愛する人のため

たまご

第1話

「誰かの私でありたかった」

この言葉が、私を一番説明できていると思う。いくら、自分のためにと言っても、結局は誰か人にすがらないといけない。寄りかかりたい。認めてほしい。そんな馬鹿げた、けど嘘偽りのない、思いをもっている。


今日は澄んだ青空が広がっていた。桜の木が今か今かと、春を待ち望んでいた。小鳥が一羽私の前を横切った。目で追って、そのまま空を見上げた。

そして、私の他にもう一人同じ景色を眺める者がいた。

「本当に、良かったんですか。」

細身で、前がちゃんと見えているのかも分からない長い前髪の男だった。私はその男の気配が感じられず、気味が悪いと思った。

「今さらですよ。良かったかなんて分からない。」

男の方を向いて答えた。相変わらず読めない人だと思った。笑っているのか、悲しんでいるのか…。それも今さらか。

「そうですね。でも私は少なからず、後悔はしてませんよ。」

その時、生あたたかい風が吹いた。花や草木が音を立てて揺れた。私の下ろしていた髪も、無造作に宙へ舞い上がった。

そしてー。風がだんだん弱くなった一瞬、長い前髪の間から、顔が見えた。穏やかに微笑んでいた。本当に気味が悪い。

「なら…いいですけど。」

「はい。」

男の声が弾んでいた。


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