発達障害の夫

真田直樹

第1章  理想のはずの二人

第1章 理想のはずの二人

美咲と隆一は、近所で理想的な夫婦と称されていた。

晴れた休日には手をつなぎ、公園を散歩する二人の姿は、誰が見ても穏やかで幸せそうだった。

「今日のランチ、どこに行く?」

美咲が微笑みながら尋ねると、隆一は少し考え込んでから答える。

「そうだな……あのカフェ、久しぶりに行ってみるか」

何気ない会話だが、その背後には互いを思いやる時間が流れている。

美咲は、隆一の少し不器用な面も愛らしく感じていた。

• 食事の準備が雑なときも

• 家の片づけが自分と違う順序で行われるときも

「まあ、これも隆一らしい」と微笑みながら、受け入れる自分がいる。

しかし、隆一には発達障害があった。

彼は物事の順序を理解するのが苦手で、感情の表現も時に一方的になりがちだった。

人の微妙な表情や空気を読み取ることが難しく、些細な場面で誤解を生むこともある。

美咲はそのことに気づいていたが、まだ表面的には幸せな日常を維持できていた。

「大事なのは、愛情があること」と自分に言い聞かせ、目の前の笑顔を大切にする。

朝のキッチン。隆一がトーストを焼きながら、

「今日は仕事、早めに終わる予定だ」と言う。

美咲はコーヒーを淹れながら答える。

「そうなんだ。じゃあ、帰ったら一緒に映画でも見ようか」

隆一は少し考え込み、微笑む。

「うん、それ楽しみだな」

理想の夫婦に見える二人のやり取りは、外から見れば完璧に映る。しかし、内面には微細なずれが存在していた。

• 隆一が何気なく言った一言が、美咲には少し冷たく感じられること

• 美咲の思いやりや期待が、隆一には理解しづらいこと

それでも二人は、この日常を「幸せ」と感じていた。

外の世界に対しては理想的でも、内面にはまだ、試練の芽が静かに息づいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る