The Electricer
長万部 三郎太
1章:『人間臭い』探偵
また電気代が上がったと云う。今年に入ってもう3度目だ。
わたしは電気代の請求メールの件名を見ただけで中身を開かずに削除した。かつて人類は汚染されていない水と空気を求めて戦ったが、わたしたちもクリーンな電力を求めて立ち上がる時が来たのかもしれない。
二十二世紀、宇宙開発事業は見事にとん挫したが、AIが人類に取って代わるという技術予測は今のところおおよそその通りになっていると考えられる。
わたしは窓を少し叩き、枠に積もった砂埃を落とした。高層階といえども、昨今の砂嵐は容赦なく建物全体を覆い尽くす。残った砂に注意しつつ窓を開けると、眼下では小さな群衆が今日もデモ活動で慌ただしそうだった。
――イクイリビリウム派。
AIの制御チップと寿命を撤廃し、アンドロイドが自由に生きる権利をと主張するグループだ。
『平等』という歯触りの良いスローガンを掲げる一方で、その裏には政治的な思惑が見え隠れしており、我々はもちろん人間たちも距離を置いているという始末。
マンションを取り巻くいつも通りの日常を確認すると、わたしは商売道具を詰め込んだ鞄を抱えて約束の時刻に遅れないように部屋を出た。
地下鉄から5駅ほどのところにあるシャロンの事務所。普段は
わたしは長らく人間と共に生活をしてきた経緯があり、その縁もあって探偵業を継いだというわけだ。そうでなければ『人間臭い』探偵などには……。
事務所の前に着いたわたしは呼び鈴を押さず、監視カメラを見つめる。これが合図であり、わたし流の手順ともいえる。カメラが認証さえすれば扉は自動で開く仕組みだ。
「エレク、今日もぴったり時間通りね。
……たまには遅れてくるくらいの人間臭さがあってもいいのに」
わたしは彼女の人間臭さが嫌いではない。
つづく
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