それでも彼女を愛してる。

三愛紫月

プロローグ

「もう1人殺したい人がいるの」



 バイトから帰宅して、徹夜で勉強をして寝落ちしてしまい寝ぼけて通話ボタンを押した僕の耳に飛び込んできた言葉がこれだ。



「でも、それならそのほら。何て言うかやっぱり」

「じゃあ、結婚しよう」



 結婚をそんな風に簡単に決めていいのかと普通の人なら思うだろう。

 だけど、彼女はこんな風に簡単に何でも決めちゃうんだ。



「いいの?一生が台無しになっちゃうよ」

「一生なんて。捕まれば台無しになるし。別に、君は何もしなくていいんだから。それに逮捕されたら困るのは君じゃない?結婚なんてしてたら余計に」



 受話器越しにフフフって彼女が笑う声がする。

 それを聞きながら「僕の一生はあげただろ」なんて言ってしまった。



「じゃあ、卒業したら結婚しよう。実行するのも卒業してからだから」

「で、誰を殺すの?」

「そんなの君に話したら止められるじゃない。だから、教えない」

「そうか……わかった」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」



 プー

 プー



 電話の切れた音をしばらく聞きながらぼんやりする。

 もしかしたら、僕じゃなくても誰でもよかったのかな。

 そんな風に考えると頭の中がモヤモヤして、目が覚めてしまった。

 彼女と僕は、付き合って2年半になる。

 高校を卒業したら、さっきの会話通りに僕たちは結婚する。



 子供なんかは望めない……。

 ってよりも、今だって。

 キスはおろか手を繋いで歩くことすらない。

 そんな僕たちが誰にも疑われずに結婚生活なんて送れるのだろうか。


 

 それに……。

 彼女は、次で2人目だ。

 無期懲役にはなるのだろうか?

 次は、未成年じゃないわけだし。

 死刑とかにもなったりするかも知れない。

 そうなったら、この関係は終わるし。

 僕たちは、離婚する可能性だってある。

 


 問題はそこじゃないよな。

 普通に考えて。

 好きなら、人殺しなんかやめろっていうべきだよな。

 

 わかってるよ。

 わかってるんだけどさ。

 人が人を殺したいほど、憎むことって。

 生きているうちにどれくらいある?

 少なくとも僕はまだない。



 一瞬の殺意は芽生えても。

 継続して何年も思い続けるなんて無理だよ。

 僕は無理だった。

 


 だからかな?

 僕には、彼女を止める権利はないんだよ。

 いや、権利があっても止めない。


 だって、僕は。

 それでも、彼女を愛しているから。



 だから。

 僕は、この契約を続ける。

 彼女が逮捕されることになっても。

 僕の一生は、彼女のものだから。




 あの日、捧げたんだ。

 僕の気持ちとこれからの人生のすべてを……。










 あれは、忘れもしない2年半前の出来事。 

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