先手の誤り(短編)

@Hitoyohitoyonihitomigoro

先手の誤り(短編)

この国では丑の刻参りというものがある。それを行えば呪われたものは絶対に徐々に弱って死んでいくとされている。しかし実際は「死ぬような体験をする」や、「死にかける」なんて言う噂もある。世間ではこれをやった奴は人間じゃないと批判される。そしてこれは7日間行わねばならないとされる。

「あぁ、今すぐ始めよう。」

息子はどうなるのですか?!さっきから苦しそうで…

「お母さん落ち着いて、さっき診察した限りだと電池を誤飲したようです。流石に成功しますのでご安心を。」電池の誤飲は意外と致死率が低い。だが粘膜を溶かす速度だけはやけに早い。

そんな会話をし終えたあと看護師が訪ねてきた。

「そんな、この年になって誤飲なんてあるんですか?」

「でも症状はそうだ。さぁ、さっさと手術するぞ。」

「先生!患者の様子がおかしいです!」

「あぁ、わかってる。なぜこうなった!電池が全く見当たらないし、飲み込んだものも何もない!なんのかまったくわからない!」

ピー、ピー、・・・・・・ 救えなかった。

徐々に徐々に体が弱まっている感じがした。病気のような症状ではない。なぜだ。確かに心臓の音は少し独特ではあったが健康なはずだ。……怖い。この患者は21歳の子供で親はあの有名企業の社長とその夫である。警察に補導されたり、暴力をふるったり、そうとうな息子らしいが親も歳をとっているためもうすぐ後を継ぐだろう。母親は非常に厳しい人らしく、噂では暴力なんて当たり前らしい。もしこのことがバレたらこのことをいろんな人に噂したりネットにあげたりするだろうか。そんなことを抜きにしてこの事実を伝えることにはまず抵抗しかない。あんなこと言っておいて。後継の息子を救えないことをなんて言われるだろうか。どんなことをされるであろうか。損害賠償か?そこについてもよくわからないが恐怖しかない。救えなかった悲しみよりも何よりも。

「救えませんでした。本当に申し訳ない。」

汗を垂れ流しながら土下座し、そのまま気絶しそうだ。

……

母親は沈黙であった。

「そうですか。先生、最善を尽くしていただきありがとうございます。」

父親は目に涙を浮かべている。当たり前である。その日は眠れなかった。それは母親が全く言葉を発してなかったからだ。子を失った獅子ほど怖いものはない。本能的に獅子の目には何か手に負えぬ力が潜んでいるように思えた。「 一旦落ち着こう」そう思い立ち自販機のコーヒを買った。「ふぅ…全然落ち着けない。生きている心地がしない。」今日は早退した。

2日後、両親たちが来た。

「先生、先日はどうもありがとうございました。実は月曜日に息子の葬式を行うのですが、息子の主治医の先生にも、ぜひお別れに立ち会っていただければと思い、ご連絡しました。」

どうか、息子の為にも来てやれないでしょうか?

そうですか、5日後ですよね?亡くなられたことは本当に申し訳なく思っています。僭越ながらお邪魔させていただきます。 母親が喋っていた。3日も経てば気が落ち着いたのであろうか。しかし恐怖は変わらない。

5日後。念仏を唱えていると母親が息を涙を流し苦しそうに息をし始めた。そんな姿に父親が背中を撫でる。そのまま転げ落ち葬式会場に戦慄が走る。

「そ、そんな!先生妻の様子が!」

わかってます。

そういうと聴診器を取り出し、胸にあてて状況を確認した。 息子さんと同じ症状です。

「そ、そんな妻がいなくなったら、私はどうやって生きていけば!それに会社だって!」

とりあえず今すぐ救急車を呼びましょう。

そんな中、母親が言葉を発した。

息子ありがとうございました。ほんとにこれ以上ない程感謝しています。ありがとうございます。…息子は辛かったですね。私は息子を少し懲らしめるつもりだっただけなんです。

父親は泣きながら恐怖で母親の手を握っている。 病院についたのち、最善を尽くしたが母親はあの言葉を最後に亡くなってしまった。落ち着こう。そう思い立ちまた自販機のコーヒを買おうとした。あれ?買えない。今日はつくづくついてないなあ。

また父親が病院に来て葬式に招待した。しかし、私はこの誤りによる罪悪感の中どんな気持ちで母親の葬式にでればいいのか…。

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