7 大神官(母)から託された、その使命

「父上。大丈夫でしょうか?」

 フェイスが父である皇帝の様子を気にして声を掛けた。

「いや、すまぬ。プレア殿を助ける事が出来たかもしれないのに、それが出来なかったことが悔やまれてな」

 母プレアの様子を聞いて、皇帝の顔が少し悲しい顔にはなっていたのには気が付いていた。


「皇帝陛下。陛下は、私達聖導会の皆を、この皇国に亡命させて下さろうと考えらえておられたと聞きました」

 と、モイラが言う。

「うむ」

 そして、皇帝陛下は続けて言う。

「プレア殿は、それをあっさりと断られてた。”前の国”の内情については、多少なりとも入っていた。だから、何とかしたいと思ってな。だが、当時は、”前の国”も健在だった。いくら我が国が、”前の国”を守護する立場であっても、それは独占を意味する。どのみち、無理な提案であった」

 陛下は私の方を見た。

「リリィ殿。母上を助けられたかもしれないのに、助けられなかった。すまぬ」

 そう言うと、陛下は頭を下げられた。

 

「へ、陛下」

 周りの人達が、騒めいた。

 陛下は、しばらく頭を上げられなかった。

 涙が出そうになるのが治まるのを耐えているかのようだった。

 

「皇帝陛下。会った事はないけど、私の母の事ですから、強く言っても断ったと思います。そこまで心配して下さっていた事を、感謝していると思います。どうか、頭をお上げください」

 私は起立し、悲しんでくれている陛下に感謝の意を述べた。


「うむ。そうか。そうか」

 陛下は、ようやく顔を上げられた。

 その目には、薄っすら光るものが見えた。


「世の代の時には、情勢を見守る事しか出来なかった。無念でならぬ。だが、状況が変わる事が起きた。例の大神殿で転移を行うと知った時だ」

 陛下は、話された。

「私は、息子サーフェイスに命じ、対策を考えさせた。もはやプレア殿はいない。だが、その希望は繋がっている。だから、何かせねばならぬと思ってな」

「それで、私が転移した時に、直ぐに対応出来たのですね?」

 と、言辞げんじが尋ねる。

「うむ。帝国は、転移によって得た知識で、世界に軍事的優位な立場を取って支配しようとしていた。だが、その時行われていた帝国の外交で、周りの国は動けない。しかし、手は打たねばならぬと思ってな。数々の失敗の後に、最初に成功した転移者の処遇が決まる時に、我々は動いた」

「はい。その時、私は用無しと追い出されてしまいました」

 少し恥ずかしそうに言う言辞げんじ

「何を言う。プレア殿は、タダでは転ばぬ方だ。其方そなたが来たのは必ず理由がある。私はサーフェイスに救出せよと命じた。その時、リリィ殿が刺客として来たと知った時は、胸が躍るような気持ちになったものだ」

 皇帝陛下は、目を輝かせて語る。


「しかし、そなたは帝国一の強者つわもの。そして、今までは、敵として接してきた。そう簡単に来てくださいとはいかぬ。だが、サーフェイスは小説なるものを書かせて世論を作り、リリィ殿を呼び寄せると言った。そして、それが今の結果となったのだ」


「は。はぁ」

 私は、その時の事を思い出して、少し恥ずかしくなっていた。

 言辞げんじを見ると、言辞げんじも。


「異世界から連れてこられた言辞げんじ殿には、感謝しかない。こうして、我等が平和を取り戻せたのだから。さぞや、不安であったろう」

「い、いいえ。皇帝陛下。とんでもない。私は、好きな人を取り戻したいと、本を書いただけです。お恥ずかしい」

 と、言辞げんじ

 

