風の記憶

ぼみアス

# 風の記憶

5月上旬、夜明け頃――


東の空が、夜の藍色から、淡い桃色へとグラデーションを描き始めていた。

凛とした冷たい空気が、肺の奥まで染み渡る。


「おはよ」


顔を出し始めた朝日に向かって、小さく呟く。

私の吐く息は、まだうっすらと白かった。


真新しいライディングジャケットに袖を通す。

まだ革が少し硬い。腕を動かすと、ギシ、と小さな音が鳴る。

けれど、その少し窮屈な感覚は、どこか懐かしかった。

かつて、第二の皮膚のように馴染んでいたツナギの感触を、身体の奥底が覚えているからかもしれない。


「タマキ、本当に一人で大丈夫なの?」


玄関先まで出てきたお母さんが、眉を下げて私を見ている。


「もう、心配しすぎだってば。ただのツーリングだよ?」


「そうは言っても……」


「行ってらっしゃい、タマキ。

 気をつけてな。土産話を楽しみにしてるぞ」


奥から出てきたお父さんが、ポンと私の肩を叩いた。


心配性のお母さんと、なんでも「やってみろ」と言うお父さん。

私がバイクの免許を取ると言った時のリアクションも、二人は正反対だった。

でも、その正反対さが、今の私にはちょうどいいバランスなのかもしれない。


近所迷惑にならないよう、暖気もそこそこにクラッチを繋ぐ。

相棒のドゥカティが、低く、重たい唸り声を上げた。


    ◇


市街地を抜け、最寄りのインターチェンジから高速へ。

本線への合流でアクセルを大きく開ける。

圏央道を南下する私の全身を、エンジンの心地よい鼓動感が包み込んでいた。


ドゥカティ・スクランブラー 1100 Sport Pro。

中古バイクショップで出会ったこの子は、一目惚れだった。

昔乗っていたような、カウルに包まれた「戦うためのマシン」じゃない。


丸いライトに、アップハンドル。これぞバイク、という普遍的なフォルム。

股下で唸る空冷Lツインエンジンは、アクセルを開けるたびに『ダカダカダカッ』と、生き物みたいな脈動を伝えてくる。

このエンジンのおおらかなレスポンスがすごく気に入っている。

それでいて、回せば応えてくれる素直さも、なんだか愛おしい。


「ちょっと寒いかも!」


ヘルメットの中で身震いが走る。

時速100キロでぶつかってくる風は、肌を刺すように容赦なく私の体温を奪っていく。


「もうちょっと風よけが欲しい~~!」


カウルのありがたみを、今更ながら身に沁みて実感する。

でも、この風を全身で受け止める不自由さも、今の私には嫌いじゃなかった。



圏央道を終点で降り、給油を済ませる。

西湘バイパスへ入ると、左手に広がる視界が、青一色に染まった。


朝陽を反射してキラキラと輝く太平洋が、どこまでも続いている。

海なし県民のDNAが、脊髄反射でテンションを跳ね上げる。


「海だーっ!」


インカムも繋いでいないヘルメットの中なら、大声を出しても誰に聞かれることもない。



午前7時。西湘パーキングエリアに滑り込む。

ゴールデンウィーク明けの平日ということもあり、バイクの姿はまばらだ。


ヘルメットを脱ぐと、潮の香りが鼻腔をくすぐった。


快晴。雲ひとつない青空。

大学の講義をサボって来た罪悪感なんて、この陽射しが一瞬で蒸発させてしまった。


「来てよかった……」


さっきまでの寒さが嘘のように、春の陽気がジャケットを温めていく。


インナーを脱いで革のサイドバッグに押し込み、グローブもゴワゴワした冬用から、操作しやすい春用のレザーグローブに付け替えた。


