第十六章「根の回廊」

光が、世界樹を駆け巡った。


蓮が注ぎ込んだ魔力は、始原の水を触媒として増幅され、世界樹の根から幹へ、幹から枝へと広がっていく。


詰まっていた導管が、一斉に開通し始めた。


「成功……している……」


蓮は、世界樹と同化した意識の中で、その変化を感じ取っていた。


導管の中を、魔力が流れている。千年間滞っていた流れが、再び動き出した。それは、凍りついた川が溶けて流れ出すような、あるいは死んでいた心臓が再び鼓動を始めるような、生命の復活だった。


だが——


「足りない……」


蓮は感じた。


魔力の流れは始まったが、まだ弱い。世界樹全体を蘇らせるには、もっと多くの力が必要だ。


「もっと……もっと力を……」


蓮は、さらに生命力を注ぎ込もうとした。


だが、身体が言うことを聞かない。限界を超えている。これ以上は、命が危ない。


「蓮さん……!」


エリシアの声が、遠くから聞こえた。


「もう十分です! これ以上は、危険です!」


「まだ……まだ足りない……」


「蓮さん!」


エリシアが、蓮の手を握った。


その瞬間——


蓮の中に、新しい力が流れ込んできた。


「……これは」


「私の魔力です。蓮さんの力を、補います」


「エリシア……」


「一人で全部背負おうとしないでください。私たちは、仲間でしょう?」


エリシアの魔力が、蓮の魔力と混ざり合った。それは、二人の力を合わせた、より強い流れだった。


「ありがとう……」


蓮は、エリシアの手を握り返した。


二人の力が、世界樹に注ぎ込まれていく。


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一方、外の世界では——


「何だ……あの光は……!」


帝国軍の兵士たちが、空を見上げていた。


世界樹が、輝いていた。


灰色だった幹が、徐々に茶色に——生きた木の色に変わっていく。枯れていた枝から、新芽が顔を出し始めている。


「世界樹が……蘇っている……?」


兵士たちは、信じられないものを見る目で、その光景を見つめていた。


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「これは……」


カイン伯爵領でも、その変化は観測されていた。


カイン伯爵は、城の塔の上から、遠くに見える世界樹を見つめていた。


「聖者殿が……成功したのか……」


伯爵の目から、涙がこぼれた。


「エリシア……無事でいてくれ……」


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グレンの村でも——


「見て! 空が——」


リーネが、井戸端で叫んだ。


空に、オーロラのような光の帯が現れていた。それは、世界樹から放たれた魔力の波動が、大気中に可視化されたものだった。


「蓮さん……」


リーネは、空を見上げながら呟いた。


「約束、守ってくださいね……」


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根源の泉の洞窟では——


「もう少し……もう少しだ……」


蓮は、最後の力を振り絞っていた。


世界樹の導管は、ほぼすべて開通した。魔力の循環が、正常化しつつある。あと少し、あと少しで——


「——完了」


その瞬間、蓮の身体から力が抜けた。


「蓮さん!」


エリシアが、倒れ込む蓮を支えた。


「大丈夫ですか! 蓮さん!」


「……ああ。大丈夫だ……」


蓮は、かすれた声で答えた。


「終わった……水揚げの儀は、成功した……」


「本当ですか……?」


「ああ。世界樹の導管は、すべて開通した。魔力の循環が、正常に戻った。これで、枯死地帯は……徐々に回復していくはずだ……」


蓮は、弱々しく微笑んだ。


「やったぞ……俺たちは、世界を……救ったんだ……」


そして、意識を失った。


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