先輩は今日も告白されてるのに、私のことは知らない|百合恋愛
岡山みこと
先輩は今日も告白されてるのに、私のことは知らない|百合恋愛
校舎裏の今は使われていない焼却炉。
赤錆に覆われた前時代の遺物。
その前で行われる前時代的な放課後の儀式。
思いを告げる男子学生と、その恋に頭を下げる女子学生。
ぎこちない会話を少しだけ残し、被害者でありながら加害者でもある少女が残された。
「先輩はいつも大変だな」
二階から見下ろす一人の少女。
おかっぱの黒髪をうなじで無理やり結んでおり、あどけなさが強く残っている。
二年生というとだいたい中学生?と聞かれるが、れっきとした十六歳で数年前なら結婚すらできる年齢だ。
ひとり佇む先輩と言われた少女は、髪の長さこそ同じであるがずっと大人びていた。
少し長めの前髪に隠れた瞳は僅かに垂れ、唇は薄目だ。
特別スタイルが良いわけではない、誰にでも好かれる性格でもない。
どちらかといえば庇護欲をかき立てられる、そういった容貌をしていた。
「でも勇気を出して告白するなんてすごいや」
他人事(ひとごと)ではない一人ごと。
窓枠に肘をつき、ガラスに頬をくっつける。
少女――初(はじめ)もずっと先輩に思いを寄せていた。
部活の先輩と後輩という一緒にいられる関係に甘えて、随分と時が経ってしまった。
先輩が部活を卒業するまで残り数ヶ月。
それまでに私もと決意を何十回もしているのだが、今の甘えられる場所が心地良い。
「もう少しこう、見た目が」
先輩と初が一緒にいると、常に姉妹と間違われる。
隣に立つにはアンバランス、それが童顔少女の自己評価であった。
一応気にしてはいて、夜な夜なミルクを飲んでいるのだが、まだ成果は見られない。
「初!また覗いてる」
少しだけ怒った声が下から聞こえ、思わず手を振った。
「あまりいい趣味じゃないよ―」
「ごめんなさいー」
窓を開けて返事をした。
「初は部活の後に時間ある?」
「ありますよー。マックでも行きます?」
「ちょっと相談があって。私の部屋でもいい?」
おっけーでーすと初が答えると先輩は、部活に遅れないようにとだけ注意して消えた。
残された少女が、先輩の部屋で二人っきりかと呟く。
「優越感が心地良ですな」
口に出したあと、性格が悪いと反省した。
結果はどうあれ、思いを口にした男子生徒は私より立派なんだからと。
-------------------------------------------------------------
久しぶりに来た先輩の部屋に初は緊張していた。
モノトーンで抑えられた色調と、淡いミントの香り。
今朝は寝坊したのか、ベッドには寝間着が散乱している。
前に来たのはバレンタインで、本命チョコを友チョコと偽って渡した日だ。
交換し合ったチョコを仲良く食べた記憶。
「あまり見ないでほしいんだけど」
温かい紅茶を小さいテーブルに置く先輩。
向かい合って床に座る二人。
初の緊張をほぐすよう、先輩は他愛もない話を続ける。
なんてことはない時間だけどそれは凄く楽しい。
でも初には、“相談”に触れることを先輩自身が避けているかのように見えた。
もうすぐ帰らないと門限に間に合わなくなるころ、問いただした。
「先輩?言ってた相談って?」
その一言にたじろぎ、口を閉じる。
伏し目がちでどこか苦しそうな面持ち。
初めてみる先輩の表情に後輩が思わず固まる。
「初はさ、私が告白される時たまに見てるよね」
「あー、それは本当にごめんなさい」
「怒ってるわけじゃなくて、でもあまり良くはないけど」
煮えきれない先輩にいくつも疑問符を浮かべてしまう。
彼女はおっとりとした見た目ではあるが、部長をするくらいにはハッキリとして意思の強い少女なのだ。