    ◇


「うっひょ~~~! さっぶーーーッ!!」


十数分後。

私は再びヘルメットの中で絶叫していた。


箱根新道を登り始めた途端、気温計の数字が見る見る下がっていく。

標高が上がるにつれ、風景から緑色が減り、空気が鋭さを増す。


「海沿いはあんなに暖かかったのに、なにこの気温差! ウケるんだけど!」


笑いながらも、指先がかじかんでくる。

慌ててグリップヒーターのスイッチをオンにする。

電熱線が温まるまでの数分間が、永遠のように長く感じられた。


「人間は軟弱なのに、ドカちゃんは元気だねぇ~」


震える私とは裏腹に、スクランブラーの空冷エンジンは、冷たい空気を腹いっぱい吸い込んで、ますます元気に唸りを上げている。



芦ノ湖の脇を抜け、国道1号線を下っていく。


視界が開けた瞬間、眼下に広がる駿河湾と、その向こうに鎮座する富士山が目に飛び込んできた。


雪化粧が残る富士山が、朝の光を浴びて神々しく輝いている。


「わぁ!」


思わずアクセルを緩めた、その時だった。

対向車線から、低いエキゾーストノートが近づいてくる。


すれ違った赤い、スポーツカー。

後方へと消え去ったその車を、私は無意識にミラー越しに目で追っていた。


「……バカみたいに赤色が好きだったアイツ、元気にやってるかな」


胸の奥が、チクリとする。

赤色が好きで、太陽みたいに熱くて、無鉄砲だったかつてのチームメイト。


元気にしてるに決まってるか。あの子が立ち止まってる姿なんて、想像もできないし。

私は小さく頭を振って、視線を進行方向に戻した。


    ◇


伊豆縦貫道を南下し、函南の道の駅で一度休憩。

コンビニの肉まんを頬張り、ハフハフと口の中の熱を逃がしながら、熱いコーヒーで冷えた体を内側から温める。


「ん~~っ! なかなか遠かった!」


大きく伸びをして、強張った身体をほぐす。


「さて、ここからがやっとツーリング本番だよ~」


スクランブラーの黒いタンクをポンと叩いて、ひとりテンションを上げる。

装備をどうするか迷ったけれど、ここからは峠道。

動きやすさを優先して、インナーは着ずにこのまま行くことに決めた。



県道18号、だるま山高原キャンプ場の脇を抜ける軽快な道。

木漏れ日のトンネルをくぐり抜け、左に曲がると、視界の先に一本の道が空へと伸びていた。


西伊豆スカイライン。

今日の、ひとつ目の目的地。


尾根沿いを走るこの道は、まるで空の上を走っているような浮遊感がある。


少しずつ、タイヤのサイドに熱を入れていく。

コーナーのアプローチ。ブレーキを軽く引きずり、フロントフォークを沈める。

視線を出口へ向けると、スクランブラーは素直にバンクしていく。


「うん、やっぱりこのタイヤ、ブロックパターンのわりにグリップいいよね」


昔乗っていた、カミソリみたいに鋭いレーサーに比べれば、このバイクは重たくて、鈍重だ。

でも、この「重さ」が今は心地いい。地面をしっかり踏みしめている安心感がある。


コーナーの出口でアクセルを開ける。

エンジンが唸りを上げ、回転計の針が跳ね上がる。

そして5000回転を超えた瞬間――

『ドゥルルルルッ!!』

穏やかだった鼓動が、弾けるような咆哮に変わる。


ビッグツインならではの、蹴り飛ばされるようなトルク。リアタイヤがアスファルトをググッと鷲掴みにしたかと思うと、猛烈な加速が私の体を後ろへと置き去りにしようとする。

