世界平和を夢見た魔王は勇者に殺されて、500年後の未来に転生して学園生活を謳歌する

@Fulance

第0話 夢破れた兵の視界


焼け焦げるような匂いが辺りに充満し、呼吸するごとに肺に溜まる窒息間。


我が魔王城の装飾や調度品は戦いの余波が大きすぎたせいか、見るまでもなく無残に塵と化していた。


相対する勇者の殺意が全身に突き刺さる。


数年も前は同じ学園に通う学生同士であったあいつが、今では俺の敵として立ちはだかっている。


我の夢も知らぬまま。大言壮語を掲げた救世主さがりが俺に聖剣を向けている。


そそのかされた刃が俺の首元断ち切らんと右往左往していく。


一秒遅れれば切れていた首の位置を確かに回避してはこの戦闘の行く末がもう終わりに向かっているのだと焦燥もなく感じている我の姿は滑稽だろうか?


あいつの眼にはどのよう我が映っていて、何を考えているのやら。


我は知っている。奴の必死さを、努力を、仲間から託された思いも。


知っているからこそ惜しい。


「一体いつからだろうな......お前が正義を疑わなくなったのは......」


この問いに勇者は聖剣で応答してくる。


激しく苛烈に聖剣を技もなくただ振るう姿には狂気そのものを発症しているように見える。


これが果たして勇者と呼ばれるものの正しい姿であろうか?


否、我が思い描く勇者は仲間と共にこの我に挑み、聖剣を優雅にされど必死に振るう勇気ある者であると思い描いていた。


いまや話にもならない勇者とボロボロの魔王。


お互いが歩み寄ることは出来ずに、また話し合う機会もなかった二人。


故にこの衝突は避けられず、お互いを知らぬままに死闘を繰り広げる。


だからこそ......



「終わりにしようか、勇者ユーク。」


我はその様にかつての学友に語り掛けたが、ピクリと身体が反応しただけであった。


そうかもう戻っては来ないところまで心を蝕まれたか。


悲嘆することはない我は魔王だ。終わりの魔王である我が勇者のことを案じるとは一体どういうことだろうか?先代魔王が聞いていたら、我は殴り殺されていただろうな。


「終わりの魔王がここに命ずる。我が手に力を与えよ。魔剣レヴナント!」


魔王の呼びかけに応じるように足元から魔剣レヴナントが召喚される。


その魔剣の様相は禍々しく赤いオーラを纏い、真っ赤な目が刀身に宿っている。


終わりの魔王はその剣を握り、今一度勇者と対峙する。



「終わりという絶望の前に、狂気を宿す勇者か。笑えるな!!!」


我が剣を大きく振るう。


その一撃を勇者は聖剣で受け止める。


鍔迫り合いのような勢いに発展し、その凌ぎあいは火花のちぎりあいが拮抗を表す。


狂気にのまれてもここまで来た勇者の実力もステータスも本物か。


ならば後は正気に戻してやるだけでいい。


お前があとの世を救ってくれさえすれば、オレの悲願は成就するはずだ。


「戻ってこい。お前が俺の意思を継げ。」


鍔迫り合いを一気に薙いで、勇者を打ち払って勇者は壁際まで吹っ飛ぶ。


パラパラと魔王城の壁が剥がれ落ちていく。


ボロボロの勇者の赤い外套が勇者の傷を確かに増やした証明となっている。


頭を振り払って突撃してくる勇者。


我は何度も何度もこの突撃を打ち払って対応していく。


勇者は打ち払われるごとにボロボロになっていく。


そうしていつの間にか勇者の鎧は灰に煤けて傷が増え、外套はほとんど剥がれ落ち、勇者の目には光が戻っていた。


「......どういうことだ、魔王。」


「なんてことはない。正気を失っていたから戻してやっただけだ。」


時間と痛みが勇者を正気に戻した。


ただ時間というものには限りがある。


それゆえ終わりの魔王に許された時間もすぐそこまで迫っていた。


「正気に戻ったのなら、我をその聖剣と勇者の力で簡単に打ち滅ぼせるのだろう?さぁ来い、俺にはもう時間がない。」



魔剣レヴナントの代償は生命力の奪取。


そして魔剣の効果は純粋な破壊。その力は一振りで山々を粉砕する。


だが、この魔王は終わりの魔王の権能を用いて魔剣の効果を相殺して、あえて力を抑えているのだ。


それは勇者を殺さないために。強くなりすぎた自身に枷を与えるように。


自身の終わりを託すかのように。


ただ待っていた。



終わりの時を。




「望み通り殺してやる魔王イクス・ヴォルドラ!!!」


そうして勇者が聖剣を大きく高く掲げる。その聖剣の周りには瞬く間に光の奔流が立ち昇り魔王城を正義の光で照らしていく。




「聖剣解放・ジャッジメントプルーフ!!!!!」



集光された聖剣のエネルギーが勇者の手から魔王に放たれる。


情動はこの魔王にもう残されていない。葛藤もなく心を殺して部下の安寧を祈って終わりを待つ。


断頭台の上に立つ圧政者の気持ちが分かった。


眼前に広がる光のギロチンが俺の身体を半分に分かち、魔王城は聖剣の余波で完全に崩壊していく。



勇者が朽ちた姿の俺を見る。


ただオレは真実を一言、口にして逝くとしようか。



「勇者ユーク・クズノハ......我は世界平和のために戦っていた......貴様は―――――――――」


そのあとに言葉は続かなかった。


終わりの時が彼を残酷にも刻んだからだ。



ゴーンという重々しい鐘のが魔王の身体を本当に消滅させる。




「どういうことだ?世界平和?魔王が?なんのために......」



気づきたくはなかった事実。魔王が最後に残した呪いは勇者ユークに大きな絶望を齎していた。


最後の戦いで魔王倒し、終わりだと思っていたこの道程が全て否定されるような事実。



魔王は世界平和を見ていた、勇者は正義を疑うことなく魔王を殺した。


どうしようもなく酷い結末が勇者と魔王に刻まれた。


「俺はなんのためにここまでやってきたんだ!!!」


勇者の独白は誰にも届かない。


地面を殴り血を流すほど悔しがっても、誰も彼を抱きとめてはくれやしない。



代わりに崩壊した魔王城のがれきが勇者の身体を砕かんとする。


だがそんなものは真に覚醒した勇者に1ダメージをも与えることが出来ない。


慟哭




彼の嗚咽が完全に彼の喉を掻っ切るまで、勇者は動かなかった。



ただ数刻の後に勇者は旅に出た長く果て無い旅路に向かった。




虚空の果て、虚空の神の招待がなければ入れない楽園。


そこをただ目指して勇者は歩く。



やがて勇者と呼ばれた者は人類のために尽くした英雄として祭られるがそれは別のお話。





ドクン


ドクン



ドクン、ドクン、ドクン


鼓動が早くなっていく。


何かを待っている。


光が待っている。


俺はその光を捕まえようと試みる。


あと少し、あと少しで届くのに......


だったらもう少し強くもがいてやろう。


強く力を入れた瞬間に、未知の光が全てを照らす。



暖かい熱が俺の体温を生きているのだと証明する。


そして、光景が目に映っては俺の脳が現実というものを否定したくなって頭が痛くなった。


顔が2つ。



金髪でアメジストのようにきれいな瞳をした、ひどく狼狽えながらも笑顔の美少女と長身の黒髪をした安堵したような男。



ああこれが恐らく、転生したという奴だろうな――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界平和を夢見た魔王は勇者に殺されて、500年後の未来に転生して学園生活を謳歌する @Fulance

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画