すでに空になったカップに口をつけてしまった先輩は誤魔化すように笑い、続けた。
「初は降りてきてくれないの?」
「参観日みたいに後ろで見守れと」
先輩が少し呆れ顔で首を横に振った。
後輩はどちらかというと鈍感だったことを思い出したのだ。
「これから言うことは私の思い上がりかもしれない」
瞳にかかる少し長い髪を払ったその表情は、いつもより決意に満ちていた。
「とても恥ずかしい勘違いかもしれない」
守りたい、そう例えられる少女の表情は今だけは強さを感じる。
「初は私に好意をもってくれてないの?」
熱を持つ視線を向けられることが多い少女。
先輩――恋(レン)が視線をずらしながら、それでも懸命に初を見ていた。
「や、やだなあ先輩」
誤魔化そうとカップを傾け、残りを飲み干しながら表情を隠す。
「私は好きだよ!……初のこと」
堰を切った先輩の恋心。
後輩からの思いをずっと感じていた。
しかしいつも誤魔化す雰囲気をまとった初に、勘違いなのかと悩んだことも多かった。
自分の気持の整理が出来ず、先輩と後輩という安全な関係で足踏みをしていた。
諦めかけていたが、好きと言ってくれる人たちの真っ直ぐな瞳を羨ましいと感じてしまっていた。
勘違いでもいい、恥ずかしくてもいい。
私も伝えなきゃダメなんだ、そう思ってしまったんだ。
同時に、自分の心に向き合えていない私が人の思いを拒否することはとても不誠実。
責任感が強くて真面目な恋はそう反省もしていた。
だからこそ進むことを恐れながら、それでも一歩、前へ進んだ。
「違うならそう言ってほしい、謝る。でもごまかさず教えて」
身を乗り出した恋。
「……近いですよ先輩」
「これだけ近かったら声を聞き逃さないから」
初は思い出した。
自分がどうしてこの人を、恋先輩を好きになったのかを。
なによりも他者を大切にし、だれよりも痛みに寄り添ってくれる。
失敗してひとり落ち込んだ時、触れず語らず、ただ横にいてくれた人なんだ。
優しいだけじゃない、自分で立ち上がる時間をくれる人
どこまでも澄んだ、冬空の心。
そんな先輩が大好きだと、思い出した。
「ごめんなさい!」
初が謝り、恋の鼻にキスをした。
瞬きの間にも満たない、それでも確かなふれあい。
お互いの視界がお互いで埋め尽くされる。
本当なら目を瞑るべきなのかもしれないが、二人とも好きな人を見続けたかった。
初の顔は融け落ちそうなほど赤く、恋も一足遅れて同じ色に染まる。
「……恥ずかしすぎるのでこれで返答になりませんか?」
不意打ちとわずかに残る体温に、恋が思わず吹き出した。
こんな可愛い女の子はどこを探してもいないと。
「先輩といえ笑うのは失礼ですよ!」
「ごめんなさい。積極的なのね」
恋が初を好きになったあの日を思い出した。
自分の失敗を言い訳せず、ただ頭を下げていたあの日。
それでも一人になると悔しくて蹲っていた。
いつも一生懸命だからこそ早く前を向いてほしい。
そう思ってつい寄り添った。
その時見せた嬉しそうな表情、心を奪われた。
「初はほんと変わらないわ」
滲む涙を指先ではらう。
「泣かされちゃった」
嬉しくて。
恋はその一言だけは胸にしまった。
いつか貴方が泣いた時に教えてあげる、先に泣かされるなんて悔しいもの。
薄く笑みを浮かべた恋が、遠くない未来にくるであろうその時を楽しみにした。
「もー!いつまで笑ってるんです?」
「んー?初にはずっと笑顔を見せるつもりよ。飽きないでね?」
初と恋の噛み合っていなかった心が、小さな音を立てて回り始めた。
先輩は今日も告白されてるのに、私のことは知らない|百合恋愛 岡山みこと @okayamamikoto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます