたゴミ素材を両手に抱えていた。
目の前には、全身が光学迷彩のように揺らめく銀色の巨体。
レベル99の執行騎士。
この世界の「異常者」を処刑するために作られた、システムの番犬だ。
「――異常検出。ID:8-NL。ステータス改竄の痕跡を確認。排除プロトコル、起動」
騎士の声は機械音声。人間の言葉じゃない。
[DAMAGE FORECAST]
ヴァルザードの通常攻撃 → エイト・ノーラン
予測ダメージ: 999,999
現在HP: 12
判定: 即死確定
ああ、終わりだ。
普通ならな。
「――いや、終わらねえよ」
俺は震える手で、ポケットから折り畳み式の魔導コンロを取り出した。
ギルドから追放される時に盗んできた、型落ちの調理器具だ。
そして、拾い集めた「素材」をコンロの上のフライパンへ投下する。
[MATERIAL DETECTED]
・【バグ・ポテト】×3
→描画エラー地点産。座標データに欠損あり
・【ノイズ・ソルト】×1握り
→魔導回路ショート時の結晶化塩。演算負荷+300%
・【スライムの核(OS残骸)】×1
→低層モンスター死亡時のログ圧縮体
「おい待て――貴様、何を――」
騎士が剣を構える。
だが、遅い。
俺は魔導コンロの側面パネルを強制的にこじ開け、クロック周波数のリミッターを物理的に破壊した。
ガギィィィン――ッ!!
コンロが悲鳴を上げる。
規定の3.7倍の出力で、フライパンが真紅に発光し始めた。
[WARNING: OVERCLOCK DETECTED]
出力: 370%
素材崩壊: 開始
物理演算: 不安定化
バグ・ポテトが溶ける――いや、違う。
「溶ける」という概念すら無視して、ポリゴンが剥がれ落ちるように崩壊していく。
芋の細胞が熱分解されているんじゃない。
座標データそのものが、エラーを起こして分解されているんだ。
「次――ノイズ・ソルト、投入」
右手を45度傾け、塩を3.2グラム――誤差±0.01グラム以内で振りかける。
瞬間、フライパンの中の物理法則が狂った。
[PHYSICS ERROR]
重力ベクトル: 消失
質量保存則: 無効化
熱力学第二法則: 停止中...
崩壊したポテトの破片が、フライパンの中で浮遊し始める。
塩が周囲の演算リソースを食い潰し、世界のルールがバグっている証拠だ。
虹色のノイズが、フライパンの縁を這い上がってくる。
「――貴様ァァァ! それ以上の調理行為は禁止事項に該当する! 即刻中止しろ!!」
騎士が突進してくる。
残り距離、12メートル。
10メートル。
8メートル。
俺の手が、最後の素材に伸びる。
スライムの核。
こいつは慎重に扱わなきゃいけない。中には低層モンスターが死ぬ瞬間に残した「ログファイル」が圧縮されて詰まってる。
下手に刺激すると――
「――ああ、構うかよ」
俺は核をフライパンの縁に叩きつけた。
バリィィィンッ!!!
核が砕け散り、中から虹色のデータストリームが噴出する。
それがフライパンの中で浮遊するポテトに絡みつき――
螺旋を描きながら、融合していく。
[CRITICAL: RECIPE COMPLETE]
生成物: 【パッチ・フリット(脆弱性攻撃用揚げ芋)】
効果: レベル差補正の反転(10秒間)
副作用: 視認時INT-20、思考処理速度80%低下
危険度: S-ランク(摂食非推奨)
完成した。
フライパンの上で、虹色のノイズが走り続ける、バグったポテトが回転している。
見ているだけで頭が痛い。
脳が「これを視覚情報として処理するな」と拒否反応を示している。
だが、これこそが――
「――俺の、世界に対する復讐だ」
騎士が目の前まで来ていた。
剣が振り下ろされる。
俺は、虹色のポテトを口に放り込んだ。
――ガリッ
噛んだ瞬間。
味は――吐瀉物を電子レンジで爆発させたような、この世の終わりの味だった。
腐った芋。
金属臭。
データの残滓が舌の上で暴れ回り、味覚神経が焼き切れそうになる。
吐き出したい。
今すぐ吐き出したい。
だが、脳に走る快感は麻薬以上だ。
[SYSTEM OVERRIDE]
摂食者: エイト・ノーラン(Lv.1)
効果発動: レベル差補正反転
対象範囲: 半径30m
持続時間: 00:00:10
[LEVEL RECALCULATION]
ヴァルザード(Lv.99) → デバフ適用 → 実効レベル: 0.99
エイト・ノーラン(Lv.1) → バフ適用 → 実効レベル: 99.01
[DAMAGE CORRECTION: INVERTED]
世界が、ひっくり返った。
俺の視界に、騎士の「弱点座標」が赤い光点として浮かび上がる。
額の中心。
心臓部。
膝関節の隙間。
全てが、透けて見える。
骨格のワイヤーフレーム。
血管の流れ。
筋肉の収縮パターン。
すべての「内部データ」が、丸見えだ。
「――な、何だ、この、異常は――!?」
騎士が混乱している。
当然だ。
お前は今、レベル1以下になった。
そして俺は、実質レベル99だ。
「教えてやるよ、騎士サマ」
俺は右手の人差し指を、騎士の額に向ける。
口の中はまだ地獄の味で満たされている。
だが、この感覚が、たまらなく気持ちいい。
「――料理ってのはな、世界を喰らう行為なんだよ」
デコピン。
指が騎士の額に触れた瞬間――
[DAMAGE CALCULATED]
エイト・ノーラン(実効Lv.99)の指弾
→ ヴァルザード(実効Lv.0.99)
最終ダメージ: 1,284,772
対象HP: 8,500
判定: OVERKILL
――ガシャァァァァンッッッ!!!!
レベル99の執行騎士が、ガラスの人形のように粉々に砕け散った。
破片が路地に降り注ぐ。
キラキラと、虹色に光りながら。
美しかった。
最高に、美しかった。
俺は、そのままゴミ溜めの上に座り込んだ。
[BUFF REMAINING]
00:00:03...
00:00:02...
00:00:01...
[EFFECT EXPIRED]
効果が切れる。
俺のステータスが元に戻る。
レベル1。
職業【削除済】。
所持金ゼロ。
口の中にはまだ、地獄の味が残っている。
胃がムカムカする。
吐きそうだ。
「――ハッ、やっぱ、バグ技は最高だな」
俺は空を見上げた。
この世界は「レベル」と「ステータス」で全てが決まる。
強い奴が偉い。
弱い奴は死ぬ。
単純で、絶対的で、変えられないルール。
――だが、そのシステムには、穴がある。
俺はこれから、その穴を全部見つけ出して、喰い尽くしてやる。
どんなに不味くても。
どんなに苦しくても。
料理という名の、ハッキングでな。
[CHAPTER 1: END]
獲得経験値: 0(システムエラーにより無効化)
獲得金: 0
獲得スキル: なし
所持金: 0
空腹度: MAX
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