第十九章 十一柱目の場所

塔から戻った道明を、リーゼルが出迎えた。


「道明さん! 大丈夫でしたか!?」


「ああ、大丈夫だ。——十柱目を、乗せた」


 リーゼルの顔が、輝いた。


「本当ですか! すごい——」


「だが、問題がある」


「問題?」


 道明は、遠くを見た。


 黒い城。帝国の首都。


「十一柱目と十二柱目は、あの城の中にある。——そして、十二柱目は、黒沢に囚われている」


 リーゼルの顔が、曇った。


「やはり……」


「知っていたのか」


「予想していました。『闘争の御者』は——神霊の力を、吸い取ります。黒沢さんが、神霊を囚えていても——おかしくありません」


 道明は、頷いた。


「あの城に、乗り込む」


「でも、どうやって——」


「方法は、ある」


 道明は、天輪号を見た。


「俺は、タクシー運転手だ。——どこにでも、入り込む方法を知っている」


         ◇


 帝国の首都「黒鉄城」は、巨大だった。


 高い城壁。無数の塔。そびえ立つ本丸。


 その周囲には、街が広がっている。帝国の民が暮らす、大きな都市だ。


「あの城に、入るのか……」


 リーゼルが、不安そうに言った。


「ああ」


 道明は、街を見つめていた。


「だが、正面から行くわけじゃない。——裏口から、入る」


「裏口?」


「ああ。どんな城にも、裏口はある。物資を運び込む通用口、使用人が出入りする門——そういうのを、探す」


「でも、どうやって——」


「付け待ち、だ」


 道明が、笑った。


「人の流れを、観察する。どこから人が出てきて、どこに入っていくか。それを見れば——裏口の場所が、わかる」


 リーゼルは、道明を見つめた。


「……道明さんは、本当に——タクシー運転手ですね」


「ああ、そうだ。——だから、任せろ」


 道明は、馬車を街の外れに止めた。


 そして、一人で街に入っていった。


         ◇


 街の中を、歩いて回る。


 市場。酒場。住宅街。そして——城への通路。


 道明は、全てを観察していた。


 人の流れ。荷馬車の動き。兵士の配置。


 ——あそこだ。


 城の裏側に、小さな門があった。


 そこから、定期的に荷馬車が出入りしている。食料や物資を運び込む、通用口だろう。


 道明は、その門の近くで——待った。


 付け待ち。


 タクシー運転手が、客を待つように。


 荷馬車が、通り過ぎる。


 また一台。また一台。


 そして——


「おい、そこの男」


 声をかけられた。


 道明は、振り返った。


 そこには、荷馬車の御者が立っていた。中年の男。疲れた顔をしている。


「何か、用か」


「あんた、見かけない顔だな。——何をしてる」


「仕事を、探している」


「仕事?」


「ああ。荷物運びでも、何でもいい。——金が、必要なんだ」


 御者は、道明を上から下まで見た。


「……歳食ってるな」


「そうだ」


「でも、体は丈夫そうだ」


「ああ。長年、馬車を——いや、乗り物を、運転してきたからな」


 御者の目が、光った。


「乗り物?」


「ああ。客を乗せて、目的地まで送り届ける仕事だ」


「御者か。——へえ、珍しいな」


 御者は、少し考えた。


 それから、言った。


「実は、困ってるんだ。相棒が、病気で倒れてな。人手が足りない」


「手伝おうか」


「本当か? 悪いな」


「いいさ。——で、どこに行くんだ」


 御者が、親指で城を指した。


「あそこだ。——黒鉄城の厨房に、食料を届ける」


 道明は、内心でガッツポーズをした。


「わかった。やろう」


         ◇


 荷馬車は、城の通用口から中に入った。


 道明は、御者の隣に座っている。


 城の内部が——見えてきた。


 広い中庭。無数の建物。そびえ立つ本丸。


 ——十一柱目は、どこにいる。


 道明は、周囲を観察しながら、考えていた。


 神霊の気配を——感じ取れるだろうか。


 九柱の神霊が、既に自分の中にいる。彼らの力を借りれば——


 ——あそこだ。


 中庭の奥に、古い塔があった。


 他の建物とは、明らかに雰囲気が違う。黒い石で造られた、不気味な塔。


 そこから——かすかな光が、漏れ出している。


「おい、あの塔は何だ」


 道明は、御者に尋ねた。


「ああ、あれか。——『封印の塔』って呼ばれてる。何が入ってるかは、知らない。立入禁止だからな」


「立入禁止か」


「ああ。皇帝の命令で——誰も近づけない。近づいた奴は——消えるって噂だ」


 道明は、塔を見つめた。


 ——あそこに、いる。


 十一柱目の神霊。


 そして、おそらく——十二柱目も。


「おい、着いたぞ」


 御者の声で、道明は我に返った。


「ああ、すまん」


 荷馬車は、厨房の前に止まった。


 道明は、荷物を降ろすのを手伝いながら——考えていた。


 どうやって、あの塔に入るか。


 警備は厳重だろう。正面から行くのは、無理だ。


 だが——方法は、ある。


 タクシー運転手は、どこにでも入り込む。


 それが、プロの技術だ。


「おい、あんた」


 御者が、声をかけてきた。


「何だ」


「よく働くな。——また、手伝ってくれるか?」


「ああ、喜んで」


「よし。じゃあ、明日も来てくれ。——同じ時間に、同じ場所で」


「わかった」


 道明は、御者と別れた。


 城の中を、歩いていく。


 帰り道——ではない。


 「封印の塔」へ向かう道を、探している。


 やがて——見つけた。


 塔へ続く、細い通路。


 警備は——いない。


 いや、違う。


 警備がいないのではなく——警備が必要ないのだ。


 通路の入口に、光の壁がある。


 十一柱目の時と、同じ。


 御者にしか、通れない壁。


 道明は、壁に手を伸ばした。


 触れた瞬間——壁が、消えた。


 道が、開ける。


 道明は、塔へ向かって歩き始めた。

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