気持ちいい。

空冷とは思えないほどスムーズに、それでいて荒々しく。


「こんないいエンジン、生産終了にしちゃうなんてもったいないねぇ~

 ……って、と、と、と――」


調子に乗って開けすぎた。リアタイヤがズルリと外へ流れる。

瞬間、思考よりも先に体が動いた。


左手がハンドルを修正し、右足がステップを踏み込む。

自然なカウンター。

車体は一瞬で収束し、路面に一本の黒い筋を残して、何事もなかったかのように直進状態に戻った。


心臓が、早鐘を打っている。

怖かったわけじゃない。あまりにも、体が勝手に動きすぎたことに驚いたのだ。


「やっぱりこのバイクとタイヤは、”そこそこ” で走るのがよさそうだね~」


おどけて独り言ちてみるけれど、左の鎖骨がズキリと痛んだ気がした。

もう完治したはずの、古傷。



昔の、バイクレースの記憶。


あの日、私はハイサイドで空を飛んだ。私のミスだった。

後ろを走っていた後続車を巻き込んで、私のレース人生はあっけなく終わった。


幸い、巻き込まれた相手は大した怪我もなく、私自身も鎖骨骨折だけで済んだ。

けれど、家に帰った私を待っていたのは、安堵よりも重苦しい空気だった。


元々レースに反対していたお母さんは、「だから言ったじゃない」と、怪我をした私を涙ながらに責め立てた。

そんなお母さんと、私をかばおうとするお父さんとの間でも、言い争いが絶えなくなった。


怪我が治っても、一度狂った歯車は噛み合わなかった。

走りのリズムを取り戻せない焦り、罪悪感、家庭の不和。

いろんなものがグチャグチャになって、私は逃げるようにサーキットを去った。


今でも、心残りがひとつだけある。たった一人の ”親友” だった、あの子。

私の転倒に巻き込まれた彼女は、今でも走っているんだろうか。

半ば八つ当たりのように、一方的に連絡を絶ってしまった。

今更、合わせる顔なんてない。



「って、楽しいツーリング中に、過ぎちゃったこと考えても仕方ないよね~」


私は大きく首を振って、ネガティブな思考をヘルメットの外へ追い出した。


「ね! ドカちゃん。さぁ、行くぞー!」


目の前には、満天の青空と、鮮やかな緑の稜線。

スクランブラーは私の言葉に応えるように、太いトルクで力強く加速した。


    ◇


牧場で食べたソフトクリームの甘さを反芻しながら、県道410号線で西伊豆の海沿いへ出て、更に南下する。


時刻は10時過ぎ。左手には断崖、右手には木々の合間から、時折海が見え隠れする。


下り坂の途中、眼下に不思議な光景が見えた。

堂ヶ島のトンボロ。

普段は海によって隔てられている島へ、干潮の時だけ道が現れて歩いて渡れるという。


「あ、道できてる! すごーい!」


写真を撮ろうか。停まろうか。

迷っている間に、絶景ポイントを通り過ぎてしまう。


「あーあ…… 一回走り出すと止まれないんだよなぁ~、昔っから」


私は苦笑いをして、一度大きく深呼吸をした。

潮風を肺いっぱいに吸い込み、気持ちをリセットしてアクセルを開け直す。


カウルのない車体は風をもろに受けるけれど、楽なポジションとおおらかな乗り味のおかげで、疲労は驚くほど少ない。


「いいバイク買ったなぁ~♪」


鼻歌交じりに、私は伊豆半島を南へと流していった。


    ◇


県道15号を東へ入り、半島を横断して河津町へ抜ける。


「お昼は奮発しちゃおっと!」


お腹の虫が限界を訴え始めていた。


目指すは、うなぎの名店『大河屋』。

背開きだけど、蒸さずに焼く、めずらしい関西風のかば焼き。

昔、家族旅行で来た時に食べた味が忘れられなくて、今日のルートに組み込んでいたのだ。


お店から少し離れた駐車場にバイクを停め、歩いてお店に向かう。

角を曲がった瞬間、香ばしく甘辛いタレと脂の焦げる匂いが、暴力的なまでの質量を持って鼻腔を襲撃してきた。


「くぅぅ……っ!」


よだれが出そうになるのを必死にこらえ、のれんをくぐる。


「いらっしゃいませー」


「うな重の並、ひとつお願いします!」


席に着くなり注文を済ませ、私は精神統一に入った。


煙の匂いを浴びながら待つ時間は、もはや拷問に近い。


待つ。ひたすら待つ……


永遠にも思える時間の果てに、女将さんがお盆を持って近づいてくる。


