あ、それは絶対ダメ!!

餅月 響子

触ってはいけないもの

 あるところにおじいさんとおばあさんがいた。

 ド定番の昔話と思いきや、それはそうとも言い切れない。

 

 そのおばあさんは70歳。見た目よりかはもっと若く見られていた。

 なんで、そんなに若いんだろうと、孫の奏汰は考える。朝ごはんを食べて終えたあと、疑問に思ってしまった。


「ねぇねぇ、お母さん。どうして、麻祐子おばあちゃんはあんなに若いの? すごくない?」

「そうだね。なんでだろうね。お母さんにもわからないや」

「僕、なんで若くいられるのか、おばあちゃんに聞いてみる」

「え、ちょっと。待って、どこ行くの?」

「おばあちゃんの家、行ってくるから!」


 いつもお母さんと一緒でしか行ったことがない奏汰はあまりにも気になりすぎて、家から飛び出した。小学3年となれば、一人で歩くこともできる。毎日、学校には一人で歩いていくのだから、おばあちゃんの家に行くことくらいへっちゃらと思っていた。


「確か、こっちの道かな」


 前にも通ったことがある道だった。交差点が繰り返しある。横断歩道が3つも。その道の途中には歩行者用信号機。これはボタンを押さないと青信号にならない。


「あ、これだ。ここを押さないと!」

 僕は、信号機に手を伸ばそうとした。


「手を出すな!!! そのボタンは押しちゃいけない」


 サラリーマンの知らないおじさんが急に声を張り上げた。汗をびっしょりかいて、僕の手を振り払った。おばあちゃんの家に行きたいのに行けなくなる。車は何台も通り過ぎる。全然進めない。信号はもちろん、赤のまま。おじさんの足は透けていた。


「君、なんでここにいるの? この信号は特別な人しか押しちゃいけないんだよ」

「え? どうして。歩行者信号機でしょう? 誰でも押せるんじゃないの?」


 その言葉を発した瞬間に目の前が真っ白になった。白い靄のようなものが湧き出てきて、おじさんも靄に包まれて消えた。


―――僕はベッドの上で目を覚ました。


 体を起こすと、おばあさんの仏壇の写真が見えた。50歳くらいの若い時の写真だった。70歳まで生きたおばあちゃんは、亡くなった。見た目はずっと50歳のままだと思っていたが、僕は5年間おばあちゃんに会ったことがない。介護老人施設に入ったままで会うことはできなかった。記憶は若いときのまま、とまっていた。


 お葬式の時、棺桶に入ったおばあちゃんの肌は白く、若いの時のままに見えた。


 あの信号機のボタンを押していたら、もしかしたら、僕はあの世に行ってしまったかもしれない。


 中学生になった僕は、不思議な夢を見ていた。

 改めて、おばあちゃんの遺影を見ると、ものすごく笑顔だった。


――― 完 ―――

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