坂の上の「Witch House」
詩紡 まりん
第1話 坂の上の「Witch House」と呼ばれる店
町はずれの通学路の途中、急な坂を登った小高い山の上にレンガ造りの古い趣のある一軒の店があります。
かなり昔からそこにある店で、建てられた当時は、かなりおしゃれでモダンな建物だったのでは無いかと思われます。
店の看板は「Watch house」なのですが、時計屋にしては、時計を売っている様でも、時計を修理している様子もなく、一目では何を扱う店なのかよくわかりません。
店主によると、「元々は時計屋で、そのまま店を引き継いだが、時計の修理は出来ないので、今は雑貨屋をしている」のだそうです。
当時から掲げられていたのであろう「Watch House」という看板は、Watch」の「a」が薄れて「i」になり、「Watch house」ならぬ「Witch House」。
そのため、いつしか「魔女の家」、「魔女の館」と呼ばれようになりました。
その店の女主人は、人によって印象が違うと思われる年齢不詳の女性でした。
子供たちは、その女性を密かに「魔女」とか「魔法使い」と呼んでいました。
「魔女の館」は、雑貨屋ということでしたが、生活雑貨というよりは、年代物と見られるセンスの良い食器や、美術品、ガラス細工や人形などがセンス良く置かれており、骨とう品というべき物も多く、骨とう品屋の様子を呈していました。
その品々もまた彼女の店を「魔女の館」に演出する小道具にも見えたのです。
また、この店には2匹の猫が居ました。
黒猫と白猫の2匹で、2匹ともかなり長く生きているらしいとのこと。
これもその店の主人が魔女と言われる所以のひとつです。
天気の良い日には、「魔女」と呼ばれる女主人は、中世の貴族の館にあったような大きな椅子に座って店の外を眺めていました。
彼女の前に置かれた古木の1枚板のテーブルの上には、恐らくこれも年代物の骨とう品と思われる茶器が置かれていました。
白とピンクの小花があしらわれた模様のおしゃれなティーセットで、その横には、これまた年代物と思われるアルコール式の湯沸かしポットが、湯気を上げていました。
大きなテーブルの反対側には、例の猫2匹が、仲良く気持ちよさそうに寝ていました。
彼女が、お茶を飲み終えて
「さて、そろそろかしらね」
と、椅子から立ち上がると、猫たちも目を覚まし、日当たりの良い窓際に移動しました。
するとほどなくして、坂の下から元気な子供たちの声が聞こえてきました。
この店は、置かれている物は、古めかしくてもセンスの良いおしゃれな物も多かったのですが、なぜか一角にだけ、この店に似つかわしく無いものが置かれていました。
それは、昔ながらの子供の好きなおやつ、駄菓子なのです。
ですから、この店の来客は大人よりも子供たちという不思議な店でした。
子供たちが現金を持って駄菓子を買いに行く姿を見るくらいで、今どきの店らしく、電子マネーやクレジットカードが使えるのかは疑問ではあり、よく潰れないな?とすら思える店なのです。
そんな「魔女の館」は、子供たちに人気の店で、毎日のように子供たちが駄菓子を買いに来ていました。
いつものように数人の子供たちが、駄菓子を買いに来ていました。
いつの間にかテーブルの上の茶器は片付けられており、その代わりにおつりが入っている思われる籐の蓋つきの籠が置かれていました。
子供たちは、それぞれ自分の欲しい駄菓子を手にすると、店主にお金を渡して店を出て行きます。
最後まで、何を買うか迷っていた小学生の男の子が
「魔女のおばちゃん、これちょうだい」
と、うっかり言ってしまいました。
「だれが魔女だい?」
「ごめん、おばちゃん、これ!」