「おまちどうさま~」


ついに目の前に置かれた重箱。

私は震える手で、慎重に蓋を開けた。


「フォォォォォッ……!!!」


黄金色の後光が見えた気がした。

タレを纏って黒く輝く、おウナギ様の御姿。

炭火で焼かれた皮目のパリッとした質感と、ふっくらとした身のコントラストが、見ただけで伝わってくる。


今すぐ食らいつきたい。本能が箸を掴めと叫んでいる。


しかし、現代を生きるJDとして、それを許すわけにはいかない。


「待て、私。まずは儀式だ」


震える手でスマホを取り出し、角度を変え、光を変え、自撮りを添えて。

――SNSへのアップロード。これはもはや義務である。


儀式を終え、ようやく箸を伸ばす。

箸先が、抵抗なく身を解していく。

ご飯と一緒に、そっと口へ運ぶ。


……パリッ。ジュワッ。フワァ……


口の中に広がる、濃厚な脂の甘みと、キリッとしたタレの香ばしさ。



――――以降の記憶はない。



気がついた時には、私の目の前にはタレの染みた空っぽのお重だけが残されていた……


もう一つ食べたいという悪魔の誘惑と、お財布の中身という現実の葛藤。


「ごちそうさまでした! すっっっごく美味しかったです!!」


ギリギリで理性が勝利し、私は店を後にした。


    ◇


満腹のお腹を抱えて、国道414号線を北上する。

背中に受けるお昼の陽射しが暖かくて、少し眠気が襲ってきた……

と、思ったその時、眼前に巨大な建造物が現れた。


河津七滝ループ橋。

高低差45メートル。ぐるぐる回る720度の二重らせん。


進路上はクリア。

私は眠気を吹き飛ばすようにスロットルをひねった。


直前でフロントブレーキを舐めるように掛け、前荷重を作る。

フロントフォークが沈み込むのを感じて、ブレーキのリリースに合わせてパタッと車体を寝かせ込む。


ず~っと続く左旋回。


橋の継ぎ目を越えるたび、タイヤがタタンッ、とアスファルトを叩く感触がハンドルに伝わってくる。


「目が回る~~」


こんなに長い時間、ずっとバンクし続けるなんて、サーキットでもなかなかない体験だ。



その後は、のんびりと北上。天城トンネルを越え、わさび田を抜けていく。

途中、路面が荒れた狭い道もあったけれど、スクランブラーの懐の深さがすべてをいなしてくれた。


そして、冷川インターへ。

今日の第二の目的地、伊豆スカイライン。


料金所を抜けると、そこは別世界だった。

きれいに舗装された路面。見通しの良い大きなコーナー。

平日のおかげで、前にも後ろにも車はいない。


スロットルを握る右手に、自然と力がこもる。

のんびりツーリングのつもりだったのに、体が勝手に「戦闘モード」へと切り替わっていく。


上体を低く伏せる。


コーナーが迫る。

お尻をシートのイン側へずらし、タンクに当てた外足と、くるぶしでしっかりと身体を支える。


ブレーキング――

フロントタイヤが路面に押し付けられ、接地面が広がるイメージ。


視線は出口へ。

ステップが、路面を擦りそうな気配を感じる。


世界が斜めに流れていく。


クリッピングポイント通過。

今だ、開けろ――!


ヘルメットを叩く風切り音が、耳元を過ぎ去っていく。

大きくて、でも静かな轟音――

ジャケットがバタつく音さえ、BGMのように心地いい。


目を見開き、呼吸が弾む――


タイヤのグリップ。エンジンの回転上昇。サスペンションの伸縮。

路面のわずかなギャップや、アスファルトの粒子のひとつひとつまでが、スローモーションのように鮮明に見える。


深い集中。

思考が風に吹き飛ばされ、ただ「走る」ことだけに没頭する、無の境地。


ああ、やっぱり私は…… 走るのが、好きだ。


もっと深く。もっと速く。

思考よりも先に、身体の奥底に眠る回路が繋がった。


私は気づけば、かつてのレーシングラインをトレースしていた。

アップハンドルを握ったまま、無意識に腰を深く落とす。


アスファルトが迫る。 そして――


『ザッ!』


膝の外側に、硬い衝撃が走った。


瞬間、我に返る。


「あああああぁぁぁ~~~~っっ!!!!」


ヘルメットの中で絶叫した。

今の私は、レーシングスーツじゃない!

