30分勇者

レギュラー

第1話 最初の30分


誰も俺が勇者だったと信じてくれない。


幼い頃からの親友に話しても


「夢じゃねえの?」


と一蹴されてしまった。


信用される為には証拠が必要だが、

今の俺に証拠となるものは何一つとして存在しない。


だが、それも数年経過して慣れてきた。

俺は俺の生活を守る。きっと、この日本で普通に寿命を迎えるだろう。


それは一つの幸せだし、

この世界へ戻ることが異世界での最終目標だったのは間違いない。


……怖いのは、あの「異世界の思い出」が消え去ることだ。


だから、俺は小説として残そうと思う。

仕事で文章を書くことはあるが、そんなに上手くはいかないだろう。

小説というよりは、日記のような形になるかも知れない。


それでも、文章として残しておかなければ

俺はあの思い出を少しずつ無くしてしまう気がする。


30分だけ、30分だけなら仕事をしながら書ける。


気が向いた時に、30分だけ書いていこう。


「たとえ誰も信じなくても、俺だけは忘れない。

30分だけ、俺は勇者に戻る」



◆ ◆ ◆



さあ、まずはどこから語ろうか。

時間は30分しかない。


そうだな、俺が異世界に転移した時の話から始めようか。


あれは、俺が高校生1年生の時。

……いや、ダメだ。そこから始めると長くなる。


早速、転移した直後の話から始めようと思う。


「ここは……どこ?」


そう、この時の俺はまだ夢だと思っていたんだよな。


「助けてぇぇぇ」


遠くから聞こえる女性の声。

それは明らかに助けを求めていた。


はは、今から思うと本当に異世界転移のテンプレだな。


「いや、怖いな……」


そうそう、俺はよくわからなくて

普通にその場から去ろうとしたんだ。


「待てよ相棒、お前もしかして逃げるつもりか?」

「な、誰だ!」


あの馬鹿からもらった剣が喋り出した。

ん?そうか「あの馬鹿」の話をまだしていなかったな。

とりあえず、その話はまた今度だ。


「お前さあ、異世界来て悲鳴が聞こえたらダッシュだよ、ダッシュ」


「何、あの馬鹿が言った通り、本当に異世界なん?

てか、なんで剣が喋ってんの?」


「いいから今すぐいけ!早く!!」


「……嫌なんですけど」


「はぁ……知らねえぞ」


「キャアアアアアア!!」


悲鳴が辺りにこだました。

その姿は見えないが、尋常ではないその声は

次第に小さく消えていく。


「俺は忠告したからな、勇者候補生『アキト』」


それだけ剣が告げると

目の前に鎌を持った骸骨頭が現れた。

それは想像の中にある「死神」そのもの。


……最初のアレは本当に怖かったな。


そいつは俺の首を両断した。

絶叫する暇もなく意識を失ったことを覚えている。


遠くから薄っすら聞こえる剣の声。


「……to be continued」


目が覚めると

(おっと、ここで30分、今日はここまでだ。思ったよりも書けないな)

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