第5章 再会
決断は、思っていたよりも早く終わった。
考える時間はいくらでもある、と自分で言ったくせに、駅のホームで電車を待っているあいだに、もう足は動いていた。理由を考える前に、体が向かっていた。
受付で名前を告げると、さっきと同じ職員が出てきた。説明は簡潔で、余白がない。復元は段階的に行われること、最初の対面は短時間であること。
案内された部屋は白かった。椅子が二つ、向かい合って置かれている。机はない。距離を測るための配置に見えた。
「準備ができたら呼びます」
一人で待つ時間があった。
時計の針は先へ先へと進んでいくが、時間がどれだけ進んでいるのかを理解することもできない。
ドアが開く音がして、反射的に立ち上がりかけて、やめた。
彼女が入ってきた。
最初に思ったのは、思っていたより普通だ、ということだった。
顔も、髪も、歩き方も、記憶の中と変わらない。
「久しぶり、で良いのかな?」
その一言で、胸の奥が少しだけ緩んだ。
「……だね」
それ以上の言葉は出なかった。彼女は気にした様子もなく、向かいの椅子に座る。
「ここ、なんだか静か」
「そうだね」
「それしか言わないじゃん」
「そうかも」
会話は、無難なところから始まった。天気の話、建物の話。彼女は、自分が事故に遭ったことを事実として理解しているようだったが、そこから先には踏み込まない。
「私、死んだんだよね?」
「そうみたい」
「なんか変な感じ」
変、という言葉に、違和感はなかった。
しばらくして、彼女が言った。
「ねえ」
「ん?」
「私、変じゃない?」
「変って?」
「前と、同じ?」
探るような視線ではなかった。ただ、確かめるみたいな言い方だった。
「同じ……だと思う」
少し間を置いて答える。
「そっか」
それだけだった。安心した様子も、不安そうな様子もない。ただ、受け取った、という顔。
時間です、と声がかかる。
「もう?」
「短いな」
「仕方ない」
立ち上がって、ドアの方へ向かう。
「また、会えるよね」
「ああ」
彼女は小さく手を振って、出ていった。
部屋に一人残されて、僕は椅子に座り直した。
同じだった。
少なくとも、そう見えた。
なのに、胸の奥に、説明のつかない引っかかりが残っていた。
再会は、確かにあった。
けれどそれは、
続きではなかった。
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