律儀なガードマン

星野芳太郎

 律儀なガードマン〜信じられないほどの堅物

 俺が現役だった昭和の終わり頃、都内の病院のプロモーションビデオの仕事を請け負ったことがある。その時の信じられないような話をしよう。

 その病院は、二ヶ月あまり前にオープンしたばかりで、ホテルと見まがうような外観や内装が売りだった。診療機器や検査機器も最新鋭のものを整え、特に循環器や呼吸器の診療、治療では都内屈指の病院、と言うのが看板であった。

 通常は、プロモーションビデオはオープン前に制作するものだが、各種の事情で予算化が遅れたらしい。俺は台本を作成し、スケジュールを調整しながら撮影に入った。

 開業中の病院の撮影で気をつけねばならないのは、患者の肖像権である。特に病気と言うプライバシーではデリケートな部分にふれるだけに、たとえば待合室を映す場合など、顔がよく分からない広い映像でも、患者のいない時間帯にエキストラを仕込んで撮影するように心がけた。

 病院の外観の撮影は、天気がよくなったクランクイン二日目に行うことにした。光線の具合の最もいいのは午前11時ころ、と言うのはロケハンで確認していた。

 撮影には総務課長が立ち会った。

 でっぷりして、病院づとめには不似合いなほど不健康そうな男だった。聞くと、高血圧で糖尿病もかかえているらしい。

 撮るのは4カット。目いっぱい離れてワイドレンズで撮る遠景、正面玄関の中ロングでエキストラ3名が入っていく場面、玄関脇の彫刻、それに下から見上げる窓の一角だ。

 まず、エキストラの出演場面から撮影するため、三脚を立て、テストをしようとしていたときだ。ガードマンがすっ飛んで来た。

「ねえねえ、無許可で、撮影は困ります。すぐに止めて下さい」

 俺たちの横にいた総務課長は、苦笑いしながらガードマンに歩み寄り言った。

「いいんだ、いいんだ、これは、病院で作っているビデオ撮影なんだから」

「しかし、総務課から連絡文書が来ていません。文書がない場合、絶対に撮影は許可しないようにとの指示を受けていますので」

「私は総務課長の田中だよ。私がついているのだからいいんだよ。ほら」

 総務課長は、首から下げている自分のIDカードをガードマンに示した。

「しかし、文書がないと駄目だってことは、総務課長なら分かるでしょう」

「病院側が撮るぶんには、申請なんていいんだよ。撮影許可申請の書類を、うちの病院からうちの病院へ出すなんて、おかしいじゃないか」

「そんなのは理由になりません。例外を認めたら際限がなくなります」

 そうこうしているうちに、揉め事に気づいたもう一人ガードマンがやってきた。

「どうしたのですか?」

「撮影許可を受けずに撮影しようとする、ふてえやつらだよ」

「ふてえ、とはなんだよ。ここは、うちの病院なんだよ」

「だったら、ますます許可申請が必要なことがわかるでしょう。撮影したいのなら、ちゃんと申請して下さい。我々は、病院が許可した撮影しか認めることはできないんです」

「許可は、私が出しているんだ。だから、問題ないんだ。もし、君達の責任になると思うのだったら、総務に確認をとればいい」

「とか、うまいこと言って、われわれガードマンを試すつもりですか。冗談じゃないですよ。駄目なものは絶対に駄目ですからね」

「あんたは偉い。ガードマンの鏡だよ。だがね、臨機応変というものがあるだろう」

「そんなに言うのなら、いちおう、総務に確認してみますがね。総務では、言いくるめられたりしないように、口を酸っぱく注意されているんですから。片山君、この人たちが勝手に撮影しないように、よく見張っててくれ」

「わかりました」

 体格のいい若手のガードマンは、私とカメラマンを睨み付け、もしレンズを病院へ向けようものなら、カメラを奪い取って地面に叩きつけてしまいそうな形相だった。

 五分もたたないうちにガードマンが戻ってきた。

「お待たせしました。総務で確認をとったところ、特別なケースについては、総務課長の判断が必要だそうです。総務の田中課長は、ちょうど建物の外観を撮影するために玄関付近にいるはずだって言うんですけど、あなたが田中課長でしたよね。書類もないのに撮影しようとする連中を許可しても、いいものですかね」

「だ、だ、だから、だから、だから、いいといってるだろう。この、おれがーっ、うううーっ」

 と、叫んだとたん、崩れるようにして倒れこんだ。

               終わり

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律儀なガードマン 星野芳太郎 @yoshiyarou

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