 もし母が、言辞げんじを連れてこれるようにしてくれていたとしたら、私も感謝しないといけない。

 この人が居なければ、私は冥府の舞姫めいふのまいひめと呼ばれ、ずっと恐れられていた事だろう。

 そして、最後は、……。


 無謀にもフェイスの口車に乗って、恋愛小説という恥ずかしい本を世間に出して、”前の国”から帝国への内情を暴露し、私を闇から救い出してくれたのだ。

 私だけでなく、親方様や私の仲間。

 そして、帝国の人達。

 それから、この世界の行く末も。


 言辞げんじを見ると、フェイスやローズにヨイショされて、照れ臭そうにしている。

 フェイスの苦労話や、ローズやシャトレーヌ婦人が話だし、賑やかになった。


「旦那様。モイラ様が御依頼されたという使いの方が来られました」

 使用人の人が、言辞げんじに伝えに来た。


「はい。わかりました。モイラさん」

「はい、言辞げんじ様」

 二人は、陛下に一礼をして、玄関の方に向かった。

 例のが届いたのだろう。

 

 暫くして、言辞げんじとモイラが戻って来た。

 数人の使用人が、大事そうに大きな本と杖を一緒に持ってきた。

 モイラと同じ神官の服を着た者達も数名来ていた。

 恐らく、その者達が、経典と杖を持ってきたのだろう。

 

 皆、モイラ達の方を見ていた。

 

「リリィ様。そして皆様。それでは、プレア様より託された使命を、皆様に御話しいたします」

 モイラは続けて言う。


「ひとつは、プレア様より、大神官のみが扱える経典を預かっておりました。これをリリィ様に引き継ぎたいと思い、ここに持ってこさせました」

 その様な大事な本は、私は見た事もない。

 ここに居る人達で、見かけたことのある人は限られているだろう。


「そして、もうひとつ、大事なことが」

 モイラは、意を決して言う。


「”後の国の皇帝”、デュコ・アウローラ・ステルラ様の御子様を、””という所に預かっております」


 皇帝を始め、皆の表情が硬くなった。

 親方様とガルドを除いて。

 

 それもそうだろう。

 つい先日まで、戦っていた敵の総大将の子だというのだから。


 しかし、帝国樹立前後に、”後の国の帝国”の皇帝に、子供がいるとは私もしらない。

 アルキナが帝国の皇帝に似ているのではと聞いたことあるが、アイツは違うようだし。


「それは、確かなのだな?」

 リンド皇国の皇帝がモイラに尋ねる。

 

「はい。プレア様が大神官になられる前に、前任のアクス大神官代理様より直々に託されました。お名前を『カルブンクルス』と申されます」

 モイラは両手を前に組み、リンド皇国皇帝に目線を向けて伝えた。


「なんと。アクス殿からと」

「はい」

「それで、その子を我が皇国で預かって欲しいと言われたのか?」

 リンド皇国皇帝が尋ねた。


「いいえ、皇帝陛下」

 モイラは首を振って否定する。

言辞げんじ様とリリィ様に預かって育てて頂きたいのです」

 モイラは、私達の方に向き直り伝えて来た。

 

「あの帝国の御子息を?」

 流石の言辞げんじも、目を丸くする。


「私達にと、リリィのお母さんが言われたのですか?」

 続けて、言辞げんじが尋ねる。


「はい言辞げんじ様。プレア様と私は、アクス様から『私は、あなた達に未来を託します』として預けられました。おっしゃ。ですが、預かった者が誰であるかを判断すると私は受け取りました」

「そう、ですか」

 言辞げんじは、言葉少なに答える。

 

 「その赤ん坊は、今どこにいるの? ””とか言ってたけど、そんな場所、帝国時代でも聞いたことない。”前の国”のどこにあったのだ?」

 私は尋ねた。

 

「はい。

「はぁ」

 ん? どういこと?

「プレア様の御力で、転移の力を応用されて、時が止まった空間に預けられたとの事です。大神官のお力によるものなので、この世のどこかと言われますと私にもわかりません」

「そ、そう」

 と答えるわたし。


「あのモイラ殿。リリィに、そこから連れ戻して欲しいと?」

 フェイスが尋ねる。

「え?」

 それ、私が何とかするの?


「はい。これは、”前の国”の再建と聖導会の再建の両方に必要不可欠な事と、御認識頂ければと存じます」

 

 モイラ元従者神官殿は、両手を胸のあたりでしっかりと握り、私達に向かって母プレアから預かった使命に付いて私達に伝えた。


 

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