陸上部のクラスメイトが先輩のイケメン女子に告白すると言い出した
モンブラン博士
第1話
陸上部の練習が終わっての帰り道。
隣を歩いている赤城涼子(あかぎすずこ)がこちらを見た。
涼子は真剣な目を向けて言った。
「アタシ、夏希先輩に告白しようと思う」
酒井恵(さかいめぐみ)は涼子の言葉に大きく目を見開いた。
ついにきたか、という気持ちとやっぱりなという諦観が混じる。
「なんで?」
「好きだから」
即答だった。その瞳には一切の迷いがない。
やめとけよ、という台詞を唾と一緒に飲み込む。
「一年のときから、ずっと好きだった。告白するなら、いましかない」
三条夏希(さんじょうなつき)は三年生で、次の大会が終わったら部活を引退する。
ここを逃せば機会がないのはわかる。
涼子はここに全てを懸けるつもりだ。
傍から見ていて無謀な勝負だとは思う。
相手は女で、先輩で、しかも彼氏持ちだ。
百パーセント敗北する未来が見える。
仮にも同じ部活とクラスに所属する友人なら制止すべきだろう。
しかし恵は、二年間ずっと涼子が三条を慕う様子を見てきた。
陸上部のマネージャーとしてずっと三条と恵を支えてきた。
もしも涼子が落ち込んだとしても、慰めることぐらいならできる。
嘆息と共に言葉を吐き出す。
「そっか。頑張れ」
「ありがと」
フッと口元を綻ばせる涼子が上から目線で腹が立ち、頬を思いっきり引っ張る。
餅みたいに伸びる頬がおかしかった。
穏やかな日々が続いていた。
練習はキツいけど、すこしでも自身のタイムがよくなるのは嬉しい。
恵の傍を三条が駆ける。風のように爽やかで圧倒的な走り。彼女の走りはすこしも無理しているところがなく、いつも楽しそうに思える。
何度グラウンドを周っても、まったく追いつくことができない。
「先輩、どうぞ」
「ありがとう」
タオルとペットボトルの水を渡す涼子の耳は赤い。
見上げる瞳はキラキラと輝いている。完全に恋する乙女だ。
確かに三条はかっこいい。女子にしては長身で脚も長く引き締まっている。
短い髪に涼しい目元。微かな胸の膨らみがなければ、イケメンにしか思えない。
けれど三条は女で、その事実を覆すことはできない。
涼子は三条の王子様っぽい振る舞いに憧れているだけでは? と思う。
ファンがアイドルに向ける感情に近いかもしれない。
タオルとペットボトルを返され、涼子は口元に笑みを浮かべて駆けていく。
その姿は本当に嬉しそうで、やっぱり止めることはできそうにもない。
大会は近づく。恵と涼子の勝負の日が迫ってくる。
恵は大会で二年の部で三着というそこそこの結果を残せた。
自分なりに努力したつもりだったが、上には上がいた。
悔しい気持ちはあるが、全力を出したのは間違いない。
恵には来年もある。次こそは一着を取ればいい。
表彰式を終えて、恵の思考は涼子の恋の行方に奪われた。
大会が終わったら告白すると涼子は告白すると言っていた。
ならば今日中に想いを告げても不思議はない。
会場を見回すが、ふたりの姿はない。
恵は確信した。間違いなく、ふたりきりで話しているのだと。
探したい衝動を拳を握って抑える。いまだけはふたりきりにしてやりたい。
自分のくだらない好奇心で告白に水を差したくない。
陸上着から私服に着替えてしばらく待っていると、涼子がこちらにやってきた。
「帰るわよ」
「そうだな」
帰り道はふたりとも無言だった。恵は途中で買ったペットボトルのお茶を飲む。
冷たく香り高いお茶が喉を潤す。
傾けたペットボトルを口から外し、キャップを閉める。
「告白した」
ドクンと心臓が強く鼓動を打つ。額から汗が噴き出す。やっぱり想いを告げたのだ。
続きを聞くのが怖い。
逃げ出したいが、涼子の背中を押したのは自分なのだから、最後まで聞く義務がある。
こちらをじっと見つめる勝ち気な瞳が潤み、弱々しい笑みを浮かべる。
一筋の雫が右目から流れた。
「今度一緒に遊園地行こうって言われた」
「よかったな」
「うん」
涼子は目元を拭って、笑みを深めた。
遊園地に行ってくれるのは単なる後輩としてなのか。
それとも三条なりの好意への感謝なのかはわからない。
真実はわからなくとも、涼子は笑っている。
その事実が友人として嬉しかった。
「告白してお腹空いた。ハンバーガーでも食べにいきましょう」
「私も?」
「当然でしょ」
「悪くない提案だな」
「でしょ?」
涼子が腕を引っ張って歩き出す。
その背中は真っすぐで、先ほどの弱気は消えていた。
おしまい。
陸上部のクラスメイトが先輩のイケメン女子に告白すると言い出した モンブラン博士 @maronn777
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