ニースライダーのない、ただのライディングパンツだ!


慌ててバイクを立て直し、恐る恐る膝をチラリと見る。

プロテクターのおかげで怪我はない。


けれど、奮発して買ったばかりの黒い革パンツの膝部分には、アスファルトで削られた無残な傷跡がしっかりと刻まれていた。


「買ったばっかなのにぃ~! あ~、もーーっ!

 バカバカバカバカバカ―――ッ!!!」


調子に乗りすぎた。

でも、その傷跡を見ていると、なんだか笑いがこみ上げてきた。


「……懲りてないなぁ、私も」


    ◇


亀石峠の料金所を過ぎ、頭を冷やすためにパーキングに入る。


「しっかし、箱根と伊豆の道路って、なんでこんなにこまごまお金を取るんだろう。

 せめてETC使わせてくれれば、ちょっとは楽なのに……」


パンツをキズモノにした恨みを道路への八つ当たりで発散しつつ、トイレに向かう。


ふと、外壁に貼ってある一枚のポスターが目に入った。


『TDR -Touge Dual Raid- 開催決定!』


「てぃーでぃーあーる?

 ふーん、この夏、ここでレースイベントがあるんだ」


公道封鎖。バディレース。

ポスターには、峠を走るスポーツカーの写真が載っている。


「物好きな人もいるもんだねぇ」


他人事のように呟く。


「バイクのクラスがもしあったら、予選くらいエントリーしてみてもよかったかな」


自分のスクランブラーを見やる。


「あ~でも、ドカちゃんじゃあ、伊豆スカイラインみたいな高速コースだと、ちょっとパワーが物足りないかなぁ~」


……なんてね。

またお母さんになんて言われるか。


私はポスターに背を向け、ヘルメットを被り直した。


    ◇


伊豆スカイラインを北上する。

今度は、エンジンの鼓動を感じながら、のんびりと。


パンツの膝に開いた傷跡から、少しだけ風が入り込んでくる。

その冷たさが、またアクセルを開けそうになる私の右手を、優しく諫めてくれている気がした。


西丹那駐車場にバイクを停める。

眼下には駿河湾。そして正面には、雄大な富士山。


愛車と富士山をバックに自撮りをして、SNSにアップする。


『傷心ツーリングなう。買ったばっかのパンツ、逝きました(泣)』

そんなコメントを添えて。


スマホをしまい、ぼんやりと富士山を眺める。


朝、家を出た時のような寒さは、もうない。


ずっと胸の奥でモヤモヤしていたものが、風に洗われて、スッと晴れていくような感覚。


初めての、長距離ソロツーリング。

ほとんど走ってばかりだったし、誰とも喋らなかったけれど、こんなにも自分自身と対話ができるとは思わなかった。


過去は変えられない。

古傷は、たまに痛むかもしれない。


でも、私はまだ、こうして走ることができる。

風を感じることができる。


「よしっ!」


大きく声を出し、私はグローブをはめた。


この先の料金所を越えて、少し走れば半島を一周したことになる。

時刻はまだ15時前。


「渋滞する前にか~えろっと!!」


セルを回す。Lツインが軽やかに目覚める。


走り出した私の背中を、南からの暖かな風が押してくれた。


……また来よう。

今度は、もう少し膝を擦っても大丈夫なズボンを履いて。


シールドの向こう、流れていく景色を見つめながら、私は予感していた。


なんだか、この場所で、もっと面白いことが起きそうな気がするから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

風の記憶 ぼみアス @Bomi-Asu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画