小学二年生の翼くんは、うっかり店の女主人を「魔女のおばちゃん」と言ってしまったので、お代の小銭を渡して急いで逃げようとしました。
すると魔女は、
「ちょっとお待ち!」と、翼くんの手首をがっしりと掴みました。
おばさんとは思えぬほどの握力で、翼くんは逃げられずジタバタして焦りました。
一緒に来た友達は、みんな自分の好きな駄菓子を買って店を出て、いつもの公園に向かって行ってしまいました。
「もしかしたら、ボク、魔女に食べられちゃう?」
翼くんは、恐怖で泣きだしそうになっていました。
すると、魔女は、翼くんを自分の方に向かせて翼くんをじっと見つめてから、1つ掛け違えられたシャツのボタンを直してから言いました。
「はい、これで良し!」
魔女は、にっこりとほほ笑んでから、
「これはオマケだよ!みんなには内緒」
と、ウィンクをして、一粒のチョコレートをくれました。
「これは、元気が出るチョコだから、走って行けばすぐに皆に追いつけるよ」
「おばちゃん、ありがとう!」
翼くん、そのチョコを口に入れると、なんだか元気がモリモリ沸いて来るような気分になりました。
「さあ、お行き!みんなに追いつかないとね」
「うん!」
翼くんは、元気に店を飛び出して行きました。
猫たちは、窓辺からポーンと飛び降りて店の入り口に進み、2匹並んで翼くんの後ろ姿を見送っていました。
翼くんの後姿が坂の下に消えると、2匹は主人を振り返りました。
「そうだねぇ。気になるね。お前たち見て来るかい?」
と、彼女が言うと、白い方の猫が
「にゃ~!」と鳴きました。
「ブラン、お前が行ってくれるの?そうね。スヴァルトは、昼間だと目立つものね」
黒猫は、返事の代わりに顔をと頭を撫でながら、尻尾をゆらゆらと左右に振りました。
そして、白猫のブランが「にゃん!」と一声気合を入れて店の外へ音もなく走り出たかと思うと、一瞬で坂の下へ姿を消しました。
案の定、翼くんはお友達みんなに追いつこうと必死で走りました。
急な坂道なので、普通に歩いて下るだけでも転びそうになる坂道です。
翼くんは頭を前にすると転ぶで、ちょっと背中をそり気味にして小走りに走りました。
そして、公園に着くと既にみんな公園のベンチに座って、買って来た駄菓子を食べていました。
いつもなら、坂道の途中で転んでしまい、持っていた駄菓子がかけてしまったり、ひび割れたり、粉々になってしまったり、原型を留めていない事が多いのですが、今日は違いました。
翼くんも、皆と並んで座り駄菓子を食べようとしましたが…
ベンチに翼くんの座るところはありません。
翼くんは
仕方なく、立ったまま食べようとしていたのですが、それに気づいた2学年上の男子が、
「つばさ~、ここに座れよ」
と、言って自分はその向かい側にあった遊具を抑えている石の台の隅に腰掛けました。
「う、うん」
翼くんは、空いたそのベンチに座りました。
翼くんは、ちょっと嬉しくなりました。
みんなで駄菓子を食べ終わった後に、みんなで鬼ごっこをしたり、誰かが持ってきたボールで遊んだりしたのですが、ちょっと運動が苦手な翼くんは、何をやっても上手く出来ません。
学年が上のお兄ちゃんたちは、だんだん遊びに夢中になって来ると、足手まといな年下、特に上手く出来ない者を排除して自分たちだけでやりたくなってしまうものです。
いつの間にか翼くんは、公園の隅にポツンと取り残されていました。
彼らのボール遊びがサッカーのようになり、そのボールが翼くんの元へ転がって来ました。
さっき、席を譲ってくれた年上の男子が
「つばさ~、ボール蹴っていいぞ~」
と、手を振って言ってくれました。
「うん」
翼くんは、仲間に入れるチャンスだと思いそのボールを思い切り蹴りました。
するとそのボールは、斜め前の木に当って跳ね返り、近くを歩いていた大人の男性の顔に当たってしまいました。
翼くんの蹴ったボールなので、そんなに威力はありませんでしたが、やはり顔面にボールが当たっては、大人でも驚きます。
男性は、「わぁ~」と、声を出してよろけました。
翼くんは、びっくりして、その場に立ち尽くし泣き出してしまいました。
木に跳ね返って、ぶつかったので、ボールが顔面に直撃した男性には、蹴った本人が翼くんとはわかりません。
ボールが飛んできた方角的には、翼くんの年上の友達がいました。
男性は、彼らが蹴ったボールだと確信している様子です。
例の年上の男子がすぐに
「すみませんでした」
と、頭を下げると、ボールが当たった男性は
「まったく、こんな公園でサッカーなんてするな!」
と、言って去って行きました。
翼くんは、ただ、ただ大泣きをすることしか出来ませんでした。
そして、男の子たちはすっかり公園で遊ぶ気を無くして、
「俺んちで、ゲームやろうぜ」
と、言って公園を去って行ってしまいました。
翼くんは、ただ、ただ、溢れる涙を手でぬぐいながら皆が去っていた公園に立ち尽くすことしか出来ませんでした。
すると、翼くんの足元に白い毛玉がつけ寄って来て、翼くんの足にすり寄って来ました。
「魔女の家」の白猫ブランでした。
翼くんは、泣きながらしゃがみ込んでブランを撫でました。
「ボク、ボク…」
また、涙がどんどん溢れて来て、翼くんは何も言えません。
ブランは、静かに翼くんが泣き止むまで寄り添っていました。
日も暮れかかり、帰宅を促す市の音楽が流れだす頃、翼くんのお母さんが翼くんを捜しに来ました。
「あ、ママ!」
翼さん君は、ママを見つけて駆け寄りました。
「翼、ひとりで遊んでたの?」
ママが翼くんに尋ねました。
「ううん、さっきまで、みんなもいたよ。カワイイねこちゃんがいたから、なでてたらみんな帰ったゃった」
と、翼くんは答えました。
「そうなの。猫ちゃん、居なくなっちゃったわね」
気付くとブランの姿はありませんでした。
「さあ、おうちに帰りましょう」
翼くんのママは、翼くんの手を引いて家に向かいました。
翼くんは、ママにも言えず心に大きな石を飲み込んだ気分でした。
その数日後、この日は曇り空で今にも雨が降りそうな日でした。
いつものように子供たちの声がして、バタバタと駄菓子を掴んで、お金を払い去って行く子供たち。
その中に翼くんの姿はありませんでした。
「今日は、天気悪いから、家の中でゲームしようぜ」
「だれんちにする?」
「うちでもいいぜ」
そんな会話をしながら、男の子たちは去って行きました。
その後に、女の子たちのグループが入って来ました。
女子たちは、駄菓子だけではなく猫が目当てです。
「おばさん、今日は猫ちゃんいないの?」
と、女の子のひとりの美羽ちゃんが聞きました。
美羽ちゃんも翼くんと同じ小学校の二年生です。
「奥に、スヴァルトで寝ているはずだよ。スヴァルト?」
と、魔女が呼ぶと、店の奥の木の階段を登った中二階から
「にゃ~ん」という返事がしました。
この店は、奥に中二階、さらに二階となっていますが、中二階から上は、骨とう品のようなわれ物が多く、さらに照明も消されていて薄暗くなっていたので、子供たちはほとんど上ったことがありませんでした。
「猫ちゃーん!」
美羽ちゃんが呼ぶと、スヴァルトは、暗い中二階からゆっくりと階段を降りて来ました。
黒猫なので、まるで闇の中から現れたようでした。
真っ黒なビロードのような毛並みに宝石のようなグリーンの瞳。
もうずいぶん前からこの店に居るとのことでしたが、とても老いた猫には見えません。
