第二十一章 首都潜入

城の中を、二台の馬車が駆け抜けていく。


 天輪号と、黒沢の黒い馬車。


 建物の間を縫い、中庭を横切り、城壁沿いを走る。


「道明さん、どこに向かうんですか!」


 リーゼルが、叫んだ。


「城の外だ! ここで戦うと、巻き添えが出る!」


「でも、黒沢さんが——」


「大丈夫だ! あいつは、俺を追ってくる!」


 道明は、天輪号を加速させた。


 城門が、見えてきた。


 警備の兵士たちが、慌てて道を開ける。


 天輪号が、城門を突破した。


 続いて——黒沢の馬車も。


 城の外。広い平原。


 ここなら——戦える。


 道明は、馬車を止めた。


 振り返る。


 黒沢の馬車が——迫ってくる。


「来い、黒沢!」


 二台の馬車が——激突した。


         ◇


 衝撃波が、周囲に広がる。


 大地が揺れ、砂塵が舞い上がる。


 二台の馬車は——弾かれて、離れた。


「くそ……!」


 道明は、態勢を立て直した。


 黒沢の馬車も、同様だ。


「いい勝負じゃねえか、神崎さん!」


 黒沢が、嘲笑った。


「でも、俺の方が——強い!」


 黒沢の馬車から、黒い光が噴き出した。


 それが——触手のように、伸びてくる。


「リーゼル! 伏せろ!」


 道明は、天輪号を急旋回させた。


 触手が、すれすれを通り過ぎる。


「あぶねえな……!」


 道明は、馬車を加速させた。


 黒沢の馬車を——周回するように、走る。


「何をしている……!」


 黒沢が、困惑した声を上げた。


「逃げ回っても——無駄だ!」


「逃げてない」


 道明は、冷静に答えた。


「お前の動きを、観察してるんだ」


「観察……?」


「ああ。お前の馬車は、直線は速い。だが——」


 道明は、急ブレーキをかけた。


 天輪号が、横滑りする。


 そして——黒沢の馬車の「死角」に、回り込んだ。


「——カーブが、甘い」


「なっ——!」


 道明は、天輪号を黒沢の馬車にぶつけた。


 衝撃。


 黒沢の馬車が、バランスを崩す。


「くそっ——!」


「お前の運転は、下手だ」


 道明が、冷たく言った。


「客を乗せたことがないから——乗り心地なんて、考えたことがないんだろう」


「うるせえ!」


 黒沢が、馬車を立て直した。


 そして——黒い光を、再び放った。


 今度は——さらに多くの触手が、伸びてくる。


「道明さん!」


 リーゼルが、叫んだ。


「私の力を——使ってください!」


「何?」


「私は、創世の巫女です! 神霊たちを——増幅させることができます!」


 リーゼルの身体が、光り始めた。


 その光が——道明の身体に、流れ込んでくる。


 温かい。懐かしい。


 そして——強い。


『道明』


 声が、聞こえた。


 十一柱の神霊たちの声だ。


『我らの力を、使え』


『お前は、本物の御者だ』


『十二柱目を——解放しろ』


 道明の身体から、金色の光が噴き出した。


 黒沢の触手が——その光に、弾かれる。


「なっ——!」


 黒沢が、驚愕した。


「何だ、その光は——!」


「十一柱の神霊の力だ」


 道明は、天輪号を加速させた。


「そして——お前の馬車の中にいる、十二柱目を——解放する!」


 天輪号が——黒沢の馬車に、突っ込んだ。


 轟音。


 閃光。


 二台の馬車が——絡み合いながら、滑っていく。


「くそっ——離せ——!」


 黒沢が、もがいた。


 だが、道明は離さなかった。


 右手を——黒沢の馬車に、突き入れる。


「十二柱目——!」


 黒沢の馬車の中から——光る球体が、飛び出した。


 十二柱目の神霊だ。


『……ありがとう……』


 球体が——道明の身体に、流れ込んでいく。


 最後の一柱。


 十二柱全てが——道明の中に、揃った。


「……くそ……!」


 黒沢の馬車から、力が——抜けていく。


 黒い光が、消えていく。


 そして——


 黒沢の馬車が、停止した。


 道明は、天輪号から降りた。


 黒沢が——馬車の御者台で、うずくまっていた。


「……負けた、か」


 黒沢が、呟いた。


「……俺の、負けか」


 道明は、黙っていた。


 しばらく、沈黙が続いた。


 そして——


「黒沢」


「何だ」


「お前は、まだやり直せる」


 黒沢が、顔を上げた。


「……まだ、そんなことを言うのか」


「ああ」


 道明は、黒沢を見つめた。


「お前は、間違えた。だが——間違いは、直せる。それが、人間だ」


「……」


「俺も、間違えてきた。家族を——ないがしろにした。娘を——傷つけた。——でも、やり直そうとしてる」


「……」


「お前も、やり直せ。——今からでも、遅くない」


 黒沢は、しばらく黙っていた。


 それから——小さく、笑った。


「……あんた、本当に——お人好しだな」


「よく言われる」


「俺は——あんたに、酷いことをしてきた。なのに——」


「過去は、変えられない。だが、未来は——変えられる」


 道明は、手を差し出した。


「来い、黒沢。——俺と一緒に、走れ」


 黒沢は——道明の手を、見つめていた。


 長い、長い沈黙。


 そして——


 黒沢が、その手を——取った。

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