静かな交差点で

真田直樹

第1話

序章 出会いのカフェ

東京の夕暮れ。ビルの谷間に沈む柔らかな光が街路に伸びる。黒川悠真は、いつもの通勤路を歩きながら、どこか心がざわついているのを感じた。

仕事場では完璧に数字を操る彼も、人との会話や感情の機微を読み取ることは苦手だった。社会の雑音、人の表情や声のトーン、どれも計算するように慎重に観察する必要がある。

そんな時、目に入ったのは小さなカフェの温かい灯り。窓際には、車椅子に座りスケッチをする女性――佐倉美咲。

柔らかな光に照らされる彼女の姿は静かで、けれど何か強い意志を感じさせる。悠真は思わず立ち止まった。

「こんにちは」

「……こんにちは」

互いに自己紹介を交わすと、自然に会話が始まった。悠真は少しぎこちなくも、丁寧に自分のことを説明する。美咲はその真摯さに安心したように微笑む。

初めての出会いながら、二人の間には小さな安心感が芽生えた。言葉は少ないが、確かな繋がりを感じる瞬間だった。

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第2章 少しずつの距離

数日後、偶然カフェで再会した二人は、連絡を取り合うようになる。悠真は発達障害特有の慎重さから、メッセージを送るのにも時間をかけた。しかし美咲はその丁寧さを理解し、安心して受け取る。

「悠真さん、今日はどんな一日だった?」

「仕事は……いつも通りです。でも少し疲れました」

簡潔な文章でも、正直さと誠実さがにじみ出る。美咲は心の中で微笑みながら、「疲れた時も正直に伝えてくれるのは嬉しい」と思った。

週末、二人は図書館で再会。互いに好きな本や趣味の話をしながら笑い、自然に距離を縮める。悠真は美咲の明るさに安心し、美咲は悠真の真面目さに惹かれる。

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第3章 初めてのデート

土曜日、二人は美術館へ向かった。車椅子でもアクセスしやすい場所を選び、悠真は事前にスロープや段差を調べ、細かく準備する。美咲はそんな悠真の慎重さに微笑む。

館内での時間は静かで、互いの存在を意識するだけで心が満たされる。ランチでは悠真が美咲の好みを覚えて席を選び、車椅子でも座りやすい位置を確保する。

「細かいところまで気を遣ってくれて嬉しい」

「それは……自然にできることです」

午後の散歩で手を触れ合う距離で歩く二人。言葉よりも、互いの存在が安心感をもたらす、初めてのデートだった。

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第4章 家族の視線

交際が進むにつれ、家族や社会の視線が影を落とす。悠真の母親は過保護で心配性、美咲の父親は娘の安全を気にする。

「悠真、最近出かけることが増えたけど……誰かいるの?」

「えっと……友達のような感じです」

美咲の父も、「悠真さん、本当に大丈夫か?」と心配する。しかし二人は互いの思いを伝え、家族の理解を少しずつ得る。

街中でも偏見の目や心ない言葉に直面することがある。だが、美咲は悠真の言葉を思い出す。「誰の目を気にする必要もない、私たちには私たちの時間がある」と。

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第5章 すれ違いと不安

仕事の遅れや日常の疲れから、二人の間に小さな誤解や不安が生じる。悠真はメッセージで思いをうまく伝えられず、美咲は自分の障害が負担になっていないか心配する。

ある日のカフェでの会話も、表情や言葉の行き違いで少し気まずくなる。しかし夜に本音で打ち明け合うことで、互いの不安は解消され、信頼を深めることができた。

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第6章 支え合いの時間

日常や趣味を通じて、二人は支え合う喜びを知る。美咲のスケッチに付き合う悠真、段差や移動を手伝う姿。

遠出や小さな冒険も経験し、二人は恋愛だけでなく、共生するパートナーとしての関係を築いていく。互いを支え合う時間は日常の幸せそのものだった。

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第7章 危機と決断

仕事のトラブルや偏見、疲労による衝突――二人は初めて大きな試練を迎える。しかし、互いの気持ちを素直に伝え合うことで乗り越える。

「君といる時間は僕にとって大切なんだ」

「私も、悠真さんと一緒にいることが大切」

困難が二人を強く結びつけ、支え合う決意を深める。

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第8章 小さな奇跡

美咲は車椅子でも楽しめるアートイベントを企画し成功させる。悠真も仕事で評価を高める。互いの夢を支え合うことで、小さな奇跡が日常に積み重なっていく。

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第9章 愛の形

支え合う関係は恋愛として成熟していく。小さな支えや言葉にならない理解が、互いの愛を深める。発達障害や障害は、二人にとって制約ではなく、理解を深めるきっかけになった。

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第10章 静かな交差点で

夕暮れの街、手をつなぐ二人。すべての困難や葛藤を乗り越え、互いの存在を確かめ合う。小さな奇跡の積み重ねが二人を結びつけ、穏やかで確かな幸せをもたらす。

「これからも一緒にいようね」

「ずっと」

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静かな交差点で 真田直樹 @yukimura1966

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