第10話 宝槍の呼び声



 広間の奥へ続く

回廊は、

静まり返っていた。


 先ほどまでの

激戦が、

嘘のようだ。


 だが、

空気は重い。


 呼吸をするたび、

胸の奥が

軋む。


「……ここからが、

本命だな」


 Aランク探索者が

低く言う。


 誰も

否定しなかった。


     ◆


 回廊の突き当たりに、

円形の間があった。


 中央に

浮かぶ台座。


 その上に、

槍。


 柄は蒼く、

穂先は

赤黒い光を帯びている。


 見るだけで、

背筋が

粟立つ。


「宝槍……」


 誰かが

呟いた。


 その瞬間。


 ――ズン。


 床が

沈み込む。


 円形の壁が

歪み、

黒い裂け目が

走る。


「来るぞ!」


     ◆


 裂け目から

這い出してきたのは、

巨大な影。


 四足。

鱗。

角。


 竜。


 いや――

竜を模した

守護獣。


 全身を覆う

黒曜石のような

装甲。


 目はなく、

胸部に

赤い核。


「ボス級だ……!」


 探索者たちが

散開する。


 守護竜が

咆哮。


 音圧が

衝撃となり、

壁を叩く。


 龍斗は、

歯を食いしばり、

踏みとどまった。


     ◆


 前衛が

突撃。


 剣と斧が

鱗に

叩きつけられる。


 だが――

弾かれる。


「硬すぎる!」


 守護竜の尾が

振り抜かれる。


 一人が

吹き飛び、

壁に叩きつけられた。


「回復!」


 後衛の魔法が

光を放つ。


 だが、

守護竜は

止まらない。


 前脚を

振り下ろし、

床を

砕く。


 瓦礫が

飛び散る。


 龍斗は、

隙間を縫い、

側面へ。


 短剣を

核へ向けて

投擲。


 ――弾かれた。


「……っ」


     ◆


 守護竜が、

龍斗を

向いた。


 胸の奥が、

強く

脈打つ。


 宝槍が、

淡く

光った。


 呼ばれている。


 確信。


 龍斗は、

走った。


「無茶だ!」


 声が

背後から

飛ぶ。


 構わない。


 守護竜の

咆哮。


 熱波。


 皮膚が

焼ける。


 だが、

足は

止まらない。


 跳躍。


 空中で、

体を

ひねる。


 核へ――

拳を

叩き込む。


     ◆


 衝撃。


 だが、

砕けない。


 代わりに、

龍斗の視界が

白く

染まる。


 ――記憶。


 炎の海。

空を裂く翼。

無数の竜。


「……ああ」


 理解した。


 自分は、

戦っていた。


 ずっと昔から。


 龍斗の背後で、

何かが

形を成す。


 見えない翼。


 守護竜が、

初めて

後ずさった。


     ◆


「今だ!」


 Aランクの

叫び。


 魔法が

集中し、

核を

撃ち抜く。


 ひび。


 龍斗は、

再び

踏み込んだ。


 全身を

使い、

拳を

叩きつける。


 核が

砕けた。


 守護竜が

崩れ落ち、

塵となる。


     ◆


 静寂。


 宝槍が、

強く

光る。


 龍斗は、

無意識に

手を伸ばした。


 触れた瞬間、

熱。


 だが、

痛みではない。


 歓迎。


 槍が、

震える。


「……選ばれた、

のか」


 Aランク探索者が

呟いた。


 龍斗は、

宝槍を

握りしめた。


 胸の奥で、

確かな声が

響く。


 ――思い出せ。


 まだ、

すべてではない。


 だが、

竜神は

目を覚まし始めた。


 荒神龍斗の

物語は、

新たな段階へ

進む。


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