花あかりに君は微笑む
有川夕
第1話
日常を飾る喧騒もうるさく光るネオンも忘れ、街はクリスマスの熱気に包まれていた。酔いつぶれた学生や倦怠感に慣れたサラリーマンで満席の薄汚れた居酒屋さえ、律儀にサンタの置物を飾っている。
そんな喧騒を背に、僕たちは幸福感に満ち溢れ、目的地のけやき坂まで恋人として最後の散歩をした。
「今年の冬は寒いんだってよー」と呑気な伸びやかな声が、冬の乾いた空気に湿った暖かさを与えた。
「そりゃ冬はいつだって寒いだろ」
他愛のない会話も、由奈の言葉を通すと途端に輝き、弾みを持った宝石になる。
ガラクタを宝石に変えるような2人の会話は目的地に到着するや、記憶の片隅に片付けられてしまった。
けやき坂は目も眩むほどのまばゆい色彩を放ち凛然と佇み、僕たちの来訪を知っていたかのように待ちわびた顔をしていた。
「わぁ、きれい、、」とマフラー越しに静かに漏れた透明な雫が、雪のような吐息に乗って白く儚げに輝き、街を彩る色彩へと変わった。
「うん、ほんときれいだ」
由奈の透き通った泉のような声、長くて優しい睫毛、ぎゅっと握りしめた掌の包まれるような温もり、すべてが街に調和し町が彼女を中心に生きているようだった。
そんな一瞬のきらめきさえ逃さぬように、僕は深く丁寧に息を吸いこみ、由奈と同じ世界を瞳に映した。
僕らの未完成な記録は、これからも同じ世界を均等な熱量で正確に記していく。終わりは二人で締めよう。同じ名前で。
そんな、どこか妄想に似た熱に浮かされた確信が、雫が滴るようにゆっくりと全身を満たしていく。
優しく淡い白球が左右の街路樹を着飾り、終着点には聖夜の夜を肩に掛けた東京タワーが鋭い橙色を纏い、今宵の指揮者のように燦然と僕たちを見下ろしていた。
「次は三人で来ようよ、そしたらさ、もっときれいだと思うんだ」
由奈の儚くも慈しむように言った言葉は、確信的な質量を持って、一語一語が切実な調べを奏で、吐息とともに冷たい空気に溶け込んでいく。
潤んで熱を帯びた瞳には、街を見守る東京タワーが僕たちの未来を占うように粛然と息をひそめていた。
花あかりに君は微笑む 有川夕 @3-4saikau
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。花あかりに君は微笑むの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます