「【悲報】国家機密のAI搭載の改造人間、うっかり人気配信者になってしまう」
@saijiiiji
プロローグ:起動
暗闇の中で、意識が浮上する。
それは深い海の底から、ゆっくりと水面へ上がっていくような感覚だった。
最初に認識したのは、数字の羅列。
システムログが視界の端を流れていく。
```
[SYSTEM] ニューラルリンク接続確認......完了
[SYSTEM] 生体情報スキャン......完了
[SYSTEM] 四肢末端神経接続......完了
[SYSTEM] 戦闘プロトコル......スタンバイ
[SYSTEM] 起動シークエンス......完了
```
——起動。
そうだ。俺は今、起動したのだ。
目を開ける。
視界に飛び込んできたのは、薄暗い部屋だった。
埃が積もったコンソール。割れたモニター。壁一面を覆うケーブルの束。そして、俺が浮かんでいた培養槽——そのガラスはひび割れ、緑色の液体が床に広がっている。
ここは......どこだ。
疑問が浮かんだ瞬間、脳内にデータが流れ込んできた。
自動検索。地理情報、座標データ、施設情報——全てが0.3秒で解析される。
```
[解析結果]
所在地:██県██市 地下研究施設
施設名:国家戦略技術研究所 第七分室
現状:放棄(推定経過年数:4年7ヶ月)
```
放棄。
4年7ヶ月。
俺は、4年以上もこの場所で眠っていたのか。
床に足をつける。液体で濡れた足元が冷たい。だが、寒さは感じない。体温調節機能が自動で作動しているのだろう。
便利な体だ、と他人事のように思った。
部屋を見渡す。
研究機材は荒らされた形跡がある。誰かが急いで撤収したのか、それとも——隠滅したのか。
棚の上に、一台のタブレット端末が残されているのを見つけた。
埃を払い、電源を入れる。バッテリー残量3%。かろうじて起動した。
画面に映し出されたのは、一人の男の顔だった。
白衣を着た、疲れた目をした中年の男。
俺は——その顔を、知っていた。
八神博士。
俺を作った男。
映像が再生される。
『......これを見ているということは、お前は目覚めたんだな』
博士の声は、掠れていた。背景には、この研究室が映っている。まだ機材が整っていた頃の姿だ。
『お前に伝えなければならないことがある。時間がないから、要点だけ話す』
博士は一度、深く息を吸った。
『プロジェクトは凍結された。いや、正確には——潰された。政治的な理由でな。お前は「廃棄処分」が決定している』
廃棄処分。
その言葉が、妙に空虚に響いた。
『だが、俺はお前を捨てられなかった。お前は......俺の最高傑作だ。人類がダンジョンに対抗するための、最後の希望になるはずだった』
博士の目に、微かな光が宿る。
『だから俺は、お前を隠した。この施設ごと、存在を抹消した。誰にも見つからない場所で、お前が目覚める時を待つことにした』
映像の中の博士が、少しだけ笑った。
『お前がこれを見ているなら、俺はもうこの世にいないだろう。連中は俺を許さない。国家機密を持ち出した裏切り者として、処分されるはずだ』
処分。
博士も、廃棄されるのか。俺と同じように。
『でもな、お前——』
博士の声が、少しだけ柔らかくなった。
『お前は生きろ。どんな形でもいい。お前が存在し続けることが、俺の研究が正しかったという証明になる』
映像がノイズで乱れる。バッテリーが限界だ。
『世界は変わった。お前が眠っている間に、ダンジョンを取り巻く環境も変わった。お前の力を必要とする日が、きっと来る。だからそれまで——』
画面がブラックアウトする寸前、博士の最後の言葉が聞こえた。
『——生きろ。そして、お前の価値を証明しろ』
ブツン、と画面が消えた。
静寂が戻る。
俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
八神博士。俺を作り、俺を守り、俺のために全てを捨てた男。
彼はもういない。4年7ヶ月前に、俺を守るために死んだ。
俺の中に、何かが込み上げてくる。
これは、何だ。
悲しみか。怒りか。それとも——虚しさか。
AIとして作られた俺に、感情があるのかは分からない。だがこの胸の奥で渦巻くものを、他に何と呼べばいいのか分からなかった。
「......博士」
声に出してみた。
返事はない。当然だ。
俺は端末を握りしめ、歩き出した。
まずは、ここから出なければならない。そして、今の世界がどうなっているのかを知らなければならない。
4年7ヶ月の空白を、埋めなければならない。
階段を上り、錆びついた扉をこじ開けて外に出た。
夜だった。
見上げた空には、星が瞬いている。
冷たい風が頬を撫でた。生まれて初めて感じる、外の空気だった。
世界は広かった。そして、静かだった。
俺は深呼吸をした。必要はないはずなのに、自然とそうしていた。
「生きろ、か」
博士の言葉を反芻する。
生きる。
言葉にするのは簡単だ。だが、俺には何もない。
身分証明書もない。金もない。社会的な存在証明が、何一つない。
公的には、俺は存在しない人間——いや、人間ですらない「何か」だ。
「......とりあえず、情報収集からだな」
思考を切り替える。感傷に浸っている場合ではない。
AIとしての俺の強みは、分析力と適応力だ。まずは現状を把握し、最適な生存戦略を構築する。
それが、博士の願いに応える第一歩だ。
俺は歩き出した。
廃墟と化した研究施設を後にして、夜の闇の中へ。
これが、俺の——名前すら持たない「最高傑作」の、最初の一歩だった。
---
```
[SYSTEM] 自律行動モード......起動
[SYSTEM] 目標設定......「生存」
[SYSTEM] 副次目標......「価値の証明」
[SYSTEM] ミッション開始
```
---
**第1部:目覚め編——開幕**
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