美羽ちゃんは、スヴァルトに駆け寄りました。
スヴァルトは、子供に抱かれるのは苦手のようで、すぐにテーブルの上に飛び乗り両足を揃えて座りました。
子供たちは、そのテーブルを囲み、
「毛なみキレイ」「やわらかい」「きもちいい~」
と言いながらスヴァルトを撫でていました。
「もう一匹の猫ちゃんは?」
「ブランは、お散歩に出てるよ。そのうち帰って来る」
と、魔女は答えました。
今にも泣きだしそうな空を見て、女の子たちは
「ブランちゃんぬれちゃう?むかえに行こうか?」
と、外を気にしながらプランを心配しました。
「みんな優しいね。でも、ブランは大丈夫」
と魔女は言いました。
「そういえばさ、傘の忘れもの!あたしと美羽ちゃんは、落とし物係なんだけど、昨日、落とし物と忘れ物を整理したのね」
「あ、そうそう。傘の忘れもの三本とも翼くんのだったね」
と、美羽ちゃんが言いました。
「えー、三本も?」
と、女の子のひとりが驚いて聞いた。
「あと、消しゴムと鉛筆の落とし物の中にも翼くんの名前付いたのがあったよね?」
「なんで?名前が書いてあったら、ふつー気づくんじゃないの?」
「だよねぇ?」
「あの子ちょっとへんだよね?」
と、他の女の子の達が言うと、美羽ちゃんは
「翼くんが自分で気づいてないなら誰かが教えてあげれば良いのにと思ったよ。だから今日、翼くんに傘のことを教えてあげたんだ」
と、美羽ちゃんが言いました。
魔女の目が優しく光った気がしました。
するとそこにブランが戻って来ました。
雨がパラパラと降り出していました。
ブランも女の子達の姿を見つけると、テーブルに飛び乗ってスヴァルトの横に座りました。
そして、ひとしきり猫を撫でると、駄菓子を買って帰ろうとしていました。
そこに、傘をさして入って来た少年が居ました。
翼くんです。
翼くんは、学校の帰り道だったらしく、手には傘が美羽ちゃんから教えられて持って帰って来た傘が三本。
「おばちゃん、傘どこに置けばいいかな?」
翼くんは両手に持った傘と、今さしてきた少し濡れた傘を持ってジタハダしていました。
美羽ちゃんが、翼くんに近寄って濡れた傘を持って畳んであげました。
魔女は、店先の傘立てを示して
「傘立てはあそこにあるよ」
と、言いました。
「わかった!」
翼くんは傘立てに自分の四本の傘を立てて中に入って行きました。
さっき、パラパラと降り始めた雨が本降りになって来ました。
女の子たちは、帰ろうとしたが傘を持っていません。
翼くんは、その様子を見て
「ボクの傘使ってよ」
と、女の子たちに言いました。
「えっ、いいの?せっかく持って帰って来たのに」
「うん、四本もさせないもん」
翼くんがそういうと、女の子たちは有難く翼くんの傘を借りて
「明日、学校で返すね」
と、言いました。
美羽ちゃんは、
「翼くん、ありがとう!」
「今度は一本ずつ持って帰りなよ。忘れてたら、落とし物係の私が教えてあげるから!」
と、言って元気に店を出て行きました。
翼くんは、ちょっと心がポワンとなりました。
魔女は、いつの間にか椅子を一脚持って来て、翼くんに
「ここにお座り」
と、言いました。
翼くんはランドセルを背負ったまま、その椅子に座りました。
魔女は、立ち上がって翼くんの背負ったランドセルを降ろしてテーブルに置きました。
猫たちは、いつものお気に入りの窓辺に行って、それぞれのクッションの上で丸くなっていました。
「ちょっと寒くなって来たね」
魔女は、古い暖炉にまるでスイッチをひねるかのように火をつけました。
翼くんは、本物の暖炉を初めて見るなと思いながら、その様子を見ていました。
そして、魔女は座って翼くんに言いました。
