第8話 深層の気配
通路の傾斜が、
目に見えて
変わり始めた。
緩やかだった床が、
次第に下り、
壁の色も
濃くなっていく。
「……地図より、
深いな」
Aランク探索者が
低く呟いた。
「この先は、
未踏区画だ」
空気が、
冷たい。
湿り気ではない。
骨に染みるような
冷え。
荒神龍斗は、
無意識に
息を整えていた。
胸の奥が、
静かに
高鳴っている。
恐怖ではない。
――近い。
理由のわからない
確信。
◆
最初の異変は、
音だった。
カン。
カン。
金属が
打ち合わさるような、
乾いた反響。
「止まれ」
Aランクの手が上がる。
次の瞬間。
闇の中から、
鎧の影が
浮かび上がった。
人型。
だが、
中身はない。
――スケルトンナイト。
武装した
中位アンデッド。
しかも――
一体ではない。
五体。
「戦闘準備!」
探索者たちが
構える。
スケルトンが、
一斉に
剣を抜いた。
重い足音。
同時に
突進。
◆
一体目が、
正面から来る。
Aランクが
迎撃。
剣と剣が
ぶつかり、
火花が散る。
だが、
背後から
別の一体。
「危ない!」
龍斗が、
叫ぶより早く
動いた。
床を蹴り、
滑り込む。
短剣が、
鎧の隙間へ。
肋骨の内側。
刃が、
骨を断つ。
ガシャリと
崩れる。
だが、
残り四体。
二体が
横から、
一体が
後方へ。
「……囲まれる」
龍斗の視界が、
冴え渡る。
足運び。
剣の軌道。
全てが、
読める。
一体目の
斬撃を
身を捻って回避。
そのまま
肘を打ち込み、
体勢を崩す。
短剣を
喉元へ。
骨が砕ける。
二体目。
上段からの
重い一撃。
龍斗は、
刃を
受け流し、
懐へ。
関節部を
連続で突く。
崩壊。
◆
「速すぎる……」
後衛の探索者が
息を呑む。
だが、
戦いは
終わらない。
残る二体が、
同時に
仕掛ける。
左右から。
龍斗は、
一瞬
踏み止まり――
跳んだ。
壁を蹴り、
空中で
回転。
落下しながら
短剣を投げる。
片方の
頭蓋を
貫通。
着地と同時に、
もう一体の
剣を掴む。
金属越しに、
衝撃。
構わず
引き寄せ、
刃を
胸骨へ。
最後の一体が
崩れ落ちる。
◆
静寂。
カラカラと、
骨が
転がる音。
探索者たちは、
誰も
言葉を発さなかった。
「……ここは、
本当に
初心者区画か?」
誰かが、
乾いた声で
呟く。
Aランク探索者は、
龍斗を見つめ、
ゆっくりと
息を吐いた。
「……いや」
「もう、
違う」
◆
その時だった。
通路の奥で、
空間が
歪んだ。
風が、
逆流する。
「――来る」
龍斗の背筋が、
粟立つ。
闇の中から
現れたのは、
巨大な影。
全身を覆う
黒い外殻。
四足。
だが、
頭部には
角が一本。
――ダークチャージャー。
突進特化型の
大型魔物。
「散開!」
叫び声。
次の瞬間、
魔物が
走った。
床が、
砕ける。
圧倒的な速度。
盾役が
吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
龍斗は、
即座に
前に出た。
「荒神、
無茶だ!」
聞こえない。
胸の奥が、
熱を帯びる。
鼓動が、
重なる。
――壊せ。
龍斗は、
真正面から
向かっていった。
衝突の瞬間、
体を捻り、
角の根元へ
刃を突き立てる。
だが、
止まらない。
引きずられる。
「……っ!」
地面を
滑りながら、
刃を
深く押し込む。
骨を断つ
感触。
ダークチャージャーが
悲鳴を上げ、
体勢を崩す。
その瞬間を、
逃さない。
龍斗は、
跳び上がり、
全体重を乗せて
突き下ろした。
内部で、
魔石が
砕ける。
巨体が、
崩れ落ちた。
◆
息が、
荒い。
腕が、
震える。
だが、
立っている。
探索者たちは、
完全に
沈黙していた。
Aランク探索者が、
静かに
言う。
「……この先は、
さらに危険だ」
「だが――」
視線が、
龍斗に向く。
「君なしでは、
進めない」
龍斗は、
ゆっくりと
奥を見た。
暗闇の向こうで、
何かが
確かに
待っている。
低く、
重い鼓動。
竜神の記憶が、
深層で
蠢いている。
荒神龍斗は、
短剣を
握り直した。
深層の扉は、
もうすぐだ。
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