夜の帳に穴を開ける

立方体恐怖症

夜の帳に穴を空ける

 夕日が沈んで行く。

 鳥たちは巣に戻り、眠りの時間が近づく。夜が来る。こんなとき、空が暗くなるのは夜の帳が落ちるからだ。

 私たちのうえにやわらかで軽くて黒い帳が落ちていく。ゆっくり東の空からかけられていき、空からの光と音は遮られて、眠れるように、やすらげるように、静かに閉じられる。

 けれど、しっかり帳を下ろしてしまうと暗くなりすぎる。静けさ、ではなく、沈黙である。だから、おやすみを言えるように、夜道を帰る生き物のために、帳に穴を開ける人たちがいるのだ。

 その人たちは、朝に寝て夜に目覚める。帳を下ろす人たちとはまた別で、夜が始まる時に自然に起きてきて、まち針を持ってはしごを登り、空へ向かう。

 そして、黒い帳にていねいに、割けてしまわないように細心の注意を払いながら、ひとつずつ穴を開けていく。東の空から少しずつはじめていき、太陽が見えなくなるころには穴を完全に空けて、少しのご飯を食べながら夜空を見上げる。

 たまに、穴を空けすぎて、太陽が沈みきっていないのに星が瞬くことがある。そういう時も、慌てない。ただ、その穴が光るのを見ているだけである。

 都会の夜空では、穴にほこりがつまってよく見えなくなる。そういう時も、彼らは残念に思わない。ただ、自分たちが空けた穴を探している。

 

 

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夜の帳に穴を開ける 立方体恐怖症 @LunaticHare

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