烈火刀削麺 ~壮築楼の同時注文は運命の合図~
亜れみた
第1話 思想は結晶菜、欲望は麻婆
―――太井炭巡府・準備倉庫―――
私、刀 真葉音(とう まはね)。
典礼院行事運営局に入庁したくて仕方なかった。
そのきっかけは、黒炭祭(くろすみさい)だった。
炭鉱の町を琥珀色に染め上げる数千の魔導灯籠と、重力に抗い空に舞う空中楼閣。 幼い頃に見た、魔導の光が夜を溶かす幻想的な宮廷行事だ。
猛勉強の末入庁。新入局者は1年間巡府での研修の後、配属先が決まる。
典礼院文華推進局は巡府の文華局。
食膳局は巡府の調理場。
なのに、典礼院行事運営局は・・・倉庫。
食材庫ですらない、ただの倉庫。
・・・え? 疑問しかない。
煮え切らない気持ちはあるけど倉庫勤務の同門最高。
和尚:「真葉音!あと5分で黒炭祭の装飾品着くって、シャッター行くよ!」
この凛とした頼れる女性が普現寺 和尚(ふげんじ かずな)、通称「和尚さま」。
なぜ同門なのに「さま」なのかって? サバサバしてて賢くて、なんとなくそう呼びたくなるから。
入庁面接のとき、緊張で言葉に詰まった私を助けてくれたのも和尚さま。
もう、入庁前からありがたい存在だ。
和尚:「宮廷画家・中祐の作品集も今回の便で届くって」
真葉音:「本宮勤務になったら会えるのかな?」
和尚:「そりゃーもおー、向こうから会いに来るでしょ」
真葉音:「うーわーもおー」
―――微かに、しかし主張のある咳の音。
真葉音・和尚:「あっ、すみません・・・」
―――人差し指を口に当て、静かにしようとするがテンションは下がらない。
和尚:「もう11節なのに同門が未だに厳しい・・・(小声)」
シャッター前で、年配の外注職人が腕を組んで立ち止まっていた。
職人:「この箱、伝票と数が合わないんだが」
空気が重くなる。和尚は冷静に箱の封印紋を見る。
和尚:「昨日の最終便ですね。第三棚、二段目。予備の灯籠なので数は一つ多いはずです」
職人は一瞬きょとんとし、すぐに伝票を見直した。
「あ・・・ほんとだ。悪い」
「いえ。確認ありがとうございます。運ぶ前で助かりました」
そう言って、和尚は何事もなかったようにシャッターを上げる。
「流石、和尚さま」
―――シャッターオープン。
―――昼膳―――
真葉音、倉庫に隣接した控えの間で、和尚を待ちながら魔導通信鏡を眺めている。
鏡の縁に青い魔力が走ると、画面に映る刀削麺の湯気がホログラムのように立ち上った。
画面・・・「天速渡線で行く! 刀削麺名店堪能の巡行(たび)」。
―――足音。
和尚、入ってくる。
和尚:「はい、中祐の作品解説集。読むようにって(ニヤニヤ)」
―――2冊のうち1冊を差し出す。
真葉音:「もちろん読むさー(ニヤニヤ)」
真葉音・和尚:「最高~」
―――声が重なった瞬間、周囲の気配に気づく
真葉音:(小声で)「・・・もう、今日の昼膳の刻は黙読ね!」
和尚:「そうね、各々読書タイムにしよう」
―――数秒、紙をめくる音。
真葉音:「『聞いて~、推しの演出が尊いの』とかナシだからね!」
和尚:「『聞いて~、気になる刀削麺屋さんがあるんだけど~』はナシだからね!」
真葉音:「・・・あ、でもわたし刀削麺だから、食べながら読みにくいや」
和尚:「また刀削麺なの~」
真葉音:真葉音:「・・・あ、でも私、今日刀削麺だから。本読みながらは無理かも」
和尚:「また!? 毎日飽きないわね」 真葉音:「飽きるわけないじゃん! 疲労回復には、小麦の弾力が必要なの!」
和尚:「入庫量に関係なく刀削麺食べるくせに。でも飯箱で刀削麺持って来る人、見たことない」
