第2話 ヘドロゾンビ擦り付け、ツンデレラさまのピンチ

 刺あるところ傷あらず。

 傷あるところ心なり。



「はぁーっ…。ソウジ・オスール! 真面目にやりなさいよね!」

 ソウジと同じダンジョン清掃員の制服に身を包む、小柄な女性。

 大きな瞳は吊り上がり、鼻はツンと立っている。肌は果実のように瑞々しく、均整の取れたスタイル。本来ならばダンジョン清掃員は長髪不可だが、優秀さゆえに許されているポニーテールが背中で揺れている。

 そして、作業帽子に光る金のライン。これは、彼女、バッティー・ツンデレラがダンジョン清掃員班長であることを示していた。

「はあ、すみません、ツンデレラさま…」

「ホントにしょぼくれおじさんは頼りにならないんだから! いいわ、見てなさい!」

 ソウジに指を突きつけて、30分ほど指導という名の罵倒を続けたツンデレラは、ふんすと鼻息を鳴らすとモップ代わりに持っている杖を掲げた。

「いい、ダンジョン清掃は、こういう風にやるのよ! よぉーく見てなさい!」

 ツンデレラの高まる魔力が一気に解放され、光の粒子となって、二人のいる層全体に広がっていく。

 モンスターの死骸が、血しぶきや飛び散った体液が、消えていく。

 ツンデレラの魔法が終わると、その層の汚れは全て消滅した。

 額に汗を浮かべ、膝をつくツンデレラ。呼吸が荒く、魔力が尽きたようだ。

「ど、どう! これぐらい効率良くやらなきゃ、ダンジョン清掃なんて言えないわ!」

「はい、ツンデレラさま、流石です!」

(この後の埃取りやワックスがけなんかまでが清掃なんだけど、ツンデレラさまがんばってるから、そんな事言えない!)

 遠くから幾つもの足音が聞こえてきた。大勢が、しかも走って、ソウジとツンデレラに近づいてきているのが分かる。

「え、なに…。アタシ、もう魔力が…っ」

「ツンデレラさま、危険です。壁際に…っ!」

 その群れは、ひとりの男に率いられたモンスターの集団だった。

「あれは、ヘドロゾンビ!? アイツ、まさか!」

「ギャハハハハ! いいぜぇ、追ってこい! このヘト・ベェトさまはこっちだぜぇ!」

 ヘトは速度を上げ、ヘドロゾンビの群れと距離を取ると、ソウジたちの前を駆け抜けて、そのまま逃げて行った。

「ヒィーハハハッ! 雑魚清掃員ども、俺のヘイトはお前らになすり付けだ! ダンジョンはコイツらのヘドロで汚れ切って、お前らはコイツらに喰われちまえ! あぁーっ、気ン持ちイイ!」

「ま、待ちなさい!」

 ツンデレラが追おうとするが、足に力が入らない。

 その間にもヘドロゾンビたちが迫って来る。

「ツンデレラさま、ここは俺が…っ!」

 ソウジがツンデレラを庇うように立ち、モップを武器代わりに構える。

「止めなさい、おじさん! アタシが、魔法で…!」

 ソウジが自然にモップを一振りする。

 その瞬間、ヘドロゾンビの群れは暴風にでも巻き込まれたように吹き飛ばされ、手足や頭が千切れてバラバラに四散していく。

 ソウジの持つ、オリハルコンのモップの力だ。

「え…。うそ、でしょ…」

 驚くツンデレラだが、頭の中で、ソウジが異常に強いという事実を受け入れられない。

 よって、ツンデレラの脳内はこうなった。

 ソウジは、しょぼくれダンジョン清掃員おじ→つまり肉体労働者ってことよね。→筋力だけはちょっとだけあるかも?→あ、脳筋パワーだわ!→そうよね、魔法じゃないからよく分かんないけど、きっとそうだわ! うん、そうに決まった!

「要するに、アタシの指導のおかげで、ポンコツおじさんも少しはマシになったって事ね!」

 魔力切れもどこへやら、立ち上がって高笑いするツンデレラを、ソウジは振り返り見て、微笑んだ。

 しかし、次の瞬間。

(あの、ヘトって奴、ツンデレラさまを危険な目に遭わせるとは…許せない)

 ソウジに怒りがこみ上げた。

「ああ、あと、ソウジおじさん、ヘドロゾンビがそこら中走り回って、この階ヘドロだらけだから、アンタ、片づけといてよね。当然、残業代は出ないから」

 ソウジの額に血管が浮かぶ。

(ヘト、生かしちゃおけねえ!)



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