「今日は、駄菓子を買いに来たんじゃないのかい?」
「うん」
「じゃあ、他に欲しいものがあるのかな?」
「うん、あの力が出るチョコレートが欲しい」
「チョコレート?あれは普通のチョコだよ?」
「でも、欲しいんだ」
「どうして?」
翼くんは、じっと下を見つめたまま黙っていました。
魔女は、そんな翼くんを見つめたまましばらく黙っていました。
その静けさの中で今まで気づかなかったが、店の中には静かに心地よい音楽が流れて来ました。
すると、翼くんは大粒の涙を流しながら言いました。
「ボク、力が欲しいんだ」
「力?どんな?」
「みんなに負けない力」
「どうしてそんな力が欲しいと思うの?」
魔女は、優しく尋ねました。
「みんなに馬鹿にされて仲間に入れて貰えなかったり、のけものにされたりするから。力があれば、仲間に入れて貰えるかと思って」
「なるほどね」
「だから、おばさん!あの力の出るチョコレートを売ってよ」
魔女は、おもむろに立ち上がると奥から大きな鏡を持って来ました。
そして、それを翼君の前に置きました。
「この鏡に映っているのはだれ?」
「ボク」
「そうだよね?どんな顔をしている?」
「泣いて、変な顔」
「じゃあ、笑ってみてごらん」
「えっ?」
翼くんは、魔女がなぜそんな事を言うのかわかりませんでした。
それでも言われるままに笑ってみました。
ひきっつた笑顔でした。
「それじゃあ、目を閉じてからもう一度この鏡を見てごらん」
翼君は、言われた通り目を閉じて、それからゆっくり目を開いて再び鏡を見ました。
そこには、満面の笑みの自分の笑顔が映っていました。
「えっ?これボク」
「そうだよ。君の笑顔だよ。さっきの顔と、この顔、どちらが良い?」
「もちろん、こっち」
「そうだよね?」
「うん!」
そう翼くんが答えると鏡の中の顔は、今の自分の顔に戻っていました。
「人は、自分の顔は、鏡を見た時しか見れないだろ?でも、他人は、ずっとその人の顔を見ているんだよ。自分よりずーっと長い時間ね」
翼くんは、今の自分の顔が映る鏡を見ながら、上手く笑おうとしました。
「君は、弱いから仲間に入れて貰えないと思っているけれど、それは違うよ」
「そうなの?」
「もう一度この鏡を見てごらん」
と、魔女が言うと、鏡には先日の公園での様子が映し出されていました。
まるでスマホかテジカメか何かで一部始終を撮影していたかのように、ベンチで席を譲って貰っている様子から、サッカーボールを蹴って男性の顔面にヒットさせた様子まで。
翼くんは、その様子を見ながら、再び泣き出しそうになりながら言いました。
「この優しいお兄ちゃんに、今日、『また遊んで下さい』って言ったら、『そのうちな』って言われたんだ。そしたら、別のお兄ちゃんが『お前なんかと遊ぶわかないだろ』って」
そう言って、再び翼くんは泣き出しました。
テーブルには、いつの間にかブランがやって来て、翼くんを見つめていました。
「あ、あの時の猫ちゃん、ここの猫だったんだ」
そう言ってブランを撫でました。
魔女はおもむろに口を開いて言いました。
「君にはね。足りないものがあるのよ」
「えっ?」
「君に必要なのは、力じゃないよ?なんだと思う?」
「うーん、わからない」
「それはね。『感謝の心』だよ」
「感謝の心?」
翼くんには、『感謝』という気持ちがどういうものなのか良くわかりませんでした。
魔女には、それがわかっていました。
「公園でベンチを譲って貰った時にどう思った?」
「嬉しかった」
「ボールが転がって来た時「蹴っていいよ」と言われてどうだった?」
「嬉しかった」
「君の忘れた傘がたくさんあるって教えられてどうだった?」
「それは、迷惑かけたなと思った」