―――ふっと、笑いをこらえる気配。
―――井 本(い もと)、登場。
本:「何か、いつも刀削麺の話してるね~」
―――本、通りすがりに声をかけ、二席空けた隣に腰を下ろす。
和尚:「真葉音が刀削麺溺愛すぎて」
本:「(首を傾け)刀削麺が恋人?」
和尚:「刀削麺は同志ってとこかな?彼氏は絶賛募集中だよね~」
真葉音:(キョロキョロ周りを見渡し、恥ずかしそうに)
「ちょっとー・・・彼なら、出来ます!」
和尚・本:「で、出来ます?」
―――顔を見合わせる。
―――真葉音、慌てて魔導通信鏡を操作する。
真葉音:「じゃーーーん!」
画面・・・
「天速渡線で行く! 刀削麺名店堪能の巡行(たび)」。
―――本、無言で一席詰め、画面を覗き込む。
本:「・・・計画は、もう出来てるんだ」
和尚:「え?え?彼氏と行くの?」
真葉音:「彼氏が出来るんです!」
和尚:「あー、はいはい。
本くん、もう中祐本もらった?」
本:「もらえた」
和尚:(真葉音に向かって)
「わたしたち、読書タイム入るから!」
真葉音:「もー、待って!
わたしと彼氏の出会い、聞きたくないの?」
本:「・・・時空、歪んでない?」
真葉音:「わたしには、
理想の運命の出会い方がありま~す!」
本:「そこにも理想があるんだ・・・」
和尚:「そこが原因で、幸せ遠のいてないといいけど・・・」
真葉音:「わたしの理想の運命の出会いはね、連珠式配膳で、列がぐちゃってなって、同時に注文して――」
和尚:「はいはい。図書館で同じ本に手が触れるやつの、刀削麺版ね」
本:「・・・ほんとだ。幸せを遠のけてる」
真葉音:「ちょっと~!出発は明日なんだから、そんな現実的なこと言ってられるのも今日が最後だからね!」
和尚:「強気だなあ」
本:「無謀だなあ」
真葉音:「だから!運命が訪れたときの対処法、一緒に考えてよ!」
和尚:「仕方ないな~」
「いい? 運命は一瞬の混乱の中に潜んでるの」 私は身を乗り出した。
「ごった返す名店の列。注文の境目が曖昧になったその瞬間、運命のふたりが同時に口にするの。『麻婆刀削麺!』って」 「麻婆なんかい」 和尚さまが即座に突っ込む。
「あんた、思想は結晶菜(クリーン)だけど、欲望は麻婆(ヘビー)だもんね。理想と注文が別人だよ」 「じゃあやり直し! 同時に『特盛刀削麺、全付盛!』」
「……名店巡りする人は特盛頼まないよ」 本くんの冷静な指摘も無視して、私は一人二役で声を弾ませる。
「『偶然ですね、僕も特盛全付盛が好きなんです』『あ、あの、実は真葉音さんの妄想を聞いて後ろに並んでました』なんて言われちゃって!」 「ホラーだよ。ストーカーじゃない」
和尚さまが頭を抱えるが、私の妄想は止まらない。
「実はその彼、近所の幼馴染の『削(さく)くん』で、今は専門店を経営してて……『真葉音ちゃん、結晶菜みたいに純粋な君を探してたんだ』ってプロポーズ!」 「麻婆食べてる口で言うな!」 和尚さまの鋭い一撃。本くんも「刀削麺屋に嫁ごうとしてる……」と呆れ顔だ。 「どの運命が待ってるんだろ」 胸を躍らせる私に、和尚さまが冷たく告げた。 「小休、終わるから戻るよ」 小麦色の夢が、現実の埃っぽい空気にかき消された。
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烈火刀削麺 ~壮築楼の同時注文は運命の合図~ 亜れみた @aremita
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