初恋はスノードームに包まれて

ねえサンゴ

初恋はスノードームに包まれて

 街はきらびやかなイルミネーションに染まり、どこからともなくクリスマスソングが聴こえてくる。華やかな景色の中、楓香は、人波をかき分けながら公園へと急いでいた。 

  公園についてから、ぐるっと辺りを見回しベンチに座った。蒼真からの突然の呼び出しに、心の中は、不安と期待が交錯していた。


  別々の高校に進学してから、全く連絡をとっていなかった幼馴染の蒼真からのLINEに、何かあったのか聞いても、明日とだけ返信が来るだけだった。何かあったのだろうか、と心配する一方で、自分を頼って連絡をくれたことが嬉しかった。

 学校が終わり急いで駆け付けたが、呼び出された日が、12月25日のクリスマスというのには、少し納得がいかなかった。

「こんな日に待ち合わせ場所に来るなんて…。これじゃ、まるで恋人がいないと言っているようなものじゃない⁈」

と、通り過ぎる人達に聞かれないように小さく不満を呟いた。それでも、久しぶりの再会に、ワクワクしていた。


 蒼真に指定されたこの公園は、幼稚園の帰りに、2人がよく遊んだ場所だ。

コートのポケットに手を入れ、カイロをギュッと握りしめた。

(今日は、特に寒いな。)

と、見上げた空は真っ暗だった。ふわふわと何かが落ちて来る。

「あっ。雪だ。」

 誰かが、同時に呟いた。びっくりして正面に顔を向けると、蒼真が立っていた。

「遅くなって、ごめん。待った?」

懐かしい声だった。

「ううん。いま来たところ。」

  本当は、待ち合わせ時間よりずっと早く来ていた。身体はすっかり冷え切っているはずなのに、蒼真の優しく微笑む姿に、不思議と寒さが消えていった。

 高校生になってから初めて見る制服姿に、なんだか急に照れくさくなって、楓香は噴水に目をそらした。


 噴水が光をまとっている。水がカラフルな橋を作っていた。

「綺麗。夜に来たことがなかったから知らなかった!」

と、興奮気味に話す楓香に、

「そうだよね。初めて見た時は、俺もびっくりしたよ。小さい頃は、幼稚園の帰りだったから、ずっと昼間だったし。夜になんて遊びに来ないから、知らないはずだよね。」

「でも、案外小さくてびっくりだね。公園も意外と狭くて。あんなに、追いかけっこして遊んでいたはずなのに。」

「本当。小さい頃は、何でも大きく見えていたんだろうね。そう言えば、一度だけ喧嘩したの覚えてる?」

蒼真が、唐突に質問してきた。

「覚えてるよ。蒼真が突然、サンタクロースはいないとか言ってきて。私は絶対にサンタさんはいるって言って泣いて。どっちも引かないから喧嘩になってね。」

と、楓香が笑った。

「あの時は、ごめん。」

蒼真が深々と頭を下げた。

「ちょっと、やめてよ。そんなの、もうとっくに仲直りしたじゃん。お母さんが抱きかかえてだけど。」

「いや。それが…。」

「えっ?まさか、そんな事をずっと気にして、今日呼び出したとかじゃないよね。」

「違う。サンタがいないとかって言いたかった訳じゃなくて。」

口ごもる蒼真に、

「かわいいよね。小さい頃って。そんな事で喧嘩して。もう気にしてないからいいよ。」

 楓香は立ち上がると、すらっと背の伸びた蒼真を見上げていた。

「えっ。背が伸びてる!卒業式の日は、私と同じくらいじゃなかった?」

「あれから、一気に20センチ伸びた。」

蒼真が、自分の手のひらを頭に乗せ笑いながら言った。

「え~。こんなに抜かされるなんて。蒼真には、何でも勝ってたはずなのに。かけっこも、お絵かきも、縄跳びだって。」

楓香が悔しがっていると、

「幼稚園の頃は、なんでも楓香がかばってくれてたよね。いじめっ子が来ても、立ちはだかって助けてくれたよね。……実は、あの日、テレビで『恋人がサンタクロース』って歌が流れてて。サンタは、恋人なんだって思って楓香にいないとか言っちゃったんだよ。」

「あはは…。なんだ。そうだったんだ。そういえば、大丈夫なの?今日なんて、サンタさんは大変じゃないの?恋人とかいないの?」

「彼女?いないよ。でも、出来るかも。」

「好きな人いるんだ。」

  楓香は、心がぎゅうっと締め付けられる感じがした。必死で平静を装っていたが、自分の中でこんなに蒼真のことを特別に思っていたことに、気がついてしまった。驚きと寂しさが同時に胸に押し寄せる。

 2人の間を、沈黙した時間が流れた。


  しばらくして、蒼真が袋を差し出してきた。

「実は、あの日に渡したかった物。」

 蒼真の声は、少し震えていた。袋を差し出す手も、わずかに躊躇しているように見えた。楓香が袋を受け取り中を覗いてみると、そこには、サンタとトナカイのスノードームが入っていた。

「何これ?」

蒼真は、息を整えるように小さく深呼吸をしてから、

「俺を、楓香のサンタにして下さい。」

楓香は驚いて、蒼真の目をじっと見つめた。

「突然ごめん。嫌だったよね。」

蒼真は、困ったような声をあげた。

「違うの…。さっき彼女がいるか聞いた時、初めて誰かが蒼真の隣にいる状況を想像したの。今までずっと幼馴染として一緒にいるのが当たり前だと思っていたのに、苦しくなって。だから、すごく嬉しくて。」

「恋人にしてくれるって事?」

楓香が照れくさそうに、ゆっくりと頷いた。

「やったー!」

蒼真は嬉しそうに笑いながら、

「それは、幼稚園の時に渡しそびれたプレゼント。プレゼントを渡せない時点でサンタ失格だけどね。」

と、今度はクリスマスカラーの長細い箱を渡してくれた。

「サンタになって初めてのプレゼントを受け取って下さい。」

 そうっと開けると、中からネックレスが出てきた。

「これって、私が欲しかったネックレスだよ。」

小さなハート形のピンク色の宝石のついたネックレスを握りしめた。

 蒼真はあの頃のように、いたずらっ子な目をしながら、

「卒業式の後、みんなで遊びに行った帰り覚えてる?店の前で楓香、これ見てたじゃん。女の子達と、いつか買おうとか言って盛り上がってたの見てたから。もしサンタになれるなら、初めてのサンタの仕事は、このネックレスを届けることだと思って、バイト代を貯めて。どうしても今日、渡したかったんだ。」

と、優しく微笑んだ。

 楓香の目からは涙が溢れ、頬を暖かいものが流れ落ちるのを感じた。


 サンタはいると信じ、喧嘩になったあの日のように泣きじゃくる楓香を、蒼真は優しく抱き寄せた。蒼真の手は大きくて、暖かくて、自分よりずっと大人に感じられた。

「寒くない?」

「うん。大丈夫。あったかい。」

楓香は、蒼真の顔を覗き込んだ。

「ほら。やっぱりサンタさんは、いるじゃん。」

と不満顔で口を尖らせる楓香の鼻を、

「本当だ。赤い鼻のトナカイもいる。」

蒼真は指先で軽くつっついた。

 2人の顔が自然と近づいた。



 降り積もる雪は、公園を白銀の世界へと変えていく。光に照らされ舞う雪は、2人を優しく包み込んでいた。それはまるで、スノードームの中にいるみたいに、きらきらと輝いていた。







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