「じゃあ、さっき女の子に『翼くん、ありがとう!今度は一本ずつ持って帰りなよ。忘れてたら、落とし物係の私が教えてあげるから!』と言われてどうだった?」
「心がポワンってなった」
翼くんは、魔女に聞かれた場面の感情をひとつひとつ思い出していた。
魔女は言いました。
「そうだよね?嬉しかったり、心が温くなったりしたはずよ?その時、君はなんて言ったの?」
「んっと…」
翼くんは思い返してみたが思い出せませんでした。
それは、そうでです。
翼くんは何も言ってないのですから…
魔女は静かに言いました。
「なんて言えば良かったのかな?」
翼くんは、ちぃさい声でつぶやくように言いました。
「ありがとう」
「そうだよね?それが感謝の言葉だよ」
「君に必要なのは、その言葉なのよ?」
翼くんは、ハッとさせられました。
さっき美羽ちゃんに傘を貸してあげた時に言われた「ありがとう」が凄く嬉しかったことを。
なのに自分は美羽ちゃんに傘の忘れ物が三本もあると教えて貰っても「ありがとう」を言わなかった。
ベンチを譲って貰った時も「ありがとう」を言えば良かった。
翼くんがそう思っていると、魔女は言いました。
「それと、もうひとつ大切な言葉があるのよ」
「なに?」
翼くんは、それが何かわかりませんでした。
魔女は、はっきり、かつきっぱりとした口調で言いました。
「ごめんなさい!」
「自分が悪い事をしたと思ったら、素直に『ごめんなさい』を言うことよ。君に足りないのは、このふたつの言葉よ」
翼くんは、魔女の言葉を聞いて気づきました。
「そっか、ボク『ありがとう』も『ごめんなさい』もすぐに言えてなかった」
「あなたにとって、このふたつの言葉は魔法の言葉よ?」
「でも、魔法はいつ使っても良いってものじゃないのよ?本当に必要な時に使わないと、魔法が消えちゃうから注意してね」
「そして、魔法はすぐに効くものと、時間がかかるものがあるから、あきらめずに頑張る気持ちも忘れずにね!」
魔女は、翼くんにウィンクをしながら言いました。
「はい!」
翼さんくんは、元気に返事をして椅子を飛び降りました。
外の雨はすっかり上がって、虹が出ていました。
翼くんは、窓から見える虹を見て「わぁ~」と言いながらランドセルも忘れて店の外に出ました。
魔女は、そのランドセルを持って店の前で虹を見上げる翼くんの背にランドセルを背負わせてあげました。
翼くんは、「ありがとう!」と元気に言って飛び切りの笑顔を見せました。
そして、そのまま坂を下って帰ろうとしたので、魔女が
「お客さん!傘の忘れものですよ~」
と、声をかけました。
翼くんは、慌てて駆け戻って来ると
「えへへへ、ごめんなさい」
と言いながら傘を受け取りました。
魔女は、
「その言葉と気持ちを忘れないようにね」
と、言いながら飴を渡してくれました。
「これも魔法の飴?」
「魔法って言うのは、この世界のそこら中に溢れているのよ。それを使えるかどうかは、自分次第なの」
「この飴が魔法の飴だと思えば魔法の飴になるわ。でもね、大切なのは『笑顔』と魔法の言葉よ?」
「うん、わかった!ありがとう!」
翼くんは虹の下をくぐるように坂道を下って行きました。
「さて、今日は閉店ね」
「ブラン、ズヴアルト上に上がりましょう」
町はずれの通学路の途中、急な坂を登った小高い山の上にレンガ造りの古い趣のある一軒の店。
子供たちに人気の「Witch House」
そこには、、魔女と呼ばれる女店主と猫二匹が居ます。
坂の上の「Witch House」 詩紡 まりん @Tsumugi_marine
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