掃き溜め

まるたろう

第1話 大丈夫

毎朝、誤魔化しきれない感情を抱きながら目覚める。

薄いカーテン越しの朝の光が、やけに目に刺さる。

朝は嫌いだ。

あぁ、今日も僕は死にたい。

体を起こして、洗面所へ向かう。

鏡の前に立つ。

今日も大嫌いな自分を見た。

自分が大嫌いだと言いながら、僕以上に僕を愛せる人を僕は知らない。


「大丈夫だよ。僕は、大丈夫」


鏡の僕に、言う。

にこぉ、と下手な笑顔を見せる僕。


「今日も、ちゃんと笑えるよ」


だから、大丈夫。

心が痛いときは、我慢して笑えば良い。

誰にも、見せずに。

この痛みは、外に出した瞬間に壊れてしまいそうで。

僕のことは僕がわかってさえいればいい。

大丈夫。

僕が欲しい言葉は僕が言う。

愛されたいなら、僕が愛せば良い。

誰も要らない。

ひとりで、誰も好きにならないままで。


ポケットの中で、硬い感触が指に触れる。

安心の形をした、不安の元。

触れるだけで安心する反面、心の奥がひやりと冷える。


ポケットから、カッターを出す。

刃を出す。

触れる。

冷たくて、痛い色。


「今日も、大丈夫」


自分に言い聞かせるそれは、祈りに似ている。


手首に刃を当てる。

ぎゅ、と力を込めるだけで鈍い痛みが走る。

痛い。


「大丈夫」


これは、呪いだ。

自分が自分から逃げないようにするための、呪い。

新しい傷を見て、また、苦しくなる。

呪いは、どんどん増える。

消えそうになるたびに、またつける。

絶対に、逃げることができないように。


今日もまた、僕は笑う。

正解の顔はわかっている、覚えている。

大丈夫だよ、と笑う。


だって、みんなが好きなのは笑ってる僕だから。

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