第4話

「ふざけやがって……!」


国内最大手の配信者集団『ブレイブ・クラン』のリーダー、剣崎(けんざき)レオは、スマホの画面を睨みつけながら悪態をついた。


画面に映っているのは、先日の『水没都市』でのクラーケン討伐動画。

再生数は驚異の500万回越え。

コメント欄は『洗浄ニキ最強』『解体神降臨』といった称賛の言葉で埋め尽くされている。


「どいつもこいつも、こんなイロモノを持て囃(はや)しやがって。俺たちがどれだけ苦労して攻略(クリア)してると思ってるんだ!」


レオは、実力派として知られるトップランカーだ。

攻略の早さと華麗な剣技で人気を博してきたが、最近はこの「謎の作業員」に話題をすべて奪われている。


「許せねぇ。俺たちの神聖な攻略を『掃除』だの『リフォーム』だの茶化しやがって……。メッキを剥がしてやる」


彼は部下たちに向かって吠えた。


「行くぞ! 今日の『迷いの森』攻略で、本物の実力ってヤツを見せつけてやる!」


        ◇


一方、その『迷いの森』の最深部。

うっそうと茂る木々の中に、俺、タクミの姿はあった。


「うーん、ここも酷いな。枝が伸び放題で日当たり最悪だ」


俺は見上げるような巨木を見上げてため息をついた。

今日の現場は、森の環境改善。

特にこのエリアは、古い木が密集しすぎていて、若木が育たないという問題を抱えている。


「間伐(かんばつ)しないと、森全体が死んじゃうな」


俺が作業用ゴーグルを装着し、準備運動をしていると、背後からガヤガヤと騒がしい集団がやってきた。


煌びやかな鎧に身を包んだ、5、6人の男たち。

先頭に立つ金髪の男が、俺を見るなり顔を歪めた。


「おい、そこのおっさん! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ。素人はさっさと失せろ!」


すごい剣幕だ。

俺は一瞬驚いたが、すぐに彼らの装備を見て納得した。

斧や大剣を持っている。なるほど、彼らもまた「木を切る」ために来た同業者か。


「ああ、ご苦労様です。新人の造園業者さんかな? 応援に来てくれたんですね」

「は? 造園業者? 何言ってんだお前」


金髪の彼――恐らく現場監督だろう――は、苛立ったように舌打ちをした。


「俺たちは『ブレイブ・クラン』だ! これからこのエルダー・トレントを討伐するんだよ! 邪魔だから下がってろ!」


エルダー・トレント?

ああ、この伸び放題の親木(ボス)のことか。最近の業者は木に大層な名前をつけるんだな。


「わかりました、わかりました。じゃあ、そっちの細かい枝払いは任せましたよ。僕は一番太い幹をやっちゃうんで」

「だーかーら! 俺たちだけでやるっつってんだよ! 見てろ、プロの戦いを!」


彼は聞く耳を持たず、仲間と共に巨木へと突っ込んでいった。

威勢はいいが、大丈夫だろうか。あの木、かなり根が深いぞ。


「オラァッ! 『紅蓮剣(フレイム・スラッシュ)』!!」


監督さんが、燃える剣で木の幹に斬りかかる。

ドガッ!

鈍い音がして、木の皮が少し焦げた。……それだけだ。


「なっ……硬ぇ!? なんだこの防御力は!」

「リーダー! 再生速度が速すぎます! 切ったそばから枝が生えてくる!」


巨木がミシミシと音を立てて動き出す。

無数の枝が触手のように蠢き、彼らに襲いかかった。

四方八方からの飽和攻撃。彼らの鎧が悲鳴を上げ、陣形が崩れていく。


「くそっ、囲まれた! ヒーラー、回復! タンク前へ!」

「無理です! 支えきれません!」


あーあ、やっぱり手入れしてないと暴れるんだよな、古い木は。

これじゃあ剪定どころか、彼らが肥料になってしまう。


「仕方ない。ちょっと手伝いますか」


俺は背中に背負っていた「相棒」を下ろした。

全長2メートル。魔石を動力源とした、業務用の超大型チェーンソーだ。


スターターロープを握る。


「すみませーん! ちょっと風通し良くしますねー!」


キュルルルル……

**ブゥゥゥゥン!! ギュイイイイイイイイイイインッ!!**


静かな森に、爆音が轟いた。

高速回転する刃が、空気を切り裂く音を立てる。


俺はチェーンソーを構え、暴れる巨木の懐へと踏み込んだ。


「まずは余計な枝から!」


**ギャリガリガリガリガリッ!!**


「ギィヤアアアアアアッ!?」


彼らを苦しめていた無数の枝が、豆腐のように切断されていく。

木屑が雪のように舞い散り、視界を埋め尽くす。


「な、なんだあの音は……!? なんだあのデカい武器は!?」


監督さんたちが目を見開いてこちらを見ている。

俺は構わず、一番太い幹へと刃を向けた。


「ここを切れば、日光が入りますからね。――剪定(せんてい)開始!」


俺は渾身の力で、チェーンソーを幹に叩きつけた。


**ズガガガガガガガガガガガガッ!!**

**ウィィィィィィィィン!!**


硬質な樹皮も、再生する魔力も関係ない。

圧倒的な回転数とトルクが、すべてをねじ伏せ、噛み砕いていく。


「これで……最後だっ!」


俺はそのまま横になぎ払った。


ズンッ……。


一瞬の静寂。

そして。


ズズズズズ……ドォォォォォォン!!


地響きと共に、巨木の上半分が滑り落ち、地面に激突した。

切断面は鏡のように滑らかだ。

残ったのは、綺麗に整えられた切り株だけ。


「ふぅ。作業完了」


俺はエンジンのスイッチを切り、ゴーグルを額に上げた。

舞い上がっていた木屑が、キラキラと光る粒子となって消えていく。


俺は手頃な高さになった切り株に腰掛け、水筒の麦茶を一口飲んだ。


「うん、これで日当たりも良くなった。他の植物も育つでしょう」


ふと見ると、監督さんたちが口をポカンと開けて、俺と切り株を交互に見ていた。


「な……な……」

「おや、まだ残ってましたか。あ、細かい枝の処理ありがとうございました。助かりましたよ」


俺は彼らに向かって親指を立てた。

彼らは震えながら後ずさりしていく。


「バ、バケモンだ……」

「あんなの勝てるわけねぇ……」

「逃げろっ!!」


彼らは悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

随分と忙しい人たちだな。


「さて、俺も戻るか」


俺はチェーンソーを担ぎ直し、その場を後にした。


木陰の奥で、その一部始終を撮影していたキララちゃん(と数万人の視聴者)がいることになど、気づくはずもなく。


『ブレイブ・クラン敗走www』

『「助かりましたよ(何もしてない)」』

『煽り性能高すぎるだろwww』

『チェーンソーマン(物理)』

『また伝説が生まれたな』

『風通し(即死)』


こうして、「謎の作業員」の悪名(?)は、同業者たちの間でも瞬く間に広まっていったのである。

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