知人の声
Cell
知人の声
・吐く息が白くなる季節
・知人に呼び出されたあなたは公園にいた
・時間は午前0時
・風呂にも入り、寝る準備が整った瞬間の呼び出しだった
・あなたは電話に出たことを後悔している
・その電話は急ぎ伝えないといけない用事だったのかもしれない
・あなたは悩んだ末、電話に出た
・今、田中んちの近くにいるはずなんだけど、これから家に行ってもいい?
・知人はそう告げる
・以前、この知人に自宅の大まかな住所を伝えたことがあったが、まさかこんな時間に来るとは思わなかった
・あなたは電話に出たことを後悔した
・知人は続ける
・多分この辺りだと思うんだけどな。なんか目印になるものない?
・あなたは時間も遅いから今日は帰ってほしいと伝える
・ここまで来たんだから少しぐらいいいだろ?田中に相談したいことがあるんだよ
・知人は諦めない
・あなたは仕方なく近くにある公園を指定した
・大して珍しくもない公園だが、住宅街に目印になるものなんてない
・今からその公園に行くから迎えに来てくれ
・そう言い知人は電話を切った
・時計に目をやると23時30分を過ぎたところだった
・あなたは厚手のコートを羽織ると、寒風吹く中、公園へ向かった
・夜中の公園、気分のいいものではない
・無人のブランコが風に押され、揺れている
・日中は近所の子どものたまり場になっている、今にもその声が聞こえてきそうだ
・あなたは声なんて聞こえてこないでと心の底から願った
・時間は午前0時を既に回っている
・知人は一向に来ない
・知人に連絡するも全く繋がらない
・そういえば知人はこういう奴だったと改めて認識する
・あなたは呆れかえり、帰宅することにした
・すると少し離れたところから、あなたを呼ぶ声がする
・おーい、田中ー
・その声は知人の声だった
・あなたは声のする方を見ると、遠くの方に人影が見える
・あなたは人影に向かい歩き出した
・あなたを呼ぶ声は今も聞こえる
・あなたは人影に向かい歩き続けるも、一向に距離が縮まらない
・しかも人影がいる方向は、あなたの住むマンションと同じ方角だった
・帰路をなぞるように逃げる人影をあなたは追い続ける
・マンションの場所を知っている知人が、自分をからかっているのだとあなたは気付く
・その証拠にあなたを呼ぶ声は少し笑っている
・あなたは駆け足で人影を追いかけると、案の定、人影はマンションの中に入っていた
・あなたは急ぎ後を追う
・自室のある4階まできたあなただったが、追っていた影が忽然と姿を消した
・あなたは自分の目を疑った
・そして疑問が浮かぶ
・どうやってオートロックを解除したんだ
・急な恐怖に襲われたあなたは、自室に飛び込み、鍵をかけた
・暖房をつけたままの部屋は暖かかった
・部屋の暖かさだけが救いだった
・あなたはコートを脱ぐのも忘れ、部屋の隅で玄関を睨んでいる
・するとコートのポケットに入れていたスマホが鳴った
・知人からだった
・あなたは震える手で電話に出た
・おーい、田中ー。おーい、田中ー。おーい、田中ー。
・電話の向こうで知人が繰り返し叫んでいる
・あなたはヒッと言葉にならない声を出し、電話を切った
・そして助けを求め、友人に連絡した
・コール音はするも出てくれない
・あなたは電話を切り、部屋の隅で縮こまった
・あなたを呼ぶ知人の声が耳から離れない
・どこかで今もあなたを呼ぶ声が聞こえている気がしてならない
・気を紛らわせるため、テレビの電源を入れようと立ち上がった
・一瞬、視線の端に何かが映った気がした
・あなたは反射的に視線をその方向に向けると、そこにはカーテンがあった
・恐怖のあまり、カーテンすら不気味なものに見えていた
・カーテンは少し空いている
・あなたはカーテンに手をかけ閉じようと窓に目を向けると、窓の外に知人がいた
・おーい、田中ー。おーい、田中ー。おーい、田中ー。
・知人が外で叫んでいる
・その声は無機質で感情を読み取ることができない
・心臓が締め付けられるほど驚いた
・カーテンを力任せに閉じ、窓から離れた
・心臓がありえないほど大きな音を立て鼓動している
・数分経っただろうか、叫び声が聞こえなくなっていた
・それでもカーテンを開ける勇気はなかった
・呼吸を整える
・あなたは迷っている
・ここで朝を待つか、それとも部屋を出て人通りの多い場所で朝を待つか
・悩んでいるとドアホンが鳴る
・おそらく一階のエントランスから誰かが呼び出しているのだろう
・あなたは恐る恐るドアホンを確認すると、そこには知人の姿があった
・しかし先ほどまで叫んでいた知人と様子が違う
・その姿に不気味さはなく、少しイライラしているようだった
・あなたは悩んだ末、ドアホンに出た
・公園で待っててって言ったよな?
・開口一番、知人は怒った口調であなたに言う
・あなたは少し安心した、それはあなたの知る知人の姿だった
・あなたは30分近く、公園で待っていたことを告げた
・道に迷ってたんだよ。お前に電話しても出ねーし。
・あなたは自分も知人に電話していたことを告げる
・お互い掛け合ってたから繋がらなかったんか?
・そう言い、知人は笑っている
・その姿を見たあなたもようやく安心する
・今まであった不気味な体験を知人に伝えるべく、あなたはオートロックを解除しようとした
・ちょっと待って、本当に電話がつながるか確認していい?
・そういった知人はエントランスから電話をかけ始めた
・その姿はドアホンにも映っている
・あなたのスマホに着信がある
・それは今、エントランスから電話している知人からだった
・あなたは電話に出た
・おーい、田中ー。おーい、田中ー。おーい、田中ー。
・電話からあの無機質な声が繰り返し発せられている
・あなたは驚き、スマホを耳から離した
・おーい、田中ー。おーい、田中ー。おーい、田中ー。
・ベランダの知人の姿が脳裏によぎる
・手が震え電話を切ることができない
・怖い、立っているのもやっとだ
・変だ、スマホ以外からも声が聞こえる
・ドアホンを見ると無表情のままこっちを見つめ、何かを言う知人の姿が映っていた
・おーい、田中ー。おーい、田中ー。おーい、田中ー。
・電話、そしてドアホンからもあの声が聞こえる
・おーい、田中ー。おーい、田中ー。おーい、田中ー。
・何度も繰り返す壊れたレコーダーのようにその声は流れ続ける
・あなたはその場で気を失った
・この出来事を警察に届けた時に、聞いた話がある
・知人は今年の春から行方不明らしい
知人の声 Cell @cell_0830
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます