星の気まぐれ
@RENTUMU
第1話
星に願いを込めていたかつての少年は
いつしか 星に時間を見るようになった。
男の目に映る この国では
食えぬもの 宿が無いもの
物乞い 物取り これが当たり前にいて
法は あたりまえに 通用しない。
それだけならまだいい。
まだ なんとかなるかもしれないが
貧困から 薬に手を染める者も少なくはないのだ。
金星が光る頃
男は いつものバーへ
「しゅびは?」
「上々で。」
出された バーボンをたしなみはじめた。
今日 この日 この国は 生まれ変わるのだ。
この男 ハレン ユワルツ の手によって。
ガコッ
バーの扉が 乱暴に開かれる。
そこに 転がってきたのは
ハレンの部下 ユンだった。
いや ユンだったものだ。
「…。」
「ご機嫌よう
今夜は 金星が一段と輝いている
ハレン君の教育は 優れたものであったと 評価しよう」
白髪 長髪、丸メガネの男は
ユン の 軍バッチを ハレンへと
投げた。
「だが、 星に命を投げたようだ」
「ヨハネ 説明してもらおう」
「説明が必要かね?
国防軍 所属のネズミが
我が 近衛兵の宿に忍び込んだ
ひとしきり ネズミは 暴れ回ったあと、 今こうして 上司の前に帰ってきたという事だ。」
「…。 そうか
1つ 聞かせろ」
「なんなりと。」
ヨハネは 嫌な笑みを浮かべる
「ユン の最後は。」
「ぐひひ。
彼は 最高の軍人であった。
誉れを持って 仕えていた。
ひとつ間違いがあったのなら
その 仕えた先が 国王か あるいは
軍師か
彼はその二択を間違えた。」
「もういい」
「では さよならだ ハレン ユワルツ」
男は ハレンに 剣銃を向ける。
「…。」
「キヒッ」
バンッ
弾丸が 貫いたのは
男の肩であった。
「うちの店では 火気厳禁だ
他所でやってくれ」
肩を抑えながら
男は あっさりと引き下がった
流石 近衛兵だ
鼻が利くのであろう
引き際を弁えている。
おそらく ここで 戦闘になれば
ハレンの方に分があったからだ
転がる ユンをみて
ハレンは 十字を切った。
メラメラメラ
「ちっ 今日はなんて夜だ。」
警官のひとりが嘆く。
「同意だな」
市民を誘導する 兵士も
警官がこぼした 本音と同じ心を持っていた。
今 この国一番の 貧困街で
大規模火災が起こっている。
夜番だというだけで
自分達は わざわざ こんな場所まで 派遣されてきたのだ。
普段の 夜番は ただ 各々
自室にこもり、ハーブティーをたしなみ 眠くなれば眠る
それだけの仕事であったのに
どうして 今晩は。
「はぁ やけに 星が光ってやかってやがるぜ」
与太話を する 2人の脇を
1人の青年が 通る。
男性にしては小柄で
ボサボサの 髪に チェーンのネックレス。
そして その ネックレスには
国軍の バッチが 飾られていた。
「どうやら 近衛の方でもなにかあったらしい。」
「ほんとうにどうなってる…」
それが 二人が この世で最後に口にした言葉であった。
ジャシュッ…。
大火事の中で 慌てる人々は
例え 首が繋がっていない ふたつの死体があったとしても 気づかない。
1人 また1人と
今夜の 星に 飲まれていくのである。
血まみれの少年は 一言。
「アーメン」
カランコロン
「サー! お時間です!」
「…うむ。」
ハレンは 飲みかけのウィスキーを
カウンターに置き そのまま バーをでる。
「ご武運を。」
マスターは グラスをふきながら
ハレンを 送り出した。
バーを 出ると
隊列を組んだ 軍人達が
敬礼をして 待機していた。
ピンっと緊張感がその場を支配する。
彼らにむけハレンは静かに
ただ 強い意志をその目に宿し
語り始めた。
「…イスカリオテのユダは
銀貨 30枚で 裏切りをした。
同士諸君は そうか?
私は違うと 確信している。
かつての英雄 ブルータスが行ったように
小宵 我らも なすのだ
革命を…夜明けを!
我が軍は 国王に使えているのではない!
我らが 剣を 銃を握るのは
この背中に 幼き子がいるからだ
愛するものがいるからだ
愛を くれた もの達がいるからなのだ!!
諸君らの勇気が 彼らの明日を
この国の未来を 変えるのだ!
今宵の星は 太陽よりも輝いている!
我らに神は微笑んでいる
誓いを! 祈りを! 革命を!」
「「うぉおおぉおお!!」」
ハレンが 突き上げた右手に
兵士達も続く。
彼らは その命を持って
国に尽くすのだ
この腐りきった 世界に
星の導きがあらんことを。
部隊は 隊列を組んで 街を行進する。
揃った足並み、足音は強い覚悟を
感じさせる。
途中 警官、他の部隊の兵が
ちらほらと 彼らの前を横切ったが
皆こぞって、進行の邪魔にならぬよう 道の端へとよける。
聡い者は 彼らに向けて 敬礼をするものまで現れた。
彼らは悟ったのだ。
小宵 革命が起きることを。
引き金を1度も引かずに
城門まで たどり着いてしまった彼ら。
ハレンの予想ではここに来るまでに 1つ2つ 戦闘が起こるであろうと考えていたが、 なにもなければ
それに超したことはないのだ。
ここからは ハレンの 仕事。
分厚く、無情な 鉄の扉
ハレンは その前まで 1人近づき
誰かに聞こえるかいなかの声で呟く。
「…開門。」
ガコっ ぎぎぎぎぎぎぃーー。
重々しい 扉が開かれる
城内では なぜ扉が空いたのか
気にするものは少なく、 みな一様にドタバタと 走り回っている。
ハレンは 兵に 小宵初めての命令を出す。
「門をとじよ!
これ以降の侵入者は 国賊だと思え!」
この一言 は 多数の意味をもつ
今 城内にいるものに
加勢しにきたのだ! というアピール。
部下達には 新たに出来る国
今まさに 崩れゆく国
これより 城外にいるものは こぞって敵であると 知らしめる意味。
ハレンは 寡黙な男だ。
だからこそ 意味のない言葉は口にしない。
それを誰よりも分かっているのは
部下達であった。
衛兵の何人かが ハレンにかけよる
「兵長! 良かった
各部長に 連絡を寄越しても返答がなく、 指示を仰げず この有様でございます。」
…脆弱な。
ハレンの素直な感想であった。
指揮官が いないとなると
ここまで 現場は乱れるものなのか
いや 少なくとも自分の隊は そうではないと信じたい
「…では
城内に 居るものを 広場へ集めろ」
「はい! ただちに。
この ミネルバに お任せ下さい」
長い。 会話1つとっても。
だが ミネルバの仕事は迅速で
城内に居るものは 瞬く間に
広場へと集まった。
「サー! 整いました!」
改めて 我が部下の 洗礼に
誇りを持つ。
広場へと 集められた
近衛兵 執事 メイド 大臣
多種多様の 人物に対し
ハレンは 静かに だが
強い 意志を込めて 宣言する
改めて 呼吸を整える
「…。
かつて この国は 緑豊かに
みなが助け合い、励み合い
微笑みの耐えない国であった。
人々は 敬意を込めて、グリンランド と 呼ぶようになった。」
ハレン の 言葉に
その場にいたものは 疑問を持ち
今はそれどころではないと
いまだ 慌てた様子の者が多い。
「だが、 今や国は荒れ
民は 貧困に苦しみ、
貴族が 私腹を肥やす
法は 機能せず 微笑みの国は
消え失せた。
グリンランドは 死んだのだ。
あの 星に 魅入られてしまったのだ。
その あまりの魅力に 星が手を伸ばしたのだ。
だが、星を呼んだのは我々自身だ!
その惨状が今だ!」
大臣等は 憤慨し 声を荒らげるが
ハレンの 兵に 止められる
この場にいるもの皆 気づき始めたのだ。
これは ストライキであると。
自分達に 危機が迫っているのだと。
「小宵 抵抗しなければ
今までの地位 を約束しよう。
私が 築く 新たな国に 貴君らの力が必要だ!
