そのまま話してください。

久部花洛

第1話 そのまま話してください。

人間を見たのは間違っていた。本当に見るべきだったのは、その後ろのもっと邪悪な獰猛な、異常。



夏の晴れた午後。彼の口が、冷静に語った。


「雨の日になると、どうも自分を押さえられなくなる。最初は小さいものだった。お菓子を食べるのをやめられなくなったり、クロスワードがやめられなくなったり、文字を書くのをやめられなくなった。だけど、日を追うごとに、それは変わってしまう。壁を殴るのをやめられなくなったり、ガラスを割るのをやめられなくなったり」


「続けて」


「本当はあんなことしたくなかったんだ。だけど、体が苦しいんだ。あぁしなければ、息ができなかった」


「続けて」


「俺はあくまで、頭に響く声の言う通りにしただけだ」


「落ち着いて。続けて」


「…俺は、ある雨の日に、学校帰りの女の子を見かけた。六歳ぐらいの小さい子…だった。押さえられなかった。俺はその子に駆け寄り、とっさにその子を抱えて、人気のないところに行ってから、首に手をかけた。その子の顔がどんどん青くなり、首の動脈が跳ね返るのがよく聞こえた。最後は泡を吹いて、精一杯こっちを睨んでいた。

「…分からない。声がうるさくて。ずっと話しかけてくるんだ。永遠に同じ言葉を言って。続けて続けて続けてって。まるで、俺は操り人形のように、その声に従ってる」


「続けて」


「その声はーー」


「続けて」


「俺はーー」


「続けて」


「いや、違くてーー」


「続けて」


独房の壁に向かって、男の声は今もなり続けている。雨は、止める気配を知らない。

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そのまま話してください。 久部花洛 @HAIJIN_618786

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