この夜、 このほんの数時
ただ 歴史の傍観者であってほしい。
私から 貴君らに求める要求は
それだけだ。」
沈黙
今この場で 異論を唱える程の器量を持ち合わせる物など いなかった。
パチパチ パチパチ
「素晴らしい
民を憂い、国を思う
血鬼 ハレンユワルツにも こんな素晴らしい心があったとは。」
1人 飄々と 語り出す
白髪 長髪 丸メガネの男。
「ご機嫌よう
皆様方、 改めまして
ヨハネ アンドリュー でございます。」
ヨハネは 敬意を込めて
片手を下げた。
それは この場において
恐ろしいほどに 場違いであり
かつ 優雅な所作。
だが 先程 マスターに打たれた傷は新しく、 肩全体を覆う包帯が
その傷の深さを 表している。
「この ヨハネ
そこの こ く ぞ く である
ハレン ユワルツ 並びにその部下達を 刑に処します。
近衛長の 許諾は… ギヒッ 必要ないでしょう。」
いうやいなや
ヨハネは 純白な 拳銃を向ける。
咄嗟に動いたのは ハレンも同じだ。
銃口が定まらぬよう、かつ
広場にいる 人間に流れ弾が当たらぬよう 動き回る。
パン パン パン
「この期に及んで…ククク
血鬼とは よく言ったものだ」
ヨハネの弾は 当たらない。
低姿勢で駆け抜ける ハレン
だというのに 常人では考えられない程のスピードを持っている。
パン パン パン パン!
「チッ ちょこまかとっ」
弾が 無くなり 装填の動作をするが
グッ
マスターにやられた傷が痛み
ほんの数瞬 手間取ってしまった。
だが 命のやり取りである。
このほんの数瞬が 勝敗を分けるのだ。
刹那 ハレンはより深く 踏み込み
一気に ヨハネの 眼前へ。
そのまま 足なぎを 行い
ヨハネは 地にて 天を仰いでいた
ハレンの 真っ黒な銃口越しに。
「ハッ
やはり こうなりましたかね」
「…。」
「貴方のいうように 小宵の星は
また一段と輝いている。」
ハレンは 素直な疑問をこの男にぶつけた。
「なぜ? 貴殿程の男が
国王に仕えている?」
「なぜ?…ククク
クハハハハハハハっ!!!
私は 近衛兵!
近衛兵とは 国に 仕えているのではなく 国王に仕えているのです。
それに… あのお方程、この国の王に相応しい人間など いるはずもない。」
「…。 手をかs 」「やりなさい!
騎士に情けをかける おつもりで?」
ヨハネは 最後まで
その 高貴な笑みを浮かべていた。
「星の 祝福があらん事を。」
パン
この革命の最初で最後の戦闘はこうして幕を閉じたのである。
「玉座だ。」
「玉座だ。」
いよいよをもって
この 革命の 〆とする 王の間へ
ハレンは 歩を進めた。
大層な 大広間を抜け、 赤い高級カーペットを コツコツと 軍靴が 踏み鳴らす。
玉座の前、 とびきり大きな門の前には
警察庁 アグネス がいた。
白を基調とした 制服で
端正な顔立ち 洗礼されている立ち振る舞い。
「待っていましたよ」
「…。」
「あらためて、ハレンさん
この奥にいるものが、どんなものか
本当に分かってらっしゃいますか?」
意図が読めない。 が
「国王だ。」
アグネスは 諦めにも似た笑顔で
こう返した。
「その通りです。 が
もはや あれに 殺す価値はない」
今更何を
アグネスの言葉を聞き流し
ハレンは 重く厳格な扉を開いた。
ガコッ
…。 奥に 座る者。
当然 ハレンも 何度か 目にしたことのある人物。
コツ コツ コツ コツ
この国の 玉座に 座る者
「…。」
コツ コツ コツ コツ
ついに 眼前にまで せまっている
この国の 国王。
「ぐぅわら ぐしぴ 〇△◻︎〜。」
「そいつは とうに。」
後ろを着いていた アグネスが
溢す。
目の前の 国王
その姿は 醜く 太り
ヨダレを垂らし おおよそ理性があるとは思えない。
「…そいつは とうに 壊れている」
今までと同じように
静かに 確実に。
ハレンは 引き金を引いた。
そして 肩膝をつき
深く 祈る。
「…星の導きがあらん事を。
我等に 神の御加護を」
組んだ手は 爪痕が付くほどに
強く握られていた。
アグネスも ハレンの肩に手を置いて、また祈った。
新たに 出来上がった国 プレア
腐敗した 政治は 新王により
断罪され、 法が機能し
やがて 緑と 笑顔が溢れる国となった。
人々は 日々 祈りを捧げる。
「星の導きがあらんことを。」
星の気まぐれ